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どうか欲しいと言って(2)

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「ねえお姉様」

 考え込んでいたら突然声をかけられ、私は顔を上げた。

「なに、アイリス?」
「ガザニア様って本当に素敵よね」

 きた。
 私は期待に胸を膨らませる。
 次にアイリスが何を言うのか。それを期待して待った。

「私、ガザニア様が欲しいわ。彼と結婚したい」

 心の中でグッとガッツポーズするが、表には出さずに淡々と表情を保つ。
 私は苦笑を漏らした。

「もう、アイリスったら。何を言ってるの、ガザニア様は私と婚約してるのよ?」
「そうだけど、同じ侯爵家なんだから私でもいいでしょう?ねえお姉様、ガザニア様を私に頂戴」

 王子本人を目の前にして、よくそんな事が言えるなと呆れる。
 呆れるが、本音としては期待通りすぎる言葉に笑いが漏れそうだ。必死にこらえた結果、私の顔は無表情となる。

「そんな簡単に婚約相手は変えれないのよ?」
「どうして?私だって王子様と結婚したいわ。ねえお姉様、ガザニア様を頂戴ったら頂戴」

 愛しくも愚かな妹に、あくまで困ったわね、といったスタンスを貫いていたら、それまで黙っていたガザニア様が口を開いた。

「アイリス……僕のことが好きかい?」
「好きよ!」
「そ、そうか」

 即答にガザニア様の頬が緩む。必死に引き締めようとしてるようだが、それは成功してないと言えよう。

 馬鹿ね。
 アイリスが好きなのはあなたの肩書きだけなのに。
 王子でなければ、おそらくアイリスはガザニア様との結婚を望まない。
 なんの身分もなかったとしたら、絶対に彼を選ばない。

 だって見てきたもの。
 子供の頃から散々見てきたもの。

 ガザニア様は、アイリスの好みのタイプと真逆だから。

 それにしても、と私は思う。
 アイリスは分かってるのだろうか。

 ガザニア様は確かに今の時点では王子様だ。
 王子様ではあるが、王にはならないのだ。次期王は第一王子と決定している。
 その補佐となるならまだしも、ガザニア様は王家を出る。なぜって?残念な人だからだ。
 王立学園での成績は下の下。
 文武両道の真逆ってなんて言うのかしら?
 ……あ、無能か。

 マナーの授業も嫌い、その所作は王族とはとても思えない。今も顔を赤くしながらクッキーを貪っている。その様は実に醜い。一応整った顔をしてるけれど、それがますます残念さを際立たせていた。
 王家もその扱いに困ってるのだろうな。
 ハッキリ言って厄介者を追い出したいからこそ、男子の居ないうちと婚約させたのだ。
 つまりは厄介払いというやつ。

 その残念さを当人は理解してないし、アイリスも同じく理解していない。

 王家を出れば、ガザニア様は王子では無くなる。
 王家の血筋を持ち、関係はあるが王族ではない。
 侯爵家に養子として入り次期侯爵となる。アイリスが求めてやまない王子様では無くなるのだ。
 それをアイリスはちゃんと理解出来てるのだろうか?

 きっと理解できてないのだろうな。
 完全にお花畑脳となっている二人は、そこに無いはずの花を咲かせてウフフアハハと笑いあい、私は一人シラ~っとなるのであった。

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