上 下
49 / 83

49 恋愛バトル開催

しおりを挟む
「お疲れ様でしたー」

 メンバーそれぞれに声をかけてねぎらい合う。

「楠木君、ホントお世話になりました。楠木君と光旗君のリズム隊、最高にいいねぇ~。やっぱりプロ目指してたりするの?」

 気さくに話しかけてきたのは、ボーカルの鈴木君だ。イケメンな上にいい奴でなんて腹立たしい男だ。全くいい奴なんだからもぉ。

「いや、プロとか全然考えたことないよ」

 そうそう簡単にプロのミュージシャンとしてやっていけるもんじゃないだろう。よく考えたわけじゃないけど、厳しい世界であろうことはなんか分かる。
 音楽業界自体冷え込んでると聞くし。

「そっか。ささやかだけど、この後ファミレスで打ち上げだから来てよね。友達とかきてたら誘ってもらっていいからさ」

「おぉ、行く行く」

 とは言ったものの、この後もし曜ちゃんと気まずい展開になったら打ち上げも地獄だなぁ。
 なんて軽く思案していたら、曜ちゃんからThreadに着信だ。

『おつかれさまでした~(≧∀≦)
 さっき言ってたお話だけど、打ち上げの後でいいかな?』

 おぉ、曜ちゃんから打ち上げ後って言ってきてくれた。打ち上げが気まずくなっちゃうかもしれないから、考えてくれたんだな。相変わらず優しい子だよぉ。

 さて、各自後始末や帰り支度を終えて会場を後にする段となった。スタッフさんたちにお礼を言って、支払い等を済ませて店を出る。
 ライブの熱気がまだ残滓ざんしとして燻っているのか、みんな仄かな高揚感から饒舌だ。ワイワイ言いながら店を出ると、流石は人気バンド。いわゆる出待ちのファンがいる。

 ほぉほぉ、凄いねぇTHE TIME。流石単独ライブまでやってのけるだけのことはある。メンバーそれぞれにファンがついている模様だ。紅一点の曜ちゃんにももちろん男女共にファンがいて、花束やらなんやらもらっている。

「拓実君っ! お疲れ様!」

 そう言って軽く体当たりしてきたのは、羽深さんだった。何とわざわざ出待ちしていたの? 言ってくれたらいいのに。って、曜ちゃんと会わすのはなんとなく気が引ける。でもこの状況からして最早避けられない事態だなぁ……。

「何々? そこの美人は、もしかしてもしかして? 楠木君の? 彼女さん? あ、鈴木って言います。この後打ち上げなんだけど、よかったら来てくださいよ。他ならぬ楠木君の彼女さんなら大歓迎っ」

 おいおい、勝手に決めつけんなよ。羽深さんに失礼だろ。って言うか羽深さん、何モジモジしちゃってんのっ!? 勘違いされちゃうでしょうが!

「タクミ君? そのきれいな人、彼女さんなのかな? 彼女さんがいたのかな?」

 えっ!? 曜ちゃん、違うって。何て顔してんのよ?

「え、羽深さんは彼女じゃないよ!」

「どうもぉ、拓実君がいつもお世話になってますぅ」

 っていやいや、羽深さん。その言い方は余計に勘違いを促進しますって。勘違い促進活動になっちゃいますからやめて!?

「え、ていうかあなたどちら様? タクミ君と同じ学校の人?」

 うぇっ!? 曜ちゃんっ? なんかいつもとキャラが違ってますよ?

「あら、あなたがジンピカちゃんね。毎日毎日拓実君にお弁当の写真送ってきてる人よね。いっつも美味しそうなお弁当ねぇ~、て拓実君と言いながら一緒に拝見してるわよ」

「はぁっ? ちょっと、どういうわけかな? 意味分かんないんですけどっ」

 うわぁ~、これはちょっとヤバい感じになっちゃってるよ。これってなぜかまるで僕が浮気してたみたいな雰囲気になってるんですけど、そうじゃないからね!? これって多分、美人同士のプライドがぶつかり合っちゃった感じなのかな。

「うししし。なんだなんだぁ? なんかめっちゃおもしろ展開になってきたね! よしっ。行こう行こう。彼女も一緒に行っちゃおう! さぁー、盛り上がってまいりましたぁ」

 盛り上がってねーよ。鈴木君が面白がってるんだけど、全っ然面白くないからっ。
 あ、おい。メグ。ケラケラ笑ってんじゃないぞこら。
 他のメンバーもっ。クスクス笑ってる場合じゃないってば。
 まったくみんな他人ごとみたいにぃ。

 羽深さんと曜ちゃんがバチバチ火花を散らす中、みんなは打ち上げ会場となるファミレスへと向かって意気揚々と歩き出した。
 いつの間にか曜ちゃんたちの学校の人たちも加わって一層賑やかだ。

 僕は烈しく火花を散らす羽深さんと曜ちゃんの間に挟まれて、肩身の狭さと緊張感に苛まされながら、ぎこちなく歩みを進めるのだった。

 ファミレスで注文を終えると、各自ドリンクバーで飲み物を注ぎテーブルに戻る。

「それじゃあ、みんないいかな。今日のライブの成功と、我がバンドメンバージンピカの初の恋愛バトル開催を祝してぇ、カンパーイ!」

「カンパーイ! イェーイ!」

 テーブルのそこかしこから声が上がる。いや恋愛バトルってねぇ。開催してないからっ。そういうんじゃないから、もぉ。美人同士のプライドのぶつかり合いなんだよ、きっとこれはぁ。

 ここへ来る道中と同様、このファミレスにおいても僕は曜ちゃんと羽深さんに挟まれる格好でかしこまって座っている。せっかくの打ち上げだというのに、非常に居心地が悪い。演奏中の方がまだよっぽどリラックスできていたよ。
 二人の意地のぶつかり合いに、部外者の僕を巻き込まないで欲しいのに。
 一体どうしてこうなった!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

東岡忠良
青春
 二卵性双生児の兄妹、新屋敷竜馬(しんやしきりょうま)と和葉(かずは)は、元女子高の如月(きさらぎ)学園高校へ通うことになった。  今年から共学となったのである。  そこは竜馬が想像していた以上に男子が少なかった。  妹の和葉は学年一位の成績のGカップ美少女だが、思春期のせいか、女性のおっぱいの大きさが気になって仕方がなく、兄竜馬の『おちんちん』も気になって仕方がない。  スポーツ科には新屋敷兄弟と幼稚園からの幼馴染で、長身スポーツ万能Fカップのボーイッシュ少女の三上小夏(みかみこなつ)。  同級生には学年二位でHカップを隠したグラビアアイドル級美人の相生優子(あいおいゆうこ)。  中学からの知り合いの小柄なIカップロリ巨乳の瀬川薫(せがわかおる)。  そして小柄な美少年男子の園田春樹(そのだはるき)。  竜馬の学園生活は、彼らによって刺激的な毎日が待っていた。  新屋敷兄妹中心に繰り広げられる学園コメディーです。  それと『お気に入り』を押して頂けたら、とても励みになります。  よろしくお願い致します。

処理中です...