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「あれは何だ!?」
「ぎゃあああ!やめろ、やめてくれ!」
「いやあ!助けて!助けてえぇぇ!!!!」

 あちこちから聞こえる悲鳴。助けを求める声。
 だがかなわない。願いは届かない。

 空を真っ黒に覆い尽くすもの──それは魔物の大群であった。

 繁殖期の魔物は、栄養を必要とする。
 栄養……魔物にとっての最高の栄養源は……言うまでもなく、人間だ。だからこそ、この時期の魔物は凶暴で危険で……結界は強力なものにする必要がある。そのせいで最近はちょっと疲れ気味だったのだけど。

「は~、結界解いたから、体が楽になったわあ……」

 解放感に体を思い切り伸ばして、私は呟いた。その呟きを聞きとがめたのか、私に触れようとして……弾かれる愚か者が目の前に倒れ込んだ。

「あらシンディさん、私の体には結界が張ってあるから。触っては危険よ」
「な、何を……!」
「何をって。聖女の本気を見せろと言うから見せてるのだけど?」

 そう言えば、キッと睨み叫ぶ。

「これのどこが聖女の本気よ!?聖女なら早く結界戻して国を守りなさいよ!」
「あらやだ、貴女が本物でしょ?だったらシンディさんが国を守ったらいいじゃない」
「ふ、ふざけないで!」
「ふざけてませんよ、私は本気です。本気見せろって言われましたから」
「いいから早く結界を──」

 ああうるさい。
 鬱陶しくなったので、シンディの喉もつぶした。汚い声を最後に、シンディは黙り込んだ。やれやれ。

 周囲を見回せば、そこは既に地獄と化していた。
 逃げ惑う民衆に、容赦なく魔物は襲い掛かる。

 王を守ろうと必死な騎士たちは、けれどもう死にかけの王を守る余裕は無い。王妃は……あれ、居ないな。あ、居た、魔物に掴まれた状態で空飛んでるわ。お達者で~。まあすぐに食べられちゃうだろうけど。

 繰り広げられる地獄絵図を満足に見渡した私は、ゆっくりとその人に近付いた。
 喉がつぶれ、声が出せなくなった王太子クリス。そして真の聖女とやらのシンディに。
 へたり込む二人の前に座り込んで、私はニッコリと微笑んだ。涙と鼻水でグシャグシャの二人、お似合いですねえ。

「いかがですか?これが聖女の本気です。本気になれば、魔物を国に招く事も出来ますし、病を蔓延させる事も出来ます。ご満足でしょうか?」

 まあ本来なら、この聖女の能力は逆に使うんですけどね。
 今は私だけを守る結界に全力を費やしてます。

「このような酷い状態でも、結界を張った私だけは無傷で生き残れます。どうです、聖女の力凄いでしょ?」

 その言葉に、必死でコクコクと頷いている。

 口パクで「助けてくれ」と王太子は訴えてくるのに対し、ニコリと笑みを返した私は立ち上がった。それを目で追う二人。
 どこに行くのか。
 きっとそう問いたいのだろう。

 それに対して私はまた微笑んで。

「頑張ってくださいね、シンディ聖女様。偽者の私は大人しく国を去りますので」

 そう言って、私は祈った。
 祈る私の姿は──徐々に薄くなる。別の場所への移動が開始されたのだ。

 それを悟ったのだろう、真っ青になって縋りつこうとする王太子は──けれど結界に弾かれて、また倒れ込んだ。学習能力無いのかしら?

 呆れて見つめる私の目に。
 この場を去る私の目に映ったのは。最後に見たのは。

 巨大な魔物が王太子達に襲い掛かる、まさにその瞬間。

 続きを見れないのを残念に思いながら、私はその場から消えるのだった。



***



 数日後。
 とある国で新しい生活を始めた私に、某国が滅びたニュースが届くのだった。

 それを耳にした時、私がした事は──うっすらと笑みを浮かべる事だけだった。





【 本物の聖女なら本気出してみろと言われたので本気出したら国が滅びました(笑 】




 ~fin.~




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みんなの感想(14件)

ねこのたま
2024.11.11 ねこのたま

久々に凄くすっきりのざぁまでした。王子だけでなく偽聖女も散々な目に合えばいいよねぇ。魔物に食べられて一瞬で終わりじゃない感じでね。

解除
pajan
2023.11.23 pajan

なかなか良い感じの『ざまぁ』でしたね。
本来の恩恵を忘れた屑のゴミ共の末路はかなり笑えました。
もう少し残虐なイメージを入れても、良いんじゃ無いかと私は思います。
本当の話でなんちゃって『ざまぁ』はもううんざりです。
胸焼けがするうえに、なんでここまで読んでしまったのか後悔するばかり。
まぁ、読者の方が想像力の方が著しく欠けているせいだと思いますが、簡単に言って自身の投写できないからですね。

解除
太真
2022.01.13 太真

楽しい‼️あっさり滅ぼすよりじわじわと後悔に泣き叫ぶでも良かったかもふふふふふ(ФωФ)。

リオール
2022.01.18 リオール

ありがとうございます!
ふふふ、あっさり過ぎましたかねえ( ̄ー ̄)ニヤリ

解除

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