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第五章 パラレル
第145話 親戚ショック!
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「夏葉ちゃーんっ」
朝っぱらから泣きそうな顔した友紀ちゃんが縋り付いてきた。何事だ、揉みもしないで。
もちろん揉まれたいわけじゃあないけども。断じて。
「どうした、友紀ちゃん?」
「聞いてよぉ~。あのね、何とあのピンデスがメジャーデビューだって!」
「え、ホントに!?」
ピンデスっていうのは友紀ちゃんお気に入りのバンド、The Ping of Deathの略称で、この桜桃学園の先輩がやっているバンドのことだ。
以前、そのバンドの渡瀬先輩からチケットをもらって友紀ちゃんとライブ観戦したことがあった。そのライブでちょっとした事故があって大変な目に遭ったんだけど。
そう言えばあの時、十一夜君は亡くなった桐島さんとデートでライブに来てたんだっけな。
「ちょっと。夏葉ちゃん? 遠い目になってる。もしもーし?」
「え、あ。ごめーん。あ、そぉ。へぇー、メジャーデビューかぁ。凄いね」
「でしょ! あーん、CD出たらサインしてもらえないかなー」
身悶える友紀ちゃん。ほんと好きなんだねぇ、ピンデスのこと。私は別にいいかな、サインは。メジャーデビューは確かに凄いと思うけど。ふーん、メジャーデビューかぁ。あれから相当頑張ったんだねぇ。
「あぁ、渡瀬先輩と顔見知りになったんだからお願いしてみたらいいじゃん」
結局PVとかに勧誘されてたの有耶無耶にしてしまったけど、正解だったわ。
メジャーデビューなんかしたらインディーズ時代の作品も掘り起こされて世間に名が知れてしまうもんね。モデルの仕事だけでも悩ましいというのに。
あ、そう言えば柵の話。きちんと考えておかなきゃなぁ。うーん。
こうして私の頭の中は直ぐににピンデスからは離れてしまったのだが、友紀ちゃんはその後も日がな一日ピンデスのメジャーデビューに心を奪われてポンコツ状態だった。
昼休みにはCDにサインもらいに行くと大騒ぎしていたが、肝心のCDはまだ出ていない。ポンコツ振りにも程があるよ全く。
そんな様子の友紀ちゃんはほっといたって授業は進むし放課後はやってくる。
鞄に教科書やノートを仕舞って帰り支度をしていると、前の席の十一夜君が珍しく声をかけてきた。教室内では挨拶くらいで滅多にこんなことはないのに。
「華名咲さん、一緒に帰らないか」
え、ちょ。ここでいきなり誘う?
案の定、周りにいたクラスメイト達の注目を集めてしまう。特に友紀ちゃんと楓ちゃんときたら勝手に二人で視線を交わし合いながら盛り上がっている様子が手に取るように分かってしまう。
「うん、いいよ」
多分何か用事があるのだろう。大方新しい情報を掴めたとかそういう類か。
周囲の熱い、いや暑苦しい視線をスルーしてできるだけ普通に返して帰宅の用意を進めた。
「用意できたか? じゃ、帰ろうか」
「うん」
教室を出るまでクラスメイトたちの好奇の目に晒されたが、それは無視して二人で昇降口へと向かう。
「新しい情報でも掴んだの?」
「まあな」
出た、いつものやつ。
「珍しいね。いつもだったらタイミングずらして落ち合うようにするのに」
「まぁな」
「答えになってないんですけど」
「……別に。何となくだよ、何となく」
「ふーん……変なのぉ~」
「まぁな」
「ぷっ、何それ。ウケる」
おかしな人だよ、十一夜君。これで元女子とか。どう見ても不器用男子そのものじゃん。
門を出ると、いつもならどこかに隠したバイクを取ってくる彼だが、今日はそうではないようだ。そもそもこの人無免許だけどね。
「今日はちょっと歩かないか?」
「ほぉ、いいよ。いろいろ珍しいね、今日は」
「まぁな」
「ふーん」
「何となくだよ、何となく」
「ふーん」
そんな調子で最寄りの駅周辺までぼちぼち歩いて適当なコーヒーショップに入る。
いつものように十一夜君はおやつというボリュームではないくらいの量を注文している。私はお茶と焼き菓子を受け取って二人とも席に着く。
「聖連もじきに来ると思う」
「聖連ちゃん、久しぶりに会えるんだ」
あの天使のような(しかしハッキング時はどう見ても悪魔のようだが)聖連ちゃんに会えるのは嬉しい。それにしても聖連ちゃんも来るということは、結構重要な情報が出たのかもしれないな。
十一夜君は相変わらずの食いっぷりでむしゃむしゃやってる。誘っておいて私のことは放置ですか。
「お、お待たせしましたぁ」
心の中でそろそろ十一夜君への不満が募り始めた頃合いで聖連ちゃんが到着した。
「聖連ちゃん、久しぶりだね」
「はい。夏葉先輩、おひしゃしぶりです……あ……」
フフフ。やっぱり噛んだか、かわいい。
緊張しなくていいのに、もう。お風呂も一緒に入った仲なんだからさぁ。
「よし。じゃあそろそろ報告始めるか」
「はい。じゃあ今回主にわたしから。黛先輩のお祖父さんという方についてなんですが」
あぁ、ハイハイ。黛君がこっちに来る前に先に異世界から渡って来てたっていうね。
「はい。こちらで養子縁組した方がいることが判明しました」
ふーん。養子ねぇ…………。
「――――って、エェッ!?」
びっくりしたぁ。ということは、黛君にこっちの世界で血縁じゃないけど親戚がいるかもしれないってことなの?
「先輩、先日女性を病院に連れて行ってあげたでしょ?」
「あぁ~、黛さんねぇ…………え、あれ? まさか!?」
「そのまさかですよ」
「えぇーーーーっ」
えぇっ!? あの黛さんが、あの黛君のお祖父さんの養子ってことぉっ!?
朝っぱらから泣きそうな顔した友紀ちゃんが縋り付いてきた。何事だ、揉みもしないで。
もちろん揉まれたいわけじゃあないけども。断じて。
「どうした、友紀ちゃん?」
「聞いてよぉ~。あのね、何とあのピンデスがメジャーデビューだって!」
「え、ホントに!?」
ピンデスっていうのは友紀ちゃんお気に入りのバンド、The Ping of Deathの略称で、この桜桃学園の先輩がやっているバンドのことだ。
以前、そのバンドの渡瀬先輩からチケットをもらって友紀ちゃんとライブ観戦したことがあった。そのライブでちょっとした事故があって大変な目に遭ったんだけど。
そう言えばあの時、十一夜君は亡くなった桐島さんとデートでライブに来てたんだっけな。
「ちょっと。夏葉ちゃん? 遠い目になってる。もしもーし?」
「え、あ。ごめーん。あ、そぉ。へぇー、メジャーデビューかぁ。凄いね」
「でしょ! あーん、CD出たらサインしてもらえないかなー」
身悶える友紀ちゃん。ほんと好きなんだねぇ、ピンデスのこと。私は別にいいかな、サインは。メジャーデビューは確かに凄いと思うけど。ふーん、メジャーデビューかぁ。あれから相当頑張ったんだねぇ。
「あぁ、渡瀬先輩と顔見知りになったんだからお願いしてみたらいいじゃん」
結局PVとかに勧誘されてたの有耶無耶にしてしまったけど、正解だったわ。
メジャーデビューなんかしたらインディーズ時代の作品も掘り起こされて世間に名が知れてしまうもんね。モデルの仕事だけでも悩ましいというのに。
あ、そう言えば柵の話。きちんと考えておかなきゃなぁ。うーん。
こうして私の頭の中は直ぐににピンデスからは離れてしまったのだが、友紀ちゃんはその後も日がな一日ピンデスのメジャーデビューに心を奪われてポンコツ状態だった。
昼休みにはCDにサインもらいに行くと大騒ぎしていたが、肝心のCDはまだ出ていない。ポンコツ振りにも程があるよ全く。
そんな様子の友紀ちゃんはほっといたって授業は進むし放課後はやってくる。
鞄に教科書やノートを仕舞って帰り支度をしていると、前の席の十一夜君が珍しく声をかけてきた。教室内では挨拶くらいで滅多にこんなことはないのに。
「華名咲さん、一緒に帰らないか」
え、ちょ。ここでいきなり誘う?
案の定、周りにいたクラスメイト達の注目を集めてしまう。特に友紀ちゃんと楓ちゃんときたら勝手に二人で視線を交わし合いながら盛り上がっている様子が手に取るように分かってしまう。
「うん、いいよ」
多分何か用事があるのだろう。大方新しい情報を掴めたとかそういう類か。
周囲の熱い、いや暑苦しい視線をスルーしてできるだけ普通に返して帰宅の用意を進めた。
「用意できたか? じゃ、帰ろうか」
「うん」
教室を出るまでクラスメイトたちの好奇の目に晒されたが、それは無視して二人で昇降口へと向かう。
「新しい情報でも掴んだの?」
「まあな」
出た、いつものやつ。
「珍しいね。いつもだったらタイミングずらして落ち合うようにするのに」
「まぁな」
「答えになってないんですけど」
「……別に。何となくだよ、何となく」
「ふーん……変なのぉ~」
「まぁな」
「ぷっ、何それ。ウケる」
おかしな人だよ、十一夜君。これで元女子とか。どう見ても不器用男子そのものじゃん。
門を出ると、いつもならどこかに隠したバイクを取ってくる彼だが、今日はそうではないようだ。そもそもこの人無免許だけどね。
「今日はちょっと歩かないか?」
「ほぉ、いいよ。いろいろ珍しいね、今日は」
「まぁな」
「ふーん」
「何となくだよ、何となく」
「ふーん」
そんな調子で最寄りの駅周辺までぼちぼち歩いて適当なコーヒーショップに入る。
いつものように十一夜君はおやつというボリュームではないくらいの量を注文している。私はお茶と焼き菓子を受け取って二人とも席に着く。
「聖連もじきに来ると思う」
「聖連ちゃん、久しぶりに会えるんだ」
あの天使のような(しかしハッキング時はどう見ても悪魔のようだが)聖連ちゃんに会えるのは嬉しい。それにしても聖連ちゃんも来るということは、結構重要な情報が出たのかもしれないな。
十一夜君は相変わらずの食いっぷりでむしゃむしゃやってる。誘っておいて私のことは放置ですか。
「お、お待たせしましたぁ」
心の中でそろそろ十一夜君への不満が募り始めた頃合いで聖連ちゃんが到着した。
「聖連ちゃん、久しぶりだね」
「はい。夏葉先輩、おひしゃしぶりです……あ……」
フフフ。やっぱり噛んだか、かわいい。
緊張しなくていいのに、もう。お風呂も一緒に入った仲なんだからさぁ。
「よし。じゃあそろそろ報告始めるか」
「はい。じゃあ今回主にわたしから。黛先輩のお祖父さんという方についてなんですが」
あぁ、ハイハイ。黛君がこっちに来る前に先に異世界から渡って来てたっていうね。
「はい。こちらで養子縁組した方がいることが判明しました」
ふーん。養子ねぇ…………。
「――――って、エェッ!?」
びっくりしたぁ。ということは、黛君にこっちの世界で血縁じゃないけど親戚がいるかもしれないってことなの?
「先輩、先日女性を病院に連れて行ってあげたでしょ?」
「あぁ~、黛さんねぇ…………え、あれ? まさか!?」
「そのまさかですよ」
「えぇーーーーっ」
えぇっ!? あの黛さんが、あの黛君のお祖父さんの養子ってことぉっ!?
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