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十一話
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俺は処刑されるはずだった夜、この男に救われた。
「アーノルド、お前はどうやって俺の死刑を取り止めさせたんだ?」
「そんなの決まってんだろ。頭下げたんだよ国王に、ノアが欲しいから下さいってな」
「またお前はそうやってはぐらかす」
「本当だっての!! まぁ確かに多少交渉したけどな」
交渉? 罪人の解放に見合うだけの交渉材料なんてあるのか?
少なくとも俺には思いつかない。自分のやってきた事を帳消しにしてくれるようなモノなんて存在する方がおかしいと擦ら思えてしまう。
「エレイナ国が敗けたその後を聞いてるか」
「いいや。誰に聞いても話してくれなかった」
エレイナはゾルディアの領地になってしまったんだろう。それぐらいしか想像出来ずにいる。
「エレイナの土地を巡って貴族階級は皆話し合いって名の取り合いをしたんだ」
貴族にとって領地とは威厳であり生活の糧だ。領地から採れた物を一部巻き上げて自分たちの食糧としたり他領地に売買したり。領地が大きければ大きい程人の数は多くなり、戦争で最も重要な人員の収集もやりやすくなる。貴族として国に貢献するのにも役立つ領地の拡大。
だからこそ、青ざめた。ありえないような考えに芯が冷えていくのを感じる。
「お前まさか」
「領地の付与を断ってお前さんを手に入れた」
ここまで馬鹿だったとはな。
前代未聞だろう。
「俺は今アーノルド領地の民に憐れみを抱いている」
「俺はここ辺境の地だけで十分なんだよ。余計な手間省けるし何よりここは何処の領地よりも美しい」
辺境伯は任された土地が田舎だと馬鹿にされがちだが国境に近い分責任感が重いと聞く。そして戦争になった時狙われやすい。それがエレイナの土地を更に手に入れてしまえば軍資金や戦争の為の準備なんかも格段にしやすくなりそうなのだが。
「お前はそうでも民はどうだ?」
今よりずっと豊かになるかもしれない可能性を領主自ら放棄したなんて知れれば怒りそうだけどな。
「領地が増えるってことはそれだけ目の行き届かない場所が増えるってことだ。他領はどうか知らねぇが終戦後の今無理に領地を拡大するよりやる事は沢山あるだろ」
一応こいつにも考えがあっての行動らしい。それでも。
「俺を助けた理由にはならないだろ」
「なってるだろ? 領地よりお前が欲しかったんだよ」
そんな馬鹿な話あってたまるか。
これ以上は堂々巡りになりそうで開きかけた口を慎み代わりにアーノルドを睨みつける。
「何だ? そんな熱烈な視線向けられると.......」
どうなるのか聞く前にアーノルドのすねを蹴る。
「痛っ!! 何すんだノア!?」
「話の通じない相手は力尽くでねじ伏せろというのがエレイナの方針だったからな」
「物騒な教育だなおい」
実際はエレイナで教育らしい教育なんて受けていないが口からでまかせが出てきてしまう。アーノルドといると調子が狂わされっぱなしになるので不本意だが仕方ないとも思えた。
「それで、領地よりも俺を取ったセオ・アーノルドは俺を使って何したいんだ?」
「何って」
「お前も知っての通り俺の得意分野は奇襲と暗殺だ。領地を得なかった分取り返すなら一応は協力させてもらう」
それぐらいしか俺には出来ない。
「敵領地に放り込むなり気に入らない貴族の始末なり危険で出来なかったことを俺にさせればいいさ」
微力ながらも最善を尽くそう。アーノルドは敵であったと同時に今は(何故か)命の恩人なんだ。つまり俺はアーノルドの所有物になったも同然。主人は変われど誰かに忠誠を誓うやり方はエレイナにいた頃と変わらなかった、俺は命令に従うだけだ。
「はぁ.......いくら言っても信じてくれねぇのか。こればっかりはお前さんの悪い癖だと思うぞ」
アーノルドは困り果てた様子で頭を掻きながらじっと俺を見つめた。その視線があまりにも鋭くそして何か意味を持ったように見えたので思わずたじろいでしまう。
「ノア」
アーノルドの貫くような目を逸らすことすら出来ず立ち尽くす。何を言われるのか身構えて、息を飲んだ。
「今気づいたんだが、お前さん背は全然伸びてないな」
俺は今すぐ反旗を翻すべきなのかもしれない。
「アーノルド、お前はどうやって俺の死刑を取り止めさせたんだ?」
「そんなの決まってんだろ。頭下げたんだよ国王に、ノアが欲しいから下さいってな」
「またお前はそうやってはぐらかす」
「本当だっての!! まぁ確かに多少交渉したけどな」
交渉? 罪人の解放に見合うだけの交渉材料なんてあるのか?
少なくとも俺には思いつかない。自分のやってきた事を帳消しにしてくれるようなモノなんて存在する方がおかしいと擦ら思えてしまう。
「エレイナ国が敗けたその後を聞いてるか」
「いいや。誰に聞いても話してくれなかった」
エレイナはゾルディアの領地になってしまったんだろう。それぐらいしか想像出来ずにいる。
「エレイナの土地を巡って貴族階級は皆話し合いって名の取り合いをしたんだ」
貴族にとって領地とは威厳であり生活の糧だ。領地から採れた物を一部巻き上げて自分たちの食糧としたり他領地に売買したり。領地が大きければ大きい程人の数は多くなり、戦争で最も重要な人員の収集もやりやすくなる。貴族として国に貢献するのにも役立つ領地の拡大。
だからこそ、青ざめた。ありえないような考えに芯が冷えていくのを感じる。
「お前まさか」
「領地の付与を断ってお前さんを手に入れた」
ここまで馬鹿だったとはな。
前代未聞だろう。
「俺は今アーノルド領地の民に憐れみを抱いている」
「俺はここ辺境の地だけで十分なんだよ。余計な手間省けるし何よりここは何処の領地よりも美しい」
辺境伯は任された土地が田舎だと馬鹿にされがちだが国境に近い分責任感が重いと聞く。そして戦争になった時狙われやすい。それがエレイナの土地を更に手に入れてしまえば軍資金や戦争の為の準備なんかも格段にしやすくなりそうなのだが。
「お前はそうでも民はどうだ?」
今よりずっと豊かになるかもしれない可能性を領主自ら放棄したなんて知れれば怒りそうだけどな。
「領地が増えるってことはそれだけ目の行き届かない場所が増えるってことだ。他領はどうか知らねぇが終戦後の今無理に領地を拡大するよりやる事は沢山あるだろ」
一応こいつにも考えがあっての行動らしい。それでも。
「俺を助けた理由にはならないだろ」
「なってるだろ? 領地よりお前が欲しかったんだよ」
そんな馬鹿な話あってたまるか。
これ以上は堂々巡りになりそうで開きかけた口を慎み代わりにアーノルドを睨みつける。
「何だ? そんな熱烈な視線向けられると.......」
どうなるのか聞く前にアーノルドのすねを蹴る。
「痛っ!! 何すんだノア!?」
「話の通じない相手は力尽くでねじ伏せろというのがエレイナの方針だったからな」
「物騒な教育だなおい」
実際はエレイナで教育らしい教育なんて受けていないが口からでまかせが出てきてしまう。アーノルドといると調子が狂わされっぱなしになるので不本意だが仕方ないとも思えた。
「それで、領地よりも俺を取ったセオ・アーノルドは俺を使って何したいんだ?」
「何って」
「お前も知っての通り俺の得意分野は奇襲と暗殺だ。領地を得なかった分取り返すなら一応は協力させてもらう」
それぐらいしか俺には出来ない。
「敵領地に放り込むなり気に入らない貴族の始末なり危険で出来なかったことを俺にさせればいいさ」
微力ながらも最善を尽くそう。アーノルドは敵であったと同時に今は(何故か)命の恩人なんだ。つまり俺はアーノルドの所有物になったも同然。主人は変われど誰かに忠誠を誓うやり方はエレイナにいた頃と変わらなかった、俺は命令に従うだけだ。
「はぁ.......いくら言っても信じてくれねぇのか。こればっかりはお前さんの悪い癖だと思うぞ」
アーノルドは困り果てた様子で頭を掻きながらじっと俺を見つめた。その視線があまりにも鋭くそして何か意味を持ったように見えたので思わずたじろいでしまう。
「ノア」
アーノルドの貫くような目を逸らすことすら出来ず立ち尽くす。何を言われるのか身構えて、息を飲んだ。
「今気づいたんだが、お前さん背は全然伸びてないな」
俺は今すぐ反旗を翻すべきなのかもしれない。
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