99 / 162
第四章 Love And Hate
第100話 Gradated Gray
しおりを挟む
しばらく走ってとあるマンションの駐車場に入った。
見たところ随分と豪奢な感じのマンションだ。こんな立派なところに住んでいるのかとちょっと感心していると、
「夏葉ちゃん、このままちょっと待っててくれるかな。すぐ戻ってくるから」
と言ってエンジンをかけたまま恭平さんは車を降りた。
室内はエアコンのお陰で快適だが一歩外に出るともうすっかり真夏の蒸し暑さだ。ドアが開くと途端に蝉時雨に見舞われる。
恭平さんの車は普通の国産のセダンだ。
何だかいろんな意味ですごい車が周囲に多い気がするんだけど、そんな自分の環境に限れば普通ってむしろ貴重。
車内にはジャズのピアノトリオが流れている。
今流れているのは確かオスカー・ピーターソン・トリオかな。軽快で心地よいサウンドのお陰で待ち時間も苦にならない。
「お待たせお待たせ」
そう言って戻ってきた恭平さん。
ちゃんと薬局でもらうような袋に入れて薬をくれた。
説明を受けて、診療費と薬代のことを訊ねるとそれは華名咲から十分もらうことになってるから大丈夫だと言われた。
まあ幸いうちはお金だけは潤沢だからそれならわたしが気にかける必要はないのだろう。
帰る道中、どうして女装するのか思い切って訊ねてみたら、趣味だからと簡単に返された。
趣味と言われたらそうですかと返すよりなかった。
どうして音楽を聴くのかと訊かれたら、趣味だから好きだからとしか答えようがないものな。
涼音さんは女装家の恭平さんをそのまま受け入れているんだよな。わたしは自分が男子だったのに女子化して、今度はまた中途半端に半陰陽なんて言われる体になってるし、あんな風に受け入れてもらえるんだろうか。
まあ家族はありがたいことに受け入れてくれてるんだけど、いつか恋愛することがあってその時真実を告げて受け入れてもらえるだろうか。不安しかない。
というかこうしてよくよく考えてみると、自分が受け入れてもらえるかも分からない立場なのに自分自身が男性を受け入れないとかいったい何様なんだよという気もしてきた。
その辺は性自認とも関係するところだけど、もはや性自認においても女性ということになってしまっているんだよね。
何だかよく分かんないや自分でも。
男性と女性ってシンプルに二分できるわけじゃないんだなぁ。なんていうかグラデーションとかそんな感じ?
自分はその中の限りなく女性に近いグレーゾーンってことなんじゃないかな。
うまく言えないけど自分がこんな立場になって初めてそんなことを思うようになった。
「ここでいいのかな」
あれこれ考えているうちに、家に着いていたようで、恭平さんの声で現実に引き戻された。
「あ、はい。今日はどうもありがとうございました」
「どういたしまして。薬は二週間分だから、二週間後にまた診察を兼ねて病院においで。前もって涼音に言ってくれたら準備しておくから」
車を降りて恭平さんを見送り家に戻り、報告するために叔母さんのところに立ち寄る。
「お帰り、夏葉ちゃ~ん。それで、どうだったの?」
「うん、検査したけど原因が分からないって。癌とかの可能性があったけどそれはなかった。ホルモンバランスが崩れてあんなことになってるから、取り敢えずホルモン剤を飲みなさいって」
「そう。取り敢えず悪い病気ではないってことね。だったらひとまずよかったわ。心配したのよ~」
「うん、心配かけてごめんね」
「やあねぇ。謝らなくていいのよ。夏葉ちゃんは何も悪くないんだから。明日はディディエも来るしみんなでお迎えついでに美味しいものでも食べよ。ね、夏葉ちゃん」
検査結果の報告を済ませた後、夕食の準備までの間一旦自分の部屋に引き上げたのだが、友紀ちゃんと楓ちゃんとのグループLINEが賑わっていた。
最近インスタで話題になっているというコスプレイヤーがわたしに似ているらしい。
リンク先を見てみると、人気のアニメやゲームに出てくる女の子のコスプレをしている画像がたくさん出てきた。
しかもどれもこれもクオリティが高くて相当かわいい。
かわいいと言った後に言うのもなんだが、確かにわたしに似ている……。
うぅ~む……。
ていうかこれ、祐太じゃね?
————うん、祐太だよね、これ。
そらわたしに似てるはずだわ。
他人が見ても気づかないかも知れないが、自分や秋菜の顔の特徴とよく似たこの顔の持ち主といえばこの年頃だと奴しか思い当たらない。
それにしても意外な……祐太にこんな趣味があったとは……。恭平さんと気が合うんじゃないかなぁ。
いやそんなことよりクオリティ高いわー。
さすが秋菜の弟だけあってメイクも上手いしレベル高っ。
こりゃ話題になるのも納得だわ。
『インスタ見たよ。超クオリティ高いじゃん!』
祐太にLINEを送ったら即座に返信があった。
『ちょ、何で知ってんの!? それ、家族に言ってないよね??』
ンフフ。めちゃ慌ててる。
『言ってないよ。秋菜に知れたら超イジられそうじゃん! 笑笑』
『頼む、絶対言わないで! 詳しいことは後で話すから』
『オケオケ。わたしは味方だから安心しなさい。そのかわりあとで詳しくな』
それにしても何で祐太は女の子キャラのコスプレしてるんだろ。
謎解きはディナーの後で?
見たところ随分と豪奢な感じのマンションだ。こんな立派なところに住んでいるのかとちょっと感心していると、
「夏葉ちゃん、このままちょっと待っててくれるかな。すぐ戻ってくるから」
と言ってエンジンをかけたまま恭平さんは車を降りた。
室内はエアコンのお陰で快適だが一歩外に出るともうすっかり真夏の蒸し暑さだ。ドアが開くと途端に蝉時雨に見舞われる。
恭平さんの車は普通の国産のセダンだ。
何だかいろんな意味ですごい車が周囲に多い気がするんだけど、そんな自分の環境に限れば普通ってむしろ貴重。
車内にはジャズのピアノトリオが流れている。
今流れているのは確かオスカー・ピーターソン・トリオかな。軽快で心地よいサウンドのお陰で待ち時間も苦にならない。
「お待たせお待たせ」
そう言って戻ってきた恭平さん。
ちゃんと薬局でもらうような袋に入れて薬をくれた。
説明を受けて、診療費と薬代のことを訊ねるとそれは華名咲から十分もらうことになってるから大丈夫だと言われた。
まあ幸いうちはお金だけは潤沢だからそれならわたしが気にかける必要はないのだろう。
帰る道中、どうして女装するのか思い切って訊ねてみたら、趣味だからと簡単に返された。
趣味と言われたらそうですかと返すよりなかった。
どうして音楽を聴くのかと訊かれたら、趣味だから好きだからとしか答えようがないものな。
涼音さんは女装家の恭平さんをそのまま受け入れているんだよな。わたしは自分が男子だったのに女子化して、今度はまた中途半端に半陰陽なんて言われる体になってるし、あんな風に受け入れてもらえるんだろうか。
まあ家族はありがたいことに受け入れてくれてるんだけど、いつか恋愛することがあってその時真実を告げて受け入れてもらえるだろうか。不安しかない。
というかこうしてよくよく考えてみると、自分が受け入れてもらえるかも分からない立場なのに自分自身が男性を受け入れないとかいったい何様なんだよという気もしてきた。
その辺は性自認とも関係するところだけど、もはや性自認においても女性ということになってしまっているんだよね。
何だかよく分かんないや自分でも。
男性と女性ってシンプルに二分できるわけじゃないんだなぁ。なんていうかグラデーションとかそんな感じ?
自分はその中の限りなく女性に近いグレーゾーンってことなんじゃないかな。
うまく言えないけど自分がこんな立場になって初めてそんなことを思うようになった。
「ここでいいのかな」
あれこれ考えているうちに、家に着いていたようで、恭平さんの声で現実に引き戻された。
「あ、はい。今日はどうもありがとうございました」
「どういたしまして。薬は二週間分だから、二週間後にまた診察を兼ねて病院においで。前もって涼音に言ってくれたら準備しておくから」
車を降りて恭平さんを見送り家に戻り、報告するために叔母さんのところに立ち寄る。
「お帰り、夏葉ちゃ~ん。それで、どうだったの?」
「うん、検査したけど原因が分からないって。癌とかの可能性があったけどそれはなかった。ホルモンバランスが崩れてあんなことになってるから、取り敢えずホルモン剤を飲みなさいって」
「そう。取り敢えず悪い病気ではないってことね。だったらひとまずよかったわ。心配したのよ~」
「うん、心配かけてごめんね」
「やあねぇ。謝らなくていいのよ。夏葉ちゃんは何も悪くないんだから。明日はディディエも来るしみんなでお迎えついでに美味しいものでも食べよ。ね、夏葉ちゃん」
検査結果の報告を済ませた後、夕食の準備までの間一旦自分の部屋に引き上げたのだが、友紀ちゃんと楓ちゃんとのグループLINEが賑わっていた。
最近インスタで話題になっているというコスプレイヤーがわたしに似ているらしい。
リンク先を見てみると、人気のアニメやゲームに出てくる女の子のコスプレをしている画像がたくさん出てきた。
しかもどれもこれもクオリティが高くて相当かわいい。
かわいいと言った後に言うのもなんだが、確かにわたしに似ている……。
うぅ~む……。
ていうかこれ、祐太じゃね?
————うん、祐太だよね、これ。
そらわたしに似てるはずだわ。
他人が見ても気づかないかも知れないが、自分や秋菜の顔の特徴とよく似たこの顔の持ち主といえばこの年頃だと奴しか思い当たらない。
それにしても意外な……祐太にこんな趣味があったとは……。恭平さんと気が合うんじゃないかなぁ。
いやそんなことよりクオリティ高いわー。
さすが秋菜の弟だけあってメイクも上手いしレベル高っ。
こりゃ話題になるのも納得だわ。
『インスタ見たよ。超クオリティ高いじゃん!』
祐太にLINEを送ったら即座に返信があった。
『ちょ、何で知ってんの!? それ、家族に言ってないよね??』
ンフフ。めちゃ慌ててる。
『言ってないよ。秋菜に知れたら超イジられそうじゃん! 笑笑』
『頼む、絶対言わないで! 詳しいことは後で話すから』
『オケオケ。わたしは味方だから安心しなさい。そのかわりあとで詳しくな』
それにしても何で祐太は女の子キャラのコスプレしてるんだろ。
謎解きはディナーの後で?
0
お気に入りに追加
35
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる