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第五章 パラレル

第150話 マーガレット

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 あれから数日経ったが、十一夜君とは何となく気まずくてしっくりきていない。
 特に会話もなく、向こうから接触してくることもない。

 結局のところ、所詮わたしは彼にとってただの駒。そんな思いが重苦しくわたしを支配している。

 今日もそんな学校での一日を終え、帰宅しようと秋菜を待っていたら、クラスメイトと寄り道するとかで急遽独りになってしまった。
 まあいっか。独りは別にいやじゃない。
 安全面は朧さんがケアしてくれるしな。

 昇降口の靴箱から外履きを取り出そうとしたら紙切れに走り書きで「本屋で」と書いてあった。
 うん? 主は朧さんだろうけど、何の用事だろうか。別に本屋じゃなくたっていいのに。
 たまにはお茶を飲みながらとかじゃだめなのかなぁ。

 そんなことを思いつつ、言われたとおりいつもの書店に立ち寄った。
 ファッション誌のコーナーにはディセタンが並んでいて、自分の写真が載っているからパス。コミック誌のコーナーに行った。立ち読み客もいなくて都合がいい。
 朧さん、また泣かなきゃいいけど。

「朧です」

 出た。相変わらず気配を殺して突然横から声をかけてくる。
 来ると分かっているのに毎度ビクッとする。

「夏葉です」

「え、あ、はい……えーっと。報告なんですが、先日公園で接触があった男の件で」

「はい。何か新しい情報がありましたか?」

「あの時、ホームレスの男がいましたが、彼を連行した男たちと同じ車に乗り込んだそうです」

「え、ホームレスの人をMSが連れて行ったってことですよね?」

 一体何のために?
 今度は何をおっ始めようっていう気だろうか。

「肯定です。あのホームレスについて調査したところ、以前進藤洋介を拉致した男でした」

「えぇーっ!?」

 なんか軍人っぽい格好してた人だよね? あれがどうしてああなった?

「うちの圭が、警備会社に潜入したときに縛って置いてきたらしいんですが、その後失踪していたようです」

「失踪……」

 てことは、クビとかじゃなくて自らってことだよね。うーん、何があったんだろ。

「圭にやられたのがよっぽど屈辱だったのかと」

「え、そういう事情?」

「肯定です」

 いや、肯定ですって……そんなお堅く肯定されてもねぇ。リアクションに困るわ。

「あぁ。てことはあのホームレスの人を捕まえにあの公園に来たのか。じゃあ、ホントにわたしと遭ったのは偶然だったんだ」

「肯定です」

 何だ、そっかぁ。ちょっとホッとしたかな。まあ、朧さんが付いてるからそんなに心配はしてないけど。
 てかこの人さっきから肯定ですしか言ってないし。
 それにしてもあのホームレスの人、おでこに肉って書かれたのがよっぽどショックだったのかなぁ。人生嫌になるくらい?
 いや、いくらなんでもそれはないか。

「ふーん」

 まぁ、あの人はMS絡みでは危険人物だろうから、組織に戻されてまた悪いことされるのは困るなぁ。
 あのままホームレスとしておとなしくしてもらってた方が世の中のためのような気もするんだけど。

「それと、以前丹代花澄のSNSで繋がっていた登録者たちのアカウントがすべて消えた問題がありましたが」

 あぁ~、すっかり忘れてたけど、そういえばあったわぁ。そういうこともあったあった。

「すっかり忘れてましたけど、何か分かったんですか?」

「あの消えていたアカウント、今では全部復旧してます。報告によれば、一時的に特定のIP以外からは見えないように細工されていただけで、実際には消えたわけじゃなかったようです」

「え、そうだったんですか? やっぱりそれってMSが?」

「肯定です。当時、単独行動が目立つ丹代花澄は、MSから危険因子としてマークされていた疑いがあります」

「え、それってもしかして、彼女がわたしに近づこうとしていたことと関係が……?」

「恐らくですが、肯定です。あなたの女子化についてMS側には、把握している派閥とそうでない派閥があるのは確認していますから、内部でも情報漏れは避けたいところでしょう。奴らも一枚岩ではないということです」

「あ、なるほどぉ。そっか。前にMSのおじさんが接触してきた時わたしに探りを入れてきたけど、わたしの女子化についての情報を掴んでいる風ではなったですもんね。派閥が違うってことかぁ」

 そうだった。丹代さんの裏で糸を引いていたグループは、丹代さんが親に話したことから伝わって、わたしが女子化した事実を掴んでいたんだった。でもそうするとあれは、同じMSでもまたあのおじさんとは別の一派ということか。
 組織から逃げた人を捕まえたり、黛君を拉致したり、そういえばわたしも一度拉致されてたわ。あっちはあっちで危険な感じだけど、もう一方もわたしを階段で突き落とそうとしたり、鉢を植えから落としたり、相当やばそうだ。

 考えてみると、あの怪しいおじさんの方は情報を入手しようとして動いているようだけど、もう一方は正体は見せないわ危害は加えようとしてくるわ、目的も分からないしより怖い。

「それも肯定です。そして丹代花澄があなたと関わりのある同級生を集めて交流していたのは、あなたについて個人的に情報を得るためだったことが確認されています」

 あぁ~、そっかぁ。丹代さんは事情があって、女子化したわたしのことを亡くなったお姉さんの生まれ変わりだと思って、その思いからわたしに近づこうとしていたんだった。最初分からずに怖かったけど、結局は彼女に全く悪意はなく、純粋にわたしに近づこうとしていただけだった。
 でもその動きを内部で分裂している敵対派閥に察知されると困るので、彼女を拉致したりといった強硬手段に出ていたわけだ。

 どっちにしろMSってろくでもない連中だということは間違いない。
 そこにさらにややこしい兎一派が絡んでいるわけだ。

「朧さん、改めて警護よろしくお願いします」

 深々と頭を下げた。個人としては全く非力な今のわたしにはこの人が頼りだ。

「お任せください。自分の命に変えてもお守りします」

 う、それもちょっと重過ぎるんですが。

「ハハハ……ご自分の命も大切にしてくださいね、お願いですから」

 すると朧さんはこちらを見ることなく、ただ黙って目の前の別冊○ーガレットを手に取りそっと呟いた。

「了解です。『きよく、や○しく、もど○しく』の続き、まだ読まないといけませんからね」

 そのまままたしばらく熱心に少女漫画に読み入る朧さんなのだった。
 ホント好きだよね。
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