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第一章 Boy Meets Girl

第7話 April Come She Will 〜四月になれば彼女は〜

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 食事が終わり、洗い物まで一通り終わらせて、暫しリビングでテレビを見ながら寛いでいると宅急便で荷物が届いた。荷の内容は、俺と秋菜の新しい制服だった。さっき制服のこと考えて鬱入ってたところへ早速これだ。何というタイミング。今度から通うことになる桜桃おうとう学園の制服はブレザー仕様だ。しかしこれが結構凝っていてバリエーションに富んでいる。
 まずブレザーだが、ネイビーとライトグレイの二種類ある。わりとタイトな作りだが意外に動きやすい。短めのセンターフックベントが入っていて、白のテーピングラペルになっている。ショルダーはあまりパッドが厚く入っていなくて、肩のラインに自然に沿う感じでフィット感がある。
 スカートはプリーツスカートで、ベイジュのガンクラブチェックのものと、グリーン系のタータンチェック柄、グレイのグレンチェック柄、と3パターンもある。
 ブラウスは白いビロード地のラウンドカラーとオックスフォード地のボタンダウンとがある。襟元にはリボンかタイを結ぶようになっていて、いずれも紺色の無地だ。
 ソックスは濃いグリーンとネイビーの二種類で膝下までのハイソックスに校章がワンポイント刺繍されている。
 これらが基本パターンで、更に追加アイテムがある。
 まずポロシャツ。白地で左胸に紺色で校章の刺繍が入っているタイプと、紺色で赤の刺繍が入っているタイプがある。白地のものは襟の縁には紺色のラインが、紺地のものは赤のラインが、それぞれ二本入っている。
 同じカラーパターンでニットのベスト、セーター、カーディガンがある。しかもブレザーとスカートは素材違いの夏物もあるから量がすごい。
 身内がやってる学校ながら、制服ごときにやり過ぎ感半端ないな。しかし、今時は制服がかわいくないと生徒が集まらないとかそういった事情も関係しているらしい。そして実はこれ、必ずしも全部を揃える必要は無くて、この中から任意に選べばいいということになっている。別にブレザーとブラウスとスカート各一着持っていればOKなのだが、そこはお金持ちが集まる学校なので、オールコンプリートとまでは行かずとも、何パターンか揃える子が多いらしい。
 まあうちの場合はオールコンプリートだ。しかも各パターンが最低二着ずつ揃ってる。金に飽かしてやがるなぁ。別に俺らが希望したわけじゃないんだよ?
 頭痛がしそうだが想定通り、そこからはいつもの様に着せ替えファッションショーだ。今回は秋菜もいるので着替える回数は半分で済むが、ありとあらゆる組み合わせをさせられる。
 俺と秋菜は見た目ほぼ似たようなものなので、鏡を見るよりかお互いをチェックした方が、どんな感じか確認しやすいのが、メリットと言やメリットか。そこにセレクトショップのオーナーでもある叔母さんが、あれがいいこれがいいと煽り立ててくる感じだ。
 女子の服はただ着るだけではダメで、意外に着方で違いが出るんだそうだ。キッチリ感が清潔感に繋がったりするのは何となく俺も分かるが、そういう類のことらしい。
 あと女子高生が拘るスカートの丈。このスカートだと履いた状態で膝が出るくらいの丈だが、秋菜の方は何か短くてかわいく見える。

「あ、夏葉ちゃんスカートはね、ウェストのところを折るんだよこうやって」
と、秋菜がウェストのところを見せてくれた。

 見てみるとウェスト部分で外側に折り返して丈を短くしているのだ。なるほどな。そう言えば服装検査で女子が慌ててスカート丈を伸ばしてたのはこうやってたのか。

「因みにこれは三回折り返してるよ」

「ちょっと、夏葉ちゃんに変なこと教えないで」

「だって普通だよ。どうせ学校行ったら皆やってるから覚えるんだし」

「高校からは共学になるんだから秋菜もあんまり短くしちゃダメ」

 叔母さんから釘を刺される。

「大丈夫だよ~。どうせ下に紺パン履くし、短い子だと膝上25センチとか30センチとかの子だっているよ。これだと精々15センチ位だから全然平気だって」

「気持ちは分かるけど、くれぐれも節度を保ちなさいよ」

「分かってるって。娘を信用しなされ」

 親子のそんなやり取りをよそに、俺の頭には素朴な疑問が浮かんでいた。

「これさぁ、夏服の時はどうするわけ?」

 スカートの折り曲げのことだ。夏はブラウスかポロシャツとスカートの組み合わせだ。ポロシャツは外に出せるにしても、ブラウスをスカートにインした場合にはウェスト折り曲げのワザは使えないのではなかろうか。

「あ~、それはね。シャツの裾を少し多めに出して折り返し部分を隠すんだよ。わたしは夏服のスカートはお直しに出して短くしてたけどね」

 そういうことか。あのフワッと着てるのにはそういう事情もあったんだな。しかしあれはあんまり好きじゃないから今度調べて自分で丈詰めしてみるか。

「ん? これ折り曲げるとプリーツが綺麗にならないなぁ」

 あれだけスカートやら制服やらに抵抗していたのに、いざとなるとついつい拘ってしまうのが、俺の悲しいさがなのだ。

「あぁ、ひだをきれいに出すのにはコツがあるんだよ、夏葉ちゃん」

 そう言って、秋菜が自分のスカート丈を元に戻してから、コツを教えてくれた。

「まずね、ファスナーをあげるでしょ」

「おぉ、上げるな」

「いい? それでね、ホックは止めないのよ。そうするとプリーツの調整がしやすくなるから」

「どれどれ。ほぉほぉ、なるほどな。これで一段ごとにプリーツをきれいにたたみながら折り返せばいいわけか。おぉ、きれいにできた。ほら」

「いいじゃん。かわいくできてるよ、夏葉ちゃん」

 上手いことできて満更でもない俺。何てノセられやすいんだ。

「スカートを上にグイッと引っ張りあげて、ベルトで止めてる子もいるよ。そうするとプリーツが開かないしね。後は上からカーディガンかセーター着ちゃえば分かんないし」

「は~。でもそれはちょっとかっこ悪いな。スカート追加発注して改造するかな」

「おぉ、夏葉ちゃんが意外にやる気だ」

「別に。そういうわけじゃないけど」

 しまった。気まずいなぁ、非常に気まずい。何で俺、ついついノセられちゃうんだろ。凝り性な性格が完全に災いしているな、この場合。イタリアの片田舎のテーラーまで、服を仕立ててもらいに行っちゃう親父たちの血筋だな、確実に。うっかり夢中になってしまった。もうやだこの性格。
 そんな中、叔母さんが何だかおとなしくしていると思ったら、スマホで激写していた二人の制服姿を母にLINEで送ったらしく、携帯が頻繁に鳴っている。
 え、動画も撮ってたの? 家族のトークグループに動画が上がっていて、凄い勢いで家族間でコメントの応酬がされているが、げんなりするので既読スルーだ。

「あ、そう言えば」

 唐突に叔母さんが声を上げた。

「あなた達うちの店に来てくれたんだって?」

「うん、夏葉ちゃんの服買った。超かわいいよ」

「店長があなた達のこと気に入っちゃったみたいでね、お店のウェブサイトの写真でモデルやって欲しいって言ってるのよ」

「へぇ~、夏葉ちゃんと一緒にモデルかぁ」

 秋菜のやつ、満更でもなさそうにニンマリと頬を緩ませている。俺はそんなのはできれば遠慮したいところだ。

「店長あなた達のこと双子だと思ってるみたい。敢えて否定はしなかったけどね」

「あっはぁ~、あれ実はわたしが双子って言ったんだ。夏葉ちゃんの名前は秋葉あきはってことになってるの」

「やだ、店長本気にしてたわよ。でもホント、双子みたいだねぇ、あなた達」

 そう言って叔母さんは二人のことをしみじみと見つめている。
 まぁな。子供の頃から一緒に育ってきたし、もう双子でも何でもいいんだけどさ。
 それにしてもそろそろ疲れてきた。俺は何か肩が凝る感じがして首を回したり肩を回したりして紛らわそうとしていた。時計は既に午後の三時を回っている。ファッションショーもやったしな。

「あぁ、何か小腹空いたし甘いものとか無いの?」

 他の二人が軽く驚いたような表情で顔を見合わせている。

「夏葉ちゃん、甘いもの欲しがるとか珍しいわね。ケーキあるわよ、祐太が帰ってくる前に食べちゃいましょうか」

 祐太、悪いな。お前のおやつは俺がいただくぜ。

「あ~、食べる食べる。祐太の分までしっかり味わって食べる」

「じゃあお茶にしましょうか」

 そう言うと、叔母さんは立ち上がってお茶の準備をし始めた。
 俺もすぐに立ち上がって手伝う。秋菜は相変わらずソファでダラダラしている。何かこいつマジで女子力ヤバくね? そんなことを思いつつ、無意識に俺はまた首を回したりしていたようで、叔母さんから声が掛かる。

「夏葉ちゃん肩凝ってるの?」

「うーん、何か重たくてちょっとだけ頭痛もするかな」

「あらそうなの。ブラとかちゃんと体に合ったのしてるかしら?」

「え、うん。それは大丈夫」

 すると叔母さんが俺のおっぱいを優しく触ってきた。

「ふむふむ、大丈夫ね」

 って、ベテランともなるとそれで分かるもんなの?

「だけどもしかしてあなた、いつもより胸に張りを感じたりしてないかしら?」

「そう言われるとそんな気もするかなぁ。ちょっと痛いような……」

「そして甘いものが食べたいと来たか……」

「まぁ。でもそれが?」

「取り敢えず、お茶しながら話しましょうか」

 ん、何だろうな。勿体つけられると嫌な予感しかしないんだが。
 ケーキとお茶をセットしてテーブルに着くと秋菜もやって来た。

「夏葉ちゃん、愛妃は女の子の日の話はちゃんとしたのかしら?」

「え? あぁ、うん。習ったよ」

「もしかしたらだけど、2、3日の内にあなた、生理が来るかもしれないわね」

 叔母さんはとても嬉しそうに優しく微笑みながら、衝撃的な言葉を俺に告げた。
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