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貰ってくれてありがとう(2)
しおりを挟む「あんな難しいの覚えられない!それに凄く厳しいし!そもそもガザニア様はうちの婿養子になるんでしょう!?どうして王城で花嫁教育があるのよ!」
さすがにあの厳しい教育係の前では、アイリスの美しい容姿をもってしてもどうにもならなかったようだ。
「それにそれに!どうしてお父様の仕事の手伝いまでしなくちゃいけないの!?あんな難しいこと分かるわけないじゃない!!」
「だってガザニア様と結婚するってことは、後継となるガザニア様の妻となるって事よ?家の仕事、把握しておくのは当然でしょ?」
「お母様は何もしてないじゃない!」
「それは私が引き継いだからよ。お母様が本来していたお父様の補佐を、私が引き継いだの。でもガザニア様の婚約者は貴女になったのだから、貴女がやるのが当然でしょう?」
「そんなあ!」
あー可笑しい。私は大声で笑いたいのをこらえながら、ポンとアイリスの肩に手を置いた。
「まあ仕方ないわよ。だってガザニア様の妻となるんだから」
「……!じゃあ要らないわ!ガザニア様の婚約者の座、お姉様にお返しします!!」
「残念ながら私は既に売約済みとなりました。それにそう何度も婚約解消できるわけないでしょ?ガザニア様にも立場ってものがあるんだから」
「え?ば、売約済みって……それって……?」
驚いたように目を見張る妹に、私はニッコリと微笑んだ。
スッと読みかけの本を手に持つ。
「これね、とっても面白い本なのだけど、実はとある貴族の男性が書かれてるの。わたしその方に何度もファンレターを送っててね、先日初めてご本人にお会いしたわ。彼がまだお若くてお相手もいらっしゃないと聞いて……恥ずかしながらアタックしてみたの」
「そ、そしたら?」
「婚約したわ」
「展開早すぎない!?」
そんなことないわよ。貴女だってガザニア様とあれよあれよと婚約したじゃない。
私は壁にかけられた時計を見て、慌てて立ち上がった。
「ああいけない、もうすぐ愛しの婚約者様が来られるんだったわ」
「え?え?え?」
「アイリスは勉強を放ってきたんでしょう?早く王城に帰りなさいね」
「え……お、お姉様」
戸惑う妹の背中をソッと押す。
が、なかなか動かないので力を込めて押した。こう……グググッとね。
だが必死で踏ん張るアイリス。頑固ね貴女も。
仕方ないと私は押すのをやめ、その顔を覗き込み、ニッコリ微笑んだ。
「私の新しい婚約者様、平凡な私のことを可愛いと言って下さったの。以前から夜会で私のことを見かけてたんですって。驚いたことに、横にいたアイリスは眼中になかったみたいで、覚えておられなかったわ」
「え!?」
それこそが彼にアタックした最大の理由。
人の好みは千差万別。
大勢の支持を得ることが出来るのはアイリスのような美しい容姿なのだろうけれど、中には興味ない人だっているの。
むしろ私のような平凡な顔が好きだと言ってくれる人だっているんだ。
──なんだか複雑な心境になるので、深くは考えないでおくけど。
「あの方と婚約できたのも、アイリスがガザニア様との婚約を望んでくれたからね」
「お、お姉様、あの……私……」
「ガザニア様、ちょっと無能でお仕事できなさそうだから、きっと侯爵家はこれから大変でしょうねえ。まあ私には関係ないけど。頑張ってねえ、アイリス」
「え!?あ、や、やっぱり婚約は無しに……」
「でもいいわよね、ガザニア様はアイリスに夢中なんですもの。あなたが侯爵家の仕事をして、ガザニア様はアイリスを愛してくれる。まあなんて素敵な関係!」
「ええ!?てっきり私は楽できると……」
「何もしなければ侯爵家、つぶれるわよ?」
半分脅し、半分本気で言ったらアイリスは泣き出してしまった。
欲しいと言ったのはあなた。
あなたの望みを皆が叶えた。
幸せでしょ?
幸せよね?
私も幸せよ。
アイリスの背中にそっと手を当てて、私は彼女の耳元にそっと囁くように言った。
「ありがとうアイリス。ガザニア様を欲しいと言ってくれて。あんな不良物件を貰ってくれて……ありがとう」
絶句するアイリスにもう一度微笑みかけて、その背中を押した。
今度は抵抗はなく、アイリスは泣きながら部屋を出て行く。
それを見送って私は準備を進めた。
愛しの婚約者様を出迎える準備を。
幸せな時間のために、その準備を。
そして間違いなく、私は幸せな時間を過ごすこととなる。
~fin.~
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これはいいざまぁですね☆
ありがとうございます、嬉しいです!😄
面白かったー
ありがとうございますー!😊
完結お疲れ様です💐
面白かったです💐
これからアイリスは、苦労すると思います。しかも、侯爵家は没落して行きそうです。
マーガレットは、アイリスが気づく前に新しい婚約者を見つけれて良かったです😌お幸せに❗
お返事大変遅くなり申し訳ありません💦
人のものを横取りして幸せになれるわけないってことで。妹は頑張らずに楽できると思うのが間違ってますね。