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天狗大戦争
旧町役場へ
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アマネ、野沢、太郎坊、眷属達が旧町役場前に降り立った。野沢の腕時計は十六時四十分を指している。
「ほう。斯様な廃屋に件の組織が雲隠れしとるのか」
太郎坊が髭をいじる。皆はアマネの後ろについてぞろぞろと歩みを進めた。
「こ、ここは立入禁止ですよ!? 警察を呼ばれたいんですか!」
目算、三十人ほどの天狗が横に大きく広がっているのを見て、警備員が慌てて駆け寄ってきた。ちなみに人間から天狗になったわけではない太郎坊は姿を消すことも可能だったが、あえて姿は隠さなかった。
「退け、人の子よ」
太郎坊が宙で腕を薙ぐ。警備員の身体がくの字に曲がって、遥か遠くの車道まで吹き飛んでいった。ごろごろとアスファルトの上を転がった後、ぐでんと伸びたのが遠目からでも分かった。
「手が荒いぜ……おとっつぁん」
アマネが険しい顔を浮かべた。
「こちらは家族を殺されているんじゃ。それに時間も余り残されていないでな」
そう言って今度は、旧町役場の入口周辺を神通力でブチ壊した。木の砕ける音が辺りに鳴り響き、分度器のような半円状の穴が出来上がっていた。
「こいつぁ……クレイジーだな」
「じゃかましいわボケ!」
「ちょっとやめてくださいお父さん!」
「誰がお父さんじゃボケ!」
野沢が言葉を発する度に、太郎坊は地面の砂を掴んで野沢に投げつけた。
「大人気ねえからやめてくだせえよ……おとっつぁん」
「そもそも大人じゃねえ。儂は天狗じゃ。ほれ、ぐずぐずしとらんで! とっとと行くぞ!」
ずんずんと太郎坊が先導し、その後ろを眷属達が付いていく。人間界の社会で人間として生きていく為に、常日頃からあの手この手と策を講じているアマネと野沢にとって、太郎坊の所作には肝が冷える一方だった。
「お前の父親、絶好調だなおい」
「すまんね。感情的になると周り見えなくなるところがあるんデスヨ」
「ああ。お前そっくりだわ」
「これは私も砂を投げつけるところだよな?」
「いや、もう勘弁してくれ。こんな時に砂まみれとかどんな罰ゲームだよ」
「ぬう!」
と、前方から呻き声が聞こえた――のも束の間、アマネと野沢は正体不明の衝撃波をモロに食らい、アスファルトの車道まで吹き飛ばされた。二人はなんとか膝を立てて、転倒だけは免れる。すぐ傍には先ほどの警備員が伸びたままの姿でいた。よく辺りを見渡してみると、太郎坊と眷属達も二人の近くにいた。アマネが声を掛ける。
「何が起きたんだ、おとっつぁん」
「儂らを近づかせないための結界じゃろう。ちょっとやそっとじゃ壊せねえ強固なもんだなこりゃあ。さてどうしたものか」
野沢とアマネの焦りが増す。
「おい……鳳仙達は無事なのか?」
「さすがにここまで先手を打たれると不安だな。テラスちゃんに助けを乞うか?」
アマネの言葉を聞き、咄嗟に野沢が携帯を耳に当てた。戦力ではこちらが圧倒的にも関わらず、結界一つで足止めされてしまうというのは非常にもどかしかった。
アマネは思わず胸へと手のひらを置いた。
「ほう。斯様な廃屋に件の組織が雲隠れしとるのか」
太郎坊が髭をいじる。皆はアマネの後ろについてぞろぞろと歩みを進めた。
「こ、ここは立入禁止ですよ!? 警察を呼ばれたいんですか!」
目算、三十人ほどの天狗が横に大きく広がっているのを見て、警備員が慌てて駆け寄ってきた。ちなみに人間から天狗になったわけではない太郎坊は姿を消すことも可能だったが、あえて姿は隠さなかった。
「退け、人の子よ」
太郎坊が宙で腕を薙ぐ。警備員の身体がくの字に曲がって、遥か遠くの車道まで吹き飛んでいった。ごろごろとアスファルトの上を転がった後、ぐでんと伸びたのが遠目からでも分かった。
「手が荒いぜ……おとっつぁん」
アマネが険しい顔を浮かべた。
「こちらは家族を殺されているんじゃ。それに時間も余り残されていないでな」
そう言って今度は、旧町役場の入口周辺を神通力でブチ壊した。木の砕ける音が辺りに鳴り響き、分度器のような半円状の穴が出来上がっていた。
「こいつぁ……クレイジーだな」
「じゃかましいわボケ!」
「ちょっとやめてくださいお父さん!」
「誰がお父さんじゃボケ!」
野沢が言葉を発する度に、太郎坊は地面の砂を掴んで野沢に投げつけた。
「大人気ねえからやめてくだせえよ……おとっつぁん」
「そもそも大人じゃねえ。儂は天狗じゃ。ほれ、ぐずぐずしとらんで! とっとと行くぞ!」
ずんずんと太郎坊が先導し、その後ろを眷属達が付いていく。人間界の社会で人間として生きていく為に、常日頃からあの手この手と策を講じているアマネと野沢にとって、太郎坊の所作には肝が冷える一方だった。
「お前の父親、絶好調だなおい」
「すまんね。感情的になると周り見えなくなるところがあるんデスヨ」
「ああ。お前そっくりだわ」
「これは私も砂を投げつけるところだよな?」
「いや、もう勘弁してくれ。こんな時に砂まみれとかどんな罰ゲームだよ」
「ぬう!」
と、前方から呻き声が聞こえた――のも束の間、アマネと野沢は正体不明の衝撃波をモロに食らい、アスファルトの車道まで吹き飛ばされた。二人はなんとか膝を立てて、転倒だけは免れる。すぐ傍には先ほどの警備員が伸びたままの姿でいた。よく辺りを見渡してみると、太郎坊と眷属達も二人の近くにいた。アマネが声を掛ける。
「何が起きたんだ、おとっつぁん」
「儂らを近づかせないための結界じゃろう。ちょっとやそっとじゃ壊せねえ強固なもんだなこりゃあ。さてどうしたものか」
野沢とアマネの焦りが増す。
「おい……鳳仙達は無事なのか?」
「さすがにここまで先手を打たれると不安だな。テラスちゃんに助けを乞うか?」
アマネの言葉を聞き、咄嗟に野沢が携帯を耳に当てた。戦力ではこちらが圧倒的にも関わらず、結界一つで足止めされてしまうというのは非常にもどかしかった。
アマネは思わず胸へと手のひらを置いた。
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