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九話
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アーノルド邸に来て、二日が経った。主人不在のまま俺は今療養中と診断されベッドから動くことを禁じられている。少しでも動こうものなら(脱出を試みようものなら)何処からともなくケイトさんが飛んできて「お願いしますから逃げないで下さい!! 旦那様に知れたら私クビです、家族を養っているのに今解雇されたら沢山の兄弟が皆路頭に迷い、うぅぅぅ」と泣きつかれてしまう始末。
「ノアくんはまだまだ腰まわりが細いので肉を食べましょう、タンパク質を取らないと」
「あまり体重を増やせば戦で動きが鈍りますから」
筋肉のつきにくい体質もあって体格に恵まれなかった俺は力より技、重さより速さを重視した戦い方を身につけてきた。その為にできるだけ削ぎ落としてきた肉を今更つけろなんて。
「無理ですよ」
「もう戦争は終わったのに?」
「勝手に終わらされただけです」
俺はまだ何も終わっていないのに、必要な時にだけ使われ捨てられる、在り来りなモノとして生き方に自嘲の笑みを浮かべた。
「ノアくん。貴方はもう戦わなくていいのですよ?」
「俺にはそれしか無かったんだ」
誰にでもなく訴えた。もう過ぎてしまったことは戻らない。それでも嘆かずにはいられないのだ、なら俺の今までは何だったのかと。この気持ちはきっとエレイナが勝っても変わらず残っていたはずだ。結局俺には他の生き方なんて出来やしないのだ。
「アーノルド辺境伯には悪いですが俺はきっと彼の期待に添えませんよ」
人殺しだから。
そう何度も自身を責めているのにケイトは直接的には何も言ってこない。
「戦争は確かに嘆かわしいことですが、貴方のそれは旦那様にも言えることです」
怒ったように言葉を紡ぐケイトさん。
その言葉にはっとした。確かにそうだ。アーノルドも俺と戦場で合間見えた。命令されただけの俺とは違い彼は守るべき民のため自身の尊厳と名誉の為に剣を振るっていたというのに。
俺が俺の事を吐き捨てた分だけアーノルドのことまで悪く言われていた気分になっていたに違いない。誰だって主人のことを責められれば腹が立つ。
「すみません、気を悪くさせてしまいましたよね」
言葉選びは本当に難しい。俺はそれが苦手でいつも仲間から睨まれ続けていたんだったな。
「俺はただ俺自身が許せないだけなんです。何も出来なかった俺が今こうして生きていること自体後ろめたくて」
今にも逃げ出してしまいたくなる。
俺の周りには帰りを待つ家族がいるもの、大切な人に伝えそびれた気持ちを秘めている人達が沢山居た。そんな中で俺だけがどうして生きているんだ、そう自問してしまう。
「.......ように」
口に出来なかった弱音までケイトさんには届いてしまったらしい。彼は悲しみを滲ませた表情で何かを囁いた。
「今何と?」
「いいえ何でも。それよりノアくん、これからはそんなふうに仰らないで下さいね? 旦那様が聞いたら号泣してこの部屋を水浸しにしかねませんので」
アーノルドが俺の為に泣くなんておかしな冗談だ。思わず微笑んだ俺にどこか胸を撫で下ろしたケイトさんは続けて口にした。
「今までの貴方を私は存じ上げませんがこれからは役に立たないなんて誰にも言わせません、体調が回復すればまず屋敷の使用人として頑張って頂きますので覚悟しておいて下さいね!!」
力強い物言いにたじろぎながら頷くと「宜しい!!」なんて一声を浴びせられ、いつもより多めな食事を平らげるまで穴が開く程見られた。
「早い所体重増やそう、でないと胃が死ぬ」
目下の目標を掲げながら大人しく言われた通り今日もベッドで天井を見上げ続けた。
「どうか、この子が胸を張って笑えますように」
ケイトの願いはいまだノアには届いていない。
「ノアくんはまだまだ腰まわりが細いので肉を食べましょう、タンパク質を取らないと」
「あまり体重を増やせば戦で動きが鈍りますから」
筋肉のつきにくい体質もあって体格に恵まれなかった俺は力より技、重さより速さを重視した戦い方を身につけてきた。その為にできるだけ削ぎ落としてきた肉を今更つけろなんて。
「無理ですよ」
「もう戦争は終わったのに?」
「勝手に終わらされただけです」
俺はまだ何も終わっていないのに、必要な時にだけ使われ捨てられる、在り来りなモノとして生き方に自嘲の笑みを浮かべた。
「ノアくん。貴方はもう戦わなくていいのですよ?」
「俺にはそれしか無かったんだ」
誰にでもなく訴えた。もう過ぎてしまったことは戻らない。それでも嘆かずにはいられないのだ、なら俺の今までは何だったのかと。この気持ちはきっとエレイナが勝っても変わらず残っていたはずだ。結局俺には他の生き方なんて出来やしないのだ。
「アーノルド辺境伯には悪いですが俺はきっと彼の期待に添えませんよ」
人殺しだから。
そう何度も自身を責めているのにケイトは直接的には何も言ってこない。
「戦争は確かに嘆かわしいことですが、貴方のそれは旦那様にも言えることです」
怒ったように言葉を紡ぐケイトさん。
その言葉にはっとした。確かにそうだ。アーノルドも俺と戦場で合間見えた。命令されただけの俺とは違い彼は守るべき民のため自身の尊厳と名誉の為に剣を振るっていたというのに。
俺が俺の事を吐き捨てた分だけアーノルドのことまで悪く言われていた気分になっていたに違いない。誰だって主人のことを責められれば腹が立つ。
「すみません、気を悪くさせてしまいましたよね」
言葉選びは本当に難しい。俺はそれが苦手でいつも仲間から睨まれ続けていたんだったな。
「俺はただ俺自身が許せないだけなんです。何も出来なかった俺が今こうして生きていること自体後ろめたくて」
今にも逃げ出してしまいたくなる。
俺の周りには帰りを待つ家族がいるもの、大切な人に伝えそびれた気持ちを秘めている人達が沢山居た。そんな中で俺だけがどうして生きているんだ、そう自問してしまう。
「.......ように」
口に出来なかった弱音までケイトさんには届いてしまったらしい。彼は悲しみを滲ませた表情で何かを囁いた。
「今何と?」
「いいえ何でも。それよりノアくん、これからはそんなふうに仰らないで下さいね? 旦那様が聞いたら号泣してこの部屋を水浸しにしかねませんので」
アーノルドが俺の為に泣くなんておかしな冗談だ。思わず微笑んだ俺にどこか胸を撫で下ろしたケイトさんは続けて口にした。
「今までの貴方を私は存じ上げませんがこれからは役に立たないなんて誰にも言わせません、体調が回復すればまず屋敷の使用人として頑張って頂きますので覚悟しておいて下さいね!!」
力強い物言いにたじろぎながら頷くと「宜しい!!」なんて一声を浴びせられ、いつもより多めな食事を平らげるまで穴が開く程見られた。
「早い所体重増やそう、でないと胃が死ぬ」
目下の目標を掲げながら大人しく言われた通り今日もベッドで天井を見上げ続けた。
「どうか、この子が胸を張って笑えますように」
ケイトの願いはいまだノアには届いていない。
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