33 / 55
遠い国で
社員旅行で待っていたのは……_4
しおりを挟む「ビュッフェだもんね、荷物、見てようか? ゆあ先に取りに行ってきて良いよ?」
「栞ちゃんこそお先にどうぞ?」
「あらあら。私が見ていても良いわよ? どうぞ?」
春川のグループの1人が、ゆあと栞に声をかけた。
「あ、いえ、大丈夫です」
「荷物小さいし持って行こうか」
「……」
申し出を断って、ゆあと栞は荷物を持って席を立った。
「……正直、なにされるかわかんないよね?」
「春川さん達には申し訳ないけど、うん……」
離れた場所で、2人はヒソヒソと思ったことを話していた。
「100パーの善意だったら悪いけどさ……なんかちょっとニヤニヤしてたし、あんまり関わらないでおこう……」
「うん……」
あまり春川のグループに良いイメージを持っていない2人は、できるだけ一緒に過ごすことに決めた。
――しかし、予定外の事態が起こる。
「……あら? 東条さん、アナタこんなところにいたの?」
「え? どうかしましたか?」
一旦トイレのために栞と離れたゆあに、春川が声をかけた。
「さっき、大和さんがアナタのこと探していたわよ?」
「栞ちゃんが……?」
「えぇ。なんでも、時間限定のスイーツを食べに行きたいから、先に出てるわよって」
「えぇ!? そんなの初耳……」
「随分急いでたわよ? 色んな人に『東条さんに会ったら伝えておいてください!』って言っていたけど。てっきり、一緒に行く約束をしているのかと思ったのに」
(……もしかして、あのお店かな……?)
ゆあには心当たりがあった。昨日の夜、2人で『停泊したら絶対に寄りたいお店だね』と話していたカフェだ。珍しいものが食べられるわけではなかったが、お店の内装とカトラリーが可愛くて、一度見てみたいと選んだお店。ちょうど、お昼に向けて時間限定のタルトが提供されることになっており、フルーツのたくさん載ったその大きなタルトを、2人で分けて食べようと話をしていたのだ。
「それってもしかして、このお店ですか?」
ゆあは春川にホームページを見せた。
「あぁ、多分そこね。良いの? 行かなくて」
「え、なんで先に行っちゃったんだろう……? 2人で移動しようねって話してたのに……」
「私たちもそのお店に今から行くんだけど、良かったら一緒にどう? 小さなお店みたいだから、席の確保でもしたかったんじゃないかしら?」
「そっか……栞ちゃんに聞いてみなきゃ」
「早くいかないと置いていくわよ? アナタ1人でお店まで辿り着けるの?」
「え、あ、それは無理かも……」
「タクシー待たせてあるから、早くしなさい」
「はいっ!」
(もー……栞ちゃん、それならそうだって連絡ほしかったな……)
少し納得がいかなかったものの、自分の思っていることと春川の発言が一致したため、ゆあは春川たちについて行くことに決めた。確かに、栞がお店へ籍の確保に向かったのなら、自分も急がないと待たせてしまうことになる。自分一人では迷ってしまうかもしれないが、同じお店に行こうとしている人が他にもいるなら心強い。たとえそれが、春川たちであってもだ。土地勘もない、言葉も完全に通じる自信がない場所で、1人で行動するにはゆあは不安だった。――まだ、春川たちと一緒に行動したほうが、仲がいいとは言えないが、知っている人間が側にいたほうが安心できる。
春川たちの後をついて、一緒にタクシーへと乗り込んだ。タクシー内での会話は特になかったが『大和さんに連絡したら、やはり一人で行動しているようだった』と教えてくれた。その言葉にゆあはほっと胸を撫で下ろし、楽しみにしていたカフェへの到着を今か今かと待ちわびていた。
「――あら、着いたみたいね? あのお店じゃないかしら?」
一軒の可愛らしいお店。テラス席も楽しめるように、お店の外にも席が用意されている。
「中にいるかもしれないわね。入りましょう」
「あ、はいっ」
春川に促されて、ゆあはお店へ入った。通されたのは大きなソファが円形にテーブルを囲っている席で、だがしかしそこに栞の姿はない。
(あれ? お店にいると思ったけど、まだ来てないのかな? それとももしかして、別の席に座ってたりする?)
ゆあはキョロキョロと辺りを見渡した。だが、見える範囲内に栞の姿は見えなかった。
(おかしいな……? 私たちよりも先に出たんだから、もう着いていてもおかしくないのに……)
「あら、どうかしたの?」
「あ、えっと、栞ちゃんがいないなと思って……」
「あら、本当? お店間違えてはないと思うのだけれど。私が連絡してみるから、アナタは他の子たちと一緒にメニュー頼んでなさい。私の分は、誰かと同じものを頼んでおいて?」
「わかりました……」
心なしか強い口調に聞こえたが、差し出されたメニューに心を奪われ、大人しくソファに座った。
「きっとすぐ来るわよ」
「道が混んでいたから、ちょっと遅れているのかもね」
「もしかしたら、トイレに立っているのかもしれないし」
席には、ゆあ含め4人が座っていた。春川が座っても、まだ1人分の余裕はある。ゆあはそこに栞が座ることを期待して待っていたが、注文も終えたころ戻ってきたのは春川だけだった。
「あの、栞ちゃんは……」
「それが、道が混んでいてまだ来れないそうよ。同じようにタクシーに乗ったみたいだけど、運転手がなれない人だったみたいね」
「そう、ですか……」
「しばらく待っていたらきっと来るわ。さ、座って注文が来るのを待ちましょう」
3
お気に入りに追加
251
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~
taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。
お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥
えっちめシーンの話には♥マークを付けています。
ミックスド★バスの第5弾です。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる