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二話
しおりを挟むこの拠点に人がいないとバレないよう、俺は皆が逃げた先とは反対方向に一人歩いていく。進む先は敵軍の拠点地、俺の姿を見かけた敵兵が襲撃だと騒ぎ立て注目をこちらに集める。
あっという間に武装した兵に囲まれ刀を向けられる。俺は深呼吸をしてから構えた。数の差なんてどうだっていい、味方が例え一人もいなくても問題ない。
「エレイナの兵と見られる男を発見、武器を所持していますっ!!」
「一人じゃないか、早く殺せ」
その合図より先に敵兵一人の懐に入り込み、構えきっていた刀を振らせることすらなく腹を切り裂く。血飛沫に他の連中が目を取られている隙をついて一人、二人、続け様に斬っていく。慌てて声を荒らげながら振りかぶってきた男の動きを見切り、首に一筋刀を入れた。
六人斬った所で刀の方が駄目になったので足元に倒れている亡骸から拝借しまた斬り続ける。勇敢な雄叫びが悲鳴に変わるまで時間はかからなかった。
気がつけば辺り一面人が転がっている。いい加減足場を整えなければ、そんな事を片隅に考えていた時今までとは違う力強い一太刀が顔を掠めた。
「ほぉ、お前さんが死神ってやつか」
くそ、後ろに退きたいのに少しでも隙を見せれば間合いに入り込まれそうな気迫だ。
俺よりも長い太刀を力一杯振りかざしてくる迷いのない動き。対抗するために目を狙うが僅かに避けられ髪を少し斬っただけに終わる。落ちた金髪が地面につくよりも先にまた思い一打が飛んできた。
「会いたかったぜ、まさかそっちから来てくれるとはなぁ」
「出迎えが丁重で助かる。無駄口叩いてる余裕もあるなんて見上げた奴だな、随分名のある騎士様らしい」
皮肉げにそう吐き捨てたが実際は俺に余裕が無いだけだった。疲弊した身体に鞭打ってここまで苦闘してきたけれどこれ以上立っていれば意識が遠のいてくる。
ここまでかもしれない。
味方は皆逃げれただろうか? 俺は決していい奴ではなかったから死んでもきっと惜しまれないだろうけど責任を感じていたら嫌だな。
「戦いの最中に考え事か? 辞世の句なら後にしな」
「そんな品のある死に方なんて望んでないさ」
「思っていたより幼いな.......なぁあんた前にどこかで」
「悪いが俺には時間がないんだ」
一刀に賭ける気で相手を見据えた。力強く地面を蹴り上げ、持てる最速で相手に斬り掛かる。意表をつかれたのか男は避けようと身体を無理に動かそうとして隙ができた。
斬った、そう思った瞬間足に力が入らなくなって地面に叩きつけられた。どうやら右足を撃たれたらしい。とめどなく流れる血に意識を持っていかれながらも今際の際に男の顔が焼き付いて離れない。
どうして俺を見て悲しそうにしているのか。
そんな疑問だけを残しながら、二度と開けられないであろう瞼をゆっくり閉じていた。
「.......今、撃ったのは誰だ」
「アーノルド辺境伯この者の処理を早く」
「今俺の邪魔をしたのはどいつだって聞いてんだよ」
力なく横たわったノアは知らない。彼が今しがた斬りあった相手の名前もその相手がどんな思いをノアに向けていたのかも。
セオ・アーノルドは怒りを隠そうともせず「あの死神を撃った」と自慢げに騒いでいる男に遠慮のない拳を一撃くらわせる。何故殴られたのか騒然とする周囲を置いてセオは意識を失ってしまったノアに自身が羽織っていた騎士服をかけてやり、ゆっくりと横抱きに持ち上げた。
「アーノルド辺境伯何を!?」
「こいつを医者に見せる、まだ息があるんだ。利用できるなら最後まで徹底的に利用する、そうだろ?」
周囲はセオの言葉にようやく納得した。つまり生かしておいて情報を絞り出させようとする魂胆らしいと勝手に解釈したのだ。
だから誰も違和感なんて持たず気づきもしなかった。
「やっと見つけた」
セオの顔が愛しい者へ向けられる慈悲に満ちていたことに。
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