人でなしの手懐け方

どてら

文字の大きさ
上 下
11 / 15

十一話

しおりを挟む
 俺は処刑されるはずだった夜、この男に救われた。

「アーノルド、お前はどうやって俺の死刑を取り止めさせたんだ?」
「そんなの決まってんだろ。頭下げたんだよ国王に、ノアが欲しいから下さいってな」
「またお前はそうやってはぐらかす」
「本当だっての!! まぁ確かに多少交渉したけどな」
交渉? 罪人の解放に見合うだけの交渉材料なんてあるのか?
少なくとも俺には思いつかない。自分のやってきた事を帳消しにしてくれるようなモノなんて存在する方がおかしいと擦ら思えてしまう。
「エレイナ国が敗けたその後を聞いてるか」
「いいや。誰に聞いても話してくれなかった」
エレイナはゾルディアの領地になってしまったんだろう。それぐらいしか想像出来ずにいる。
「エレイナの土地を巡って貴族階級は皆話し合いって名の取り合いをしたんだ」
貴族にとって領地とは威厳であり生活の糧だ。領地から採れた物を一部巻き上げて自分たちの食糧としたり他領地に売買したり。領地が大きければ大きい程人の数は多くなり、戦争で最も重要な人員の収集もやりやすくなる。貴族として国に貢献するのにも役立つ領地の拡大。

だからこそ、青ざめた。ありえないような考えに芯が冷えていくのを感じる。

「お前まさか」
「領地の付与を断ってお前さんを手に入れた」
ここまで馬鹿だったとはな。
前代未聞だろう。
「俺は今アーノルド領地の民に憐れみを抱いている」
「俺はここ辺境の地だけで十分なんだよ。余計な手間省けるし何よりここは何処の領地よりも美しい」
辺境伯は任された土地が田舎だと馬鹿にされがちだが国境に近い分責任感が重いと聞く。そして戦争になった時狙われやすい。それがエレイナの土地を更に手に入れてしまえば軍資金や戦争の為の準備なんかも格段にしやすくなりそうなのだが。
「お前はそうでも民はどうだ?」
今よりずっと豊かになるかもしれない可能性を領主自ら放棄したなんて知れれば怒りそうだけどな。
「領地が増えるってことはそれだけ目の行き届かない場所が増えるってことだ。他領はどうか知らねぇが終戦後の今無理に領地を拡大するよりやる事は沢山あるだろ」
一応こいつにも考えがあっての行動らしい。それでも。
「俺を助けた理由にはならないだろ」
「なってるだろ? 領地よりお前が欲しかったんだよ」
そんな馬鹿な話あってたまるか。

これ以上は堂々巡りになりそうで開きかけた口を慎み代わりにアーノルドを睨みつける。
「何だ? そんな熱烈な視線向けられると.......」
どうなるのか聞く前にアーノルドのすねを蹴る。
「痛っ!! 何すんだノア!?」
「話の通じない相手は力尽くでねじ伏せろというのがエレイナの方針だったからな」
「物騒な教育だなおい」
実際はエレイナで教育らしい教育なんて受けていないが口からでまかせが出てきてしまう。アーノルドといると調子が狂わされっぱなしになるので不本意だが仕方ないとも思えた。

「それで、領地よりも俺を取ったセオ・アーノルドは俺を使って何したいんだ?」
「何って」
「お前も知っての通り俺の得意分野は奇襲と暗殺だ。領地を得なかった分取り返すなら一応は協力させてもらう」
それぐらいしか俺には出来ない。
「敵領地に放り込むなり気に入らない貴族の始末なり危険で出来なかったことを俺にさせればいいさ」
微力ながらも最善を尽くそう。アーノルドは敵であったと同時に今は(何故か)命の恩人なんだ。つまり俺はアーノルドの所有物になったも同然。主人は変われど誰かに忠誠を誓うやり方はエレイナにいた頃と変わらなかった、俺は命令に従うだけだ。
「はぁ.......いくら言っても信じてくれねぇのか。こればっかりはお前さんの悪い癖だと思うぞ」
アーノルドは困り果てた様子で頭を掻きながらじっと俺を見つめた。その視線があまりにも鋭くそして何か意味を持ったように見えたので思わずたじろいでしまう。
「ノア」
アーノルドの貫くような目を逸らすことすら出来ず立ち尽くす。何を言われるのか身構えて、息を飲んだ。


「今気づいたんだが、お前さん背は全然伸びてないな」
俺は今すぐ反旗を翻すべきなのかもしれない。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

無自覚美少年のチート劇~ぼくってそんなにスゴいんですか??~

白ねこ
BL
ぼくはクラスメイトにも、先生にも、親にも嫌われていて、暴言や暴力は当たり前、ご飯もろくに与えられない日々を過ごしていた。 そんなぼくは気づいたら神さま(仮)の部屋にいて、呆気なく死んでしまったことを告げられる。そして、どういうわけかその神さま(仮)から異世界転生をしないかと提案をされて―――!? 前世は嫌われもの。今世は愛されもの。 自己評価が低すぎる無自覚チート美少年、爆誕!!! **************** というようなものを書こうと思っています。 初めて書くので誤字脱字はもちろんのこと、文章構成ミスや設定崩壊など、至らぬ点がありすぎると思いますがその都度指摘していただけると幸いです。 暇なときにちょっと書く程度の不定期更新となりますので、更新速度は物凄く遅いと思います。予めご了承ください。 なんの予告もなしに突然連載休止になってしまうかもしれません。 この物語はBL作品となっておりますので、そういうことが苦手な方は本作はおすすめいたしません。 R15は保険です。

俺のまったり生活はどこへ?

グランラババー
BL
   異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。  しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。    さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか? 「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」   BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。  以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。    題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。  小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

悪役令嬢に転生したが弟が可愛すぎた!

ルカ
BL
悪役令嬢に転生したが男だった! ヒロインそっちのけで物語が進みゲームにはいなかった弟まで登場(弟は可愛い) 僕はいったいどうなるのー!

残虐悪徳一族に転生した

白鳩 唯斗
BL
 前世で読んでいた小説の世界。  男主人公とヒロインを阻む、悪徳一族に転生してしまった。  第三皇子として新たな生を受けた主人公は、残虐な兄弟や、悪政を敷く皇帝から生き残る為に、残虐な人物を演じる。  そんな中、主人公は皇城に訪れた男主人公に遭遇する。  ガッツリBLでは無く、愛情よりも友情に近いかもしれません。 *残虐な描写があります。

使命を全うするために俺は死にます。

あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。 とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。 だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。 それが、みなに忘れられても_

処理中です...