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「よく来た!」
 
 謁見の間。
 そこは王に面会できる場。だが誰もが入れるわけでは無い。王の許しを得た者だけが入れる場だ。

 その部屋の最も高座で、王は立派な椅子に座り、その威厳たっぷりの声を響かせるのだった。

「今日集まってもらったのは他でも無い、両家の婚約に関する話で……」
「ほえ~、さすが王様、立派な服着てるわ~(パ~リポ~リ)」
「そうだなあ、私も着たいものだ。あ、ポリアナ、その菓子私にもくれ(ポリポ~リ)」

 そのはずなんだけど……

「ゴホン!え~それではワリアス侯爵、婚約解消申請の書類を……」
「はい、こちらに……」
「いいわねえ、あの椅子。玉座って言うのかしら?立派だわあ。ボルちゃん、このクッキーも美味しいわよ(バリットボリット)」
「うんうん、私もいつか座りたいものだ。お、そうかそうか(バリリンボボリン)」

 ……うん、おかしいよねその効果音。普通バリボリだよね。

「……うおっほん!え~あ~うん……ベルシュト伯爵、そちはこの書類を確認の上、サインを……」
「はい、それでは確認させていただきます」

 ベルシュト伯爵ってのは私のお父様です。念のため。

「あ~やっぱ狙うならトップよねえ。この国、王太子居なかったっけ?ちょっとお~何か飲み物出ないの~?」
「王太子は既に結婚されてる。と言うか独身だったらどうするつもりだったんだポリアナ、浮気は泣くぞ。……全くだ、茶の1つくらい出んのか、気が利かんな」

 婚約者が居ながら浮気したんはどこのどいつだ。そして出るか、茶など。遊びに来たんちゃうわ!

 てか王様困ってませんか!?

「ああ!カーペットに菓子屑が……あああ、ワシお気に入りのおお……!」

 泣きそう泣きそう、王様泣きそう!

「陛下、書類にサイン致しました」
「え、あ、うむ。では双方、何か申し分があれば……」
「はいは~い、ポリアナちゃんは可愛いって事は言っておきたいで~っす!あ、手が汚れた、何か無いかしら」
「そうだそうだ、そして私の真の婚約者に相応しい!ポリアナ、そこで拭いたらいいんじゃね?」
「ああああ!それナプキンちゃう!ワシお気に入りのカーテンんんん~~!!」

 誰かー!王様が泣いてますよー!早く王様にハンカチとティッシュを!

「あれは止めた方がいいのか?」
「王様泣いてますし止めた方がいいんじゃないですかねえ、お兄様」

 あ、ハリー様の拳骨が落ちた。
 アレは痛い、二人とも床にうずくまってるし。

「あれ痛いよなあ」
「そうですわね、以前私達揃ってくらいましたものね」

 あはは~!

 て笑ってたらお父様から拳骨もらった。痛い。

「う、う、ぐす……シミになってる、落ちるかなこれ……むおお!大体お主は何なのだ、ピンク色!」

 王様まだ泣いてるし。涙拭け鼻水拭け威厳どこいった。

「は~い!桃色がセクシーなポリアナちゃんでーっす!」
「そして私の婚約者です!」

 ハリー様の拳骨からの立ち直り早いな!
 精神強すぎだわこのコンビ!バカップル!

「ポリアナとかいう娘!そなたがボルドランを誘惑した悪女だな!?」
「あく!?いえいえ、私はむしろ聖なる乙女、清き乙女、聖女に相応しき乙女でございます!あ、アイス落とした」
「い~やあぁぁぁ!!!」

 なぜにアイス持ってんだ、どっから出したそれ、アイスはやめとけアイスは!王様床に突っ伏して泣き喚いてるじゃないか!

「ミラ、問題はアイスではないと思う」
「そうですか?」

 呑気にお兄様と話してる私は完全に傍観者です。もうね、あのバカップルに突っ込むの疲れた。王様頑張れ。

「ええい、もう許さぬ!ボルドラン!貴様伯爵家と我が王家との関係を知っておりながら何という事を!それ相応の罰は覚悟しての行動であろうな!?」
「罰!?え、ミライッサは王家の敵なのでは!?」
「なんじゃそれは、そんなわけがあるか!ミライッサは伯爵家の中でも特に重要人物!国にとって超重要人物なのだぞ!」
「鳥獣用?鳥でも飼ってるんですか?」
「あほかああああ!!!!」

 ええアホです、ボルドランはアホなんです。王様がだんだん可哀そうになってきた。なんか目から汗が止まらないご様子。

「ワリアス!おぬしらの父は何も説明しておらんのか!?」
「いえ、父上は我ら兄弟三人にちゃんと説明されてから引退されました。そこの愚弟が聞いてなかっただけです」
「あほかああああ!」

 もう一度叫びたいの分かる!すっごく分かる!頑張れ王様!うなだれてる場合じゃないよ!

「もういい、分かった……」

 そこで何かを悟ったのか。
 王様はゆっくりと……ユラリと揺らめきながら立ち上がった。

「お、王様……?一体ミライッサは……伯爵家は、王家とどのような関係なのですか?ミライッサが鳥獣用って何の鳥用なんですか?」

 もうお前黙れ。

「もうお前黙れ」

 あ、王様と意見が合った。

「ボルちゃん、きっとハゲタカですよ。ほら、王様の頭……王冠に隠れて見えにくいですけど、王冠のピカピカ同様に頭頂部がピカピカ光ってる。あの頭で飼うとなればやっぱりハゲタカしかないと思います」
「なるほど!ポリアナは賢いなあ!」

 ……うん、馬鹿コンビは今日で終了じゃないかなと思いました。


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