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「ミライッサ、ボルドランと婚約解消するんだって?」

 帰宅後自室でくつろいでいたら、扉をノックする音。そして入って来た人物は、開口一番私に聞くのだった。

「お兄様、ノックへの返答を聞いてから入ってくださいな」

 もし私が下着姿だったらどうするんですか。妹なんぞに欲情しないってか、そういう問題ではない、思春期の妹に殴られ……違った、嫌われますよ。あとお兄様の婚約者に兄はデリカシーがない駄目男って報告しますよ。大好きな婚約者様に嫌われてもいいんですか嫌ですよね。

「妹が脅迫する!」
「脅迫ではありませんよ、至極まともなお願いです」

 泣き真似する兄は放置が一番。
 私は目の前に置かれた紅茶を一口飲む。う~ん、少しぬるくなってきたなあ。

「お嬢様、熱いお茶をお持ちしましょうか?」
「それもいいけど……フルーツジュースが欲しいかな」
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」

 頭を下げて、優秀なメイドは退室していった。

「婚約解消というか……強引に破棄したいと言ってきたんですけどね」

 目の前の椅子に勝手に座る兄に今度は何も言わずに。私は事の顛末を兄に話すのだった。

 まあ当然というか。
 こめかみに青筋立てる兄が目の前に登場する、というわけですね。

「おのれボルドラン……馬鹿のくせに我が愛しの妹を振るとは……身の程知らず甚だしい!馬鹿のくせに!」
「まあ馬鹿ですからね、こんな馬鹿な事できるのも馬鹿だからなんでしょう、馬鹿のくせに馬鹿だから馬鹿でしょう馬鹿なんです」
「何活用だそれは」
「馬鹿活用ですね」

 とりあえず馬鹿と付けておけばそれ即ちボルドランとなる。
 そんな日も近いかもなあ。

「我が家は確かに格下の伯爵家だが……表向きはそうだが、その実態は……あの馬鹿は知らないのか?」
「知らないんじゃないですかね?」

 どう考えても真実を知ってるとは思えない傍若無人な振る舞い。
 あれはきっと『真実』を知らないんだろう。誰も教えてないのだろうか?

 知ってるべきことを知らないボルドランに首を傾げたが。

「まあ馬鹿ですからね」
「そうだな、馬鹿だからな」

 全て馬鹿で片付くのだった。

 不意に、扉をノックする音がした。

「どうしたの?」
「お嬢様にお客様です」
「──そう。早かったわね」

 客の名前は告げられていない。
 だが誰かなんて容易に想像できる。

 私はゆっくり立ち上がって、兄と共に客間へと向かうのだった。




※ ※ ※




「ミライッサぁぁ!見よ、この傷を!」

 ウンザリしたくなるくらいに大きな声で私を呼ぶのは……もういいよね、なボルドラン。

 いつも通りの学園で、彼は今日は階段手すりを指さしていた。

 私は額に手を当てながら、一応聞く。

「今度は何ですか、ボルドラン様」
「聞いて驚け見て驚け!この傷はポリアナが落ちかけた時に付いた傷だ!」
「ああ、あの階段から落ちかけた事件」
「そうそうそれだ!別名ミライッサがポリアナ突き落としちゃった事件だ!」
「酷いセンスの別名ですね」
「誰が聞いても分かるようにだ!」

 誰が聞いても嘘くさいわ!

 は~とため息ついてたら、ライラに肩を叩かれた。
 その豊満な胸に顔をうずめて泣きたい。怒られるからやらないけど。

「何度も言いますが、私はそのような事はしてません。婚約破棄は承諾しましたでしょう?もういいじゃないですか」

 ウンザリした顔で言ったら。すんごい情けない顔で見られてしまった。なんだその顔は。笑って欲しいのか。

「しょ、しょ、しょ……!」
「ショートカット」
「ショートケーキ」
「ショートアッパー」
「しょーもない」
「「「ミラ、さすが!」」」

 しょ、しょ……ってボルドランが言うから。
 友人二名とライラが彼の言おうとしてる事を当てようとしたのだが、どうやらハズレだったので最後に私も言ってみた。ら、友人達に褒められた。さんきゅーさんきゅー!

「しょーもなくないわ!」

 キャッキャ盛り上がってたら、顔を真っ赤にしてボルドランが手すりをバンッと叩いた。
 
 ──叩いて、手を押さえながらうずくまった。大丈夫ですか?頭が。

「しょ、承諾したって承諾したって……!私との婚約が無しになってもいいのか?」
「構いませんと何回言ったら分かるんですか」
「嘘だろ!?」
「本当です!」
「マジ!?」
「大マジ!!」
「嘘だああっ!」

 何なんですかもう!

「ポリアナさんがいいんでしょ?だから私と別れたいんでしょ?」
「ま、まあそうなんだが……」
「だったらいいじゃないですか。何が問題なんですか」
「泣いて縋ってくるだろ!?」

 まだ言うのかそれ。
 ウンザリというより、いい加減憐れになってきた。

「泣いて縋りません。あとポリアナさんを突き落としてもいません」

 どっかにいってしまった階段突き落とし事件の話を戻して否定しておいた。

「嘘だあ……私のこと、好きだったくせにぃ~」
「いつどこで誰が何とどうしてそうなった」
「あらミラ、それ何かのゲームに使えそうですわね!」
「いつどこでゲーム!いいですわね、いいですわね!」

 またも友人達とキャッキャ盛り上がってたら。

「ゲームとか言うなあぁ!!」

 また手すりをブッ叩いて手を押さえてうずくまるのだった。

 ほんと、大丈夫ですか?

 頭が。



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