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第四章 Love And Hate
第94話 女の子なんだもん
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朧さんから聞くことのできた話を、帰宅後武蔵のじっちゃんに電話して伝えた。
話を聞いたじっちゃんは、えらく興味を示して、さらに調査の上検討すると言っていた。
これですみれさんが本気で仕事に復帰することになるとボヤくのも忘れていなかった。
今日は一気にいろんなことが分かって、さっきまでちょっと興奮気味だった。
お風呂にゆったり浸かってマッサージしたりして、リラックスしながら風呂上がりの一杯……もちろんただのミネラルウォーターだけど、グイッと飲んでいたら、やけに携帯の着信が忙しなく鳴っている。
何事かと思ったら、LINEの華名咲家のトークグループだった。
トークを開くと、夏のバカンスに母と妹が一時帰国するとかで、盛り上がっていた。
「そっかー。ディディエも来るし、賑やかになるなぁ」
わたしは久し振りに会える家族のことを思って、まだ数ヶ月しか経っていないのに懐かしい気持ちになった。
学校では十一夜君も相変わらず桐島さんにべったりで、わたしに事情が知れているにも拘らず、何も変わった様子はなかった。
少しは何か変わるのかと期待していたのに、結局何も変わらないまま、わたしたちは夏休みを迎えることになった。
そして夏休みに入ってすぐのことだ。
以前行ったDNA検査の結果が出たとかで、叔母さんと一緒に病院で結果についての説明を受けに行った。
「いらっしゃい……というのも変かしら? 久し振りね、夏葉ちゃん。あれから変わりない?」
あれからというのは、以前熱を出して倒れてしまい、お世話になったことがあったのだが、その時のことだ。
「はい。元気にやってます。その節はお世話になりました」
ぺこりと頭を下げて挨拶する。あまり記憶にないが、親戚らしい。
「涼音ちゃんも元気だった? たまには遊びに来てね」
叔母さんが親しげに声をかけているので、多分近しい親戚なのだろう。
「そうですね。本家の方にはすっかりご無沙汰しちゃって」
「お仕事忙しいでしょうけど、気軽に来てくるれると嬉しいわ。あ、そうだわ。週末からディディエが来ることになってるのよ。留学でしばらくはこちらにいるから、あなたも顔を出して」
「あら、そうなんですか? それは是非」
「ええ。愛妃たちも帰ってくるしね」
みたいな大人の社交的な会話がしばらく続いて、ようやく本題に入る。
涼音ちゃんと呼ばれる先生は、立ち上げているパソコンからわたしの検査結果のデータを出してきて、プリントして見せてくれた。
最初に説明されたのだが、DNA検査では今回の場合大した事は分からないということだ。
説明を受けてみると、TS前後の遺伝子を比較してみると、同一人物であることは確定とのことだった。
もちろん性別が合致しないのに遺伝子的に同一人物というあり得ない結果になっているそうだが。
実際のところ、性別が変わってしまうなんてことは普通ないことなので、まずはその点の確認が必要だったと言われた。
加えて、この事象がなんらかの遺伝子上の疾患や異常によるものという可能性が考えられた。
それでその点をDNA検査したところ、異常は認められなかったというのだ。
結論を言えば、遺伝子上なんら問題のない状態で、最初からずっと女性だったのと変わらないという。
まあそうだと思っていたが、今やわたしはどこからどう見ても女性だという事実が、医学的に証明されてしまった。
今更大きなショックはないし、それ自体はとっくに受け入れている事実だった。
そこからはしばらく、性自認に関する話がされた。話しづらいといけないのでと、叔母さんは席を外すように言われ、退室した。
「夏葉君は、現在の性自認はどんな認識なの?」
そう訊かれてはたと困ってしまった。
この問題は、女子化してからずっと抱え続けてきた問題だ。
「難しいですねぇ。実際のところ、女性化してから、身体だけでなく、内面的にも自分がどんどん女性化している自覚はあります」
「そうなんだ。恋愛についてはどう?」
「うーん。女性化してしばらくしてから、例えば温泉とかで女風呂に入っても、興奮したりとかそういうのは全然なくて、普通に同性の裸って感じにしか思わなくなりました。それに女性に恋愛感情が湧く感じもなくなったと思います」
「なるほどね。ちなみに男性だった時は? 普通に女の子が恋愛対象だった?」
「はい。そうだったと思います」
「その時は男の子を好きになったことは一度もなかった?」
「ないない、ないです。全然なかったです、それは」
そればっかりは全否定だ。
「じゃあ、男の子だった時に、男性の裸を見て、何かモヤモヤするような気持ちが湧き上がったこととかは?」
「それもないです! 絶対ないです!」
「そう。ごめんね。不愉快かも知れないけど、必要な確認なの」
「あ、はい。大丈夫です」
「男の子だった時のマスターベーションの対象は? つまり、オカズって言った方が分かりやすいかな?」
そんなことまで答えるの!? 恥ずい……。
「普通に男性向けの、動画とか……でした」
くっ、殺せ!
多分顔真っ赤だ、今。
「ふ~ん。今もそういうの見たりする?」
くぅーっ、何この言葉責め。
顔から火が吹き出そうだ。
「いえ、今はそういうのは見なくなりました……」
ふぅ~。叔母さんに退出してもらって正解だなぁ。叔母さんが一緒だったら答えにくいったらなかっただろうな。
「ふむふむ、なるほどねー。じゃあ、今はマスターベーションの空想上のパートナーは女性? それとも男性? あるいはそれ以外かしら? 恥ずかしがらなくて大丈夫だからね。性自認をはっきりするために必要な確認よ」
などと、赤裸々な回答を求められる質問が続き、悶絶死寸前だった。
診断の結果も、ある程度自覚はあったが、もうほぼ女性だと思っていいと言われた。
つまり内面的にもほぼ女性という性自認でよいということだ。
分かっちゃいるが、複雑な気分だ。
でも無理に今恋愛しようとする必要はないし、自然に任せてみたらとアドバイスされた。
確かに、無理に恋愛する必要なんてどこにもないのだ。
いつか自然に誰かを好きになったら、その人と恋愛すれば良い。
そう考えてなるべくフラットに、男性は無理とか女性は無理とか決めつけないでいなさいと言われた。
だからあまり恋愛のことは考えないようにしようと思う。
なんだか男性と恋愛することになったらどうしようと恐怖を感じていたが、とりあえず考えないようにしておく。そう決めた。
ホルモンバランスの状態によっては、ホルモン治療も検討するところだったが、女性としてちゃんと問題ない程度のバランスが取れているから必要ないそうだ。
本当に女子になっちゃったんだなぁ……。
今更だけどしみじみ思った。
話を聞いたじっちゃんは、えらく興味を示して、さらに調査の上検討すると言っていた。
これですみれさんが本気で仕事に復帰することになるとボヤくのも忘れていなかった。
今日は一気にいろんなことが分かって、さっきまでちょっと興奮気味だった。
お風呂にゆったり浸かってマッサージしたりして、リラックスしながら風呂上がりの一杯……もちろんただのミネラルウォーターだけど、グイッと飲んでいたら、やけに携帯の着信が忙しなく鳴っている。
何事かと思ったら、LINEの華名咲家のトークグループだった。
トークを開くと、夏のバカンスに母と妹が一時帰国するとかで、盛り上がっていた。
「そっかー。ディディエも来るし、賑やかになるなぁ」
わたしは久し振りに会える家族のことを思って、まだ数ヶ月しか経っていないのに懐かしい気持ちになった。
学校では十一夜君も相変わらず桐島さんにべったりで、わたしに事情が知れているにも拘らず、何も変わった様子はなかった。
少しは何か変わるのかと期待していたのに、結局何も変わらないまま、わたしたちは夏休みを迎えることになった。
そして夏休みに入ってすぐのことだ。
以前行ったDNA検査の結果が出たとかで、叔母さんと一緒に病院で結果についての説明を受けに行った。
「いらっしゃい……というのも変かしら? 久し振りね、夏葉ちゃん。あれから変わりない?」
あれからというのは、以前熱を出して倒れてしまい、お世話になったことがあったのだが、その時のことだ。
「はい。元気にやってます。その節はお世話になりました」
ぺこりと頭を下げて挨拶する。あまり記憶にないが、親戚らしい。
「涼音ちゃんも元気だった? たまには遊びに来てね」
叔母さんが親しげに声をかけているので、多分近しい親戚なのだろう。
「そうですね。本家の方にはすっかりご無沙汰しちゃって」
「お仕事忙しいでしょうけど、気軽に来てくるれると嬉しいわ。あ、そうだわ。週末からディディエが来ることになってるのよ。留学でしばらくはこちらにいるから、あなたも顔を出して」
「あら、そうなんですか? それは是非」
「ええ。愛妃たちも帰ってくるしね」
みたいな大人の社交的な会話がしばらく続いて、ようやく本題に入る。
涼音ちゃんと呼ばれる先生は、立ち上げているパソコンからわたしの検査結果のデータを出してきて、プリントして見せてくれた。
最初に説明されたのだが、DNA検査では今回の場合大した事は分からないということだ。
説明を受けてみると、TS前後の遺伝子を比較してみると、同一人物であることは確定とのことだった。
もちろん性別が合致しないのに遺伝子的に同一人物というあり得ない結果になっているそうだが。
実際のところ、性別が変わってしまうなんてことは普通ないことなので、まずはその点の確認が必要だったと言われた。
加えて、この事象がなんらかの遺伝子上の疾患や異常によるものという可能性が考えられた。
それでその点をDNA検査したところ、異常は認められなかったというのだ。
結論を言えば、遺伝子上なんら問題のない状態で、最初からずっと女性だったのと変わらないという。
まあそうだと思っていたが、今やわたしはどこからどう見ても女性だという事実が、医学的に証明されてしまった。
今更大きなショックはないし、それ自体はとっくに受け入れている事実だった。
そこからはしばらく、性自認に関する話がされた。話しづらいといけないのでと、叔母さんは席を外すように言われ、退室した。
「夏葉君は、現在の性自認はどんな認識なの?」
そう訊かれてはたと困ってしまった。
この問題は、女子化してからずっと抱え続けてきた問題だ。
「難しいですねぇ。実際のところ、女性化してから、身体だけでなく、内面的にも自分がどんどん女性化している自覚はあります」
「そうなんだ。恋愛についてはどう?」
「うーん。女性化してしばらくしてから、例えば温泉とかで女風呂に入っても、興奮したりとかそういうのは全然なくて、普通に同性の裸って感じにしか思わなくなりました。それに女性に恋愛感情が湧く感じもなくなったと思います」
「なるほどね。ちなみに男性だった時は? 普通に女の子が恋愛対象だった?」
「はい。そうだったと思います」
「その時は男の子を好きになったことは一度もなかった?」
「ないない、ないです。全然なかったです、それは」
そればっかりは全否定だ。
「じゃあ、男の子だった時に、男性の裸を見て、何かモヤモヤするような気持ちが湧き上がったこととかは?」
「それもないです! 絶対ないです!」
「そう。ごめんね。不愉快かも知れないけど、必要な確認なの」
「あ、はい。大丈夫です」
「男の子だった時のマスターベーションの対象は? つまり、オカズって言った方が分かりやすいかな?」
そんなことまで答えるの!? 恥ずい……。
「普通に男性向けの、動画とか……でした」
くっ、殺せ!
多分顔真っ赤だ、今。
「ふ~ん。今もそういうの見たりする?」
くぅーっ、何この言葉責め。
顔から火が吹き出そうだ。
「いえ、今はそういうのは見なくなりました……」
ふぅ~。叔母さんに退出してもらって正解だなぁ。叔母さんが一緒だったら答えにくいったらなかっただろうな。
「ふむふむ、なるほどねー。じゃあ、今はマスターベーションの空想上のパートナーは女性? それとも男性? あるいはそれ以外かしら? 恥ずかしがらなくて大丈夫だからね。性自認をはっきりするために必要な確認よ」
などと、赤裸々な回答を求められる質問が続き、悶絶死寸前だった。
診断の結果も、ある程度自覚はあったが、もうほぼ女性だと思っていいと言われた。
つまり内面的にもほぼ女性という性自認でよいということだ。
分かっちゃいるが、複雑な気分だ。
でも無理に今恋愛しようとする必要はないし、自然に任せてみたらとアドバイスされた。
確かに、無理に恋愛する必要なんてどこにもないのだ。
いつか自然に誰かを好きになったら、その人と恋愛すれば良い。
そう考えてなるべくフラットに、男性は無理とか女性は無理とか決めつけないでいなさいと言われた。
だからあまり恋愛のことは考えないようにしようと思う。
なんだか男性と恋愛することになったらどうしようと恐怖を感じていたが、とりあえず考えないようにしておく。そう決めた。
ホルモンバランスの状態によっては、ホルモン治療も検討するところだったが、女性としてちゃんと問題ない程度のバランスが取れているから必要ないそうだ。
本当に女子になっちゃったんだなぁ……。
今更だけどしみじみ思った。
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