上 下
51 / 55
私の大切な人

愛しきキミと一緒に_1

しおりを挟む

 本当に、つい先日まで『結婚なんてずっと先のお話で、したいとは漠然と考えていてもどこか自分とはまだ無縁の話』だと、ゆあは思っていた。それなのに、今の自分は驚くほどハイスペックの男性と、政略でも計算でもなんでもなく結婚している。誰もが憧れるような夢物語を、知らないうちに引き寄せて抱き締めていたのだ。自分から手を伸ばしただけではなく、相手も手を伸ばしお互いの手を握って離さなかった。それだけのことと言ってしまえばそれだけのことなのに、得たものはほかのなによりも誰よりも大きいものだった。
 優しい目と声で話すハルトを見ていると、胸の奥からじんわりと温かいものがこみあげてきて、それが心にめいっぱい広がっていくことが良くわかる。それを感じると『あぁ、この人と一緒にいることができて本当に良かった』と、何度でも噛み締めることができた。

「……ゆあ?」
「……え?」
「どうしたの? なにかあった?」
「あっ、ううん! ちょっと、考え事してただけ」
「もしかして、急に不安になったり?」
「そうじゃないよ! ……なんだか、今こうしてここにいることが不思議で……なんて言ったら、ハルトさん怒る……?」
「どうしてそう思うの?」
「え、っと……その、上手く言えないんだけど……。ちょっとふわふわして、浮かれてるって言うのかな、だからこそ実感がわかないって言うか。でも、ハルトさんが私の旦那さんだっていうのは紛れもない事実で、当たり前なんだけどそうだから目の前にいるんだけど……。今日会った人たちに結婚の報告して、それが披露宴で私はウェディングドレス着ていて、ハルトさんも当然タキシードで。……ううう、ダメ、自分でも良くわからなくなってきちゃった……」
「ふふっ。ゆあらしいんじゃない?」
「私らしい?」
「そう。ゆあらしい。……悪い意味じゃないよ。僕は、そんなゆあが好きなんだから」
「ハルトさん……」
「嫌でも実感はわいてくるよ。だってこれから、ずっと一緒にいるんだから。歳をとって、おじいちゃんおばあちゃんになるまで。ずっと、ずっと」
「……うん」

 愛おしそうにハルトはゆあの髪を撫でた。連日の忙しさと、目まぐるしく変わる環境に疲れたのだろう。そして、気持ちがしっかりとまだ追いついていない。それならば、自分がゆあをしっかりと支えて現実だと見せてやれば良い。安心できるまで、何度でも、いつまでも。そう思いながら動かすハルトの指先は、ゆっくりと熱を帯びていった。

「……やっぱり、ウェディングドレスでもカラードレスでも、どちらか片方だけでも着て来られなかったのは勿体なかったかな」
「もう一度着る楽しみがあるから、体重と体型油断しないようにしなきゃ」
「そうだよね、ゆあはそっちだよね」
「……あれ、違ったかな? だって、せっかくのドレスなんだよ? もう一度あの姿でハルトさんの隣を歩けるんだから。……綺麗って、可愛いって思ってもらいたいじゃん?」
「それはそれで嬉しいよ。でもね。……男なら思う人も多いんじゃないかな」
「なにを?」
「自分のために着飾った相手を、脱がせてみたいと思うの」
「えっ!?」

 頭を撫でることをやめ、ハルトはゆあを抱えてベッドへと向かう。ぽかんと口を開けたまま、ゆあはただ運ばれていく。ドサリと音を立ててベッドへと運ばれたあと、ゆあの見ている前でハルトは着ていた服を脱ぎ始めた。

「……男の人のそういう気持ち、私にはまだわからないかも……」
「わからなくても良いよ? ただ、ゆあには隠し事するつもりはないから、僕の全部を見て欲しいとは思っているけど。……こんな姿も含めてね」

 そう言って平常心を保つフリをしながら少し恥ずかしそうに笑うハルトを見て、ゆあは胸の奥をキュッと掴まれたような感覚を覚えた。今までも何度か感じていたこの感覚。甘酸っぱくてくすぐったいその感覚は、その度にゆあの中の『ハルトを好き』という気持ちを簡単に大きくしていった。

「……好きだもん。まだ、私の知らないハルトさんがいたとしても」
「……本当に?」

 ハルトがベッドに体重をかけると、先ほどよりも大きく軋む音が聞こえた。2人しかいないベッドルームに、ハルトの声と少しの沈黙が響く。

「……うん」

 そう答えて、ゆあは沈黙を破った。その気持ちに偽りはない。ハルトはいつでもゆあを助け、支えてくれた。だから、その気持ちに応えたい。そんな大層なものではなかったとしても、知らない一面を知ることをマイナスではなくプラスだと考えたかった。大袈裟でも良い、逆に、ちっぽけでもいい。

「僕と結婚したことをゆあが後悔しないように、僕はこれからも頑張るから。胸を張って『ゆあの夫です』って言えるように」
「今でも十分なのでは……?」
「そう? ……それなら嬉しいなぁ」

 無邪気に笑うハルトは、そのままゆあを抱き締めた。頭では色々考えていても、いざ言葉にしようとするとなにも浮かばない。誤魔化すわけではないが、今のそんな気持ちを表現するのに最適だと思ったからだ。そんなハルトの気持ちを知ってか知らずか、少し間をおいてゆあも抱き締め返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

セックスセラピスト

フジキフジコ
恋愛
「セカンドパートナー*夫婦交換*」に登場した遊佐江梨子の話です。 続編というわけではなく別のお話ですが、「セカンドパートナー」その後の江梨子の話です。今回も、大人のエロスを目指します(´∀`) 【第一部 江島花恵】 都議会議員の妻、花恵は28歳。夫婦は長年セックスレスだった。 江梨子は花恵と関係を持ち、自分の夫との3Pに誘う。 【第二部 江島秀一】 花恵は自分の留守中、江梨子にハウスキーパーを依頼する。 秀一には触れられたくないトラウマがあった。 【第三部】 現在執筆中です。しばらくお待ちください。少々SM風味になる予定です。

吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。 金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ! おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。 逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。 結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。 いつの間にか実家にざまぁしてました。 そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。 ===== 2020/12月某日 第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。 楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。 また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。 お読みいただきありがとうございました。

【完結】11私は愛されていなかったの?

華蓮
恋愛
アリシアはアルキロードの家に嫁ぐ予定だったけど、ある会話を聞いて、アルキロードを支える自信がなくなった。

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

ケモ耳女性達とハーレムライフ

錏陀羅龍
ファンタジー
新神のミスにより死んでしまい、異世界に転生する事になった22歳の童貞男のケモ耳イチャラブ生活。 転生した異世界は、獣人女性が人間男性に欲情してしまう世界だった。 女神から与えられたチート能力で、ケモ耳女性達を幸せにする為、悪に立ち向かう主人公。 話の進み具合が遅いのは、わざとそうしているので、モヤモヤさせてしまったらすみません。

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

【完結】2愛されない伯爵令嬢が、愛される公爵令嬢へ

華蓮
恋愛
ルーセント伯爵家のシャーロットは、幼い頃に母に先立たれ、すぐに再婚した義母に嫌われ、父にも冷たくされ、義妹に全てのものを奪われていく、、、 R18は、後半になります!! ☆私が初めて書いた作品です。

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

処理中です...