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第三話 女子高生とクラスメート
3、
しおりを挟む玄関ホールに響き渡る声。反響してどこから聞こえたのか分からずキョロキョロしていると、リュートと呼ばれた少年が上を見ていることに気付いた。
つられて見上げた私の目に映ったのは──
お人形。
──のように綺麗な少女だった。
リュートと呼ばれた少年と同じくらいの……おそらくは10歳くらいと思われる少女。
けれどその顔は、けして日本人とは思われない容姿に、年齢は分かりにくく思わせる。
金髪碧眼、色白で可愛らしい顔立ちの美少女。
お話の世界に出てくるお姫様のような顔をした少女は、真っ白なワンピースの裾をフワリとなびかせて、二階から降りてきた。
タタタッと駆け寄って来たかと思えば……ガシッ!と少年に抱きついたのだった!
あら可愛い……なんて微笑ましい目で見ていれば。
バッと少女は体を離して、おもむろに……少年の頬をギュッとつねった。
「遅い!」
「申し訳ありません、リアナ様。ちょっと野暮用で」
「ヤボもユボも無い!スイーツは!?」
「ユボって何ですか……はいはい、こちらに有りますよ。深夜でしたのであまり有りませんでしたが。どうにかケーキは死守しましたよ」
「ケーキ!イチゴある!?」
「いや、チョコケーキなんですけど」
「それで充分よ!早く頂戴!」
「じゃあお部屋にお持ちしますから、お部屋で待っててくださいね」
こんな深夜──時計を確認すれば、もう1時だ──に、こんな子供が起きてるのも問題だが(それを言うなら、子供がコンビニに買い物行く事自体が大問題だが)、ケーキなんて甘いものを食べてもいいのだろうか。
よその家庭、それも知らない家の事情に首を突っ込むのは良くない事だが、それでも親は何も言わないのだろうかと心配になってしまう。
だが、この屋敷に入って感じた違和感。
それは今とてもハッキリしていた。
そう。
何の気配も感じないのだ。
虫や動物の気配は元より──人の気配が皆無だったのだ。
こんなに大きなお屋敷だというのに。
通って来た庭は広大だったが綺麗に手入れされていた。
屋敷内だって綺麗にされている。花だって活けられている。
だというのに、目の前の二人以外に誰か居るとは思えないのだ。
不思議に思って、聞いてもいいのだろうかと思いながら、結局私は口を開く事は出来なかった。なんだか聞いてはいけないような、聞けないような雰囲気を感じたから。
そうしてあーだこーだと話す二人を見つめていたら。
「それでは」
と言って、少年は立ち去って行ったのだった。おそらくはケーキと紅茶か何かを用意しに。
「早くしてよね!」
そして少女はまたも二階へと向かい始めてしまった。
え、どうすればいいのこれ?
私はこのままここで突っ立ってればいいのだろうか?
やはり子供の言う事なんて聞くべきではなかったのかもしれない。
とっとと帰るべきだろうか……そう思い悩み、玄関扉へ向かおうと足を動かした瞬間。
声がした。二階から。
「ちょっと、何してるのよ?」
お嬢様と呼ばれた少女だった。
てっきり部屋に戻ったものだと思っていたのでギョッとして見上げれば、その青い瞳とぶつかった。青い目が真っ直ぐに私を射抜く。
思わず言葉を失って動けずに居る私に、少女は顎をクイッと動かした。
「早く来なさいよ」
それはつまり彼女に付いて来いという事なのだろう。
一瞬どうしようかと逡巡したが。
私が付いてくるのは当然であるかのように、少女は歩き出した。
迷いは一瞬。
私はすぐに足を動かした。
外へと通じる扉へ向かってではなく、少女を追いかけるべく二階へと。
帰るという選択肢は、とうに消えていた──。
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