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お店の裏側
【夜】久し振り
しおりを挟む店長の言った通り、ユキトは夜の店に予約を入れていた。そこまで沢山の時間が経ったわけではなかったが、アヤはもうずっとユキトと会っていない気持ちになっていた。
“今日は……! ユキトさんに! 会えるんだ!”
嬉しさのあまり、自分でも気付かぬうちに鼻歌を歌っていた。
「……アヤさん、何か良いことあったんですか?」
「えっ!? なんで!?」
「鼻歌、聞こえてますよ?」
「あ、はは……。煩かったよね、ごめんね、モエ」
「いえ、全然。……俺にも、そうやって鼻歌歌えるくらい良いことがあったら嬉しいんですけどね」
今日はモエと同じ夜のシフトだった。まだモエは制服に慣れないようで、着替え終わったあと俯きながら誰とも視線を合わせないようにしている。
しかし、そんなモエでも気になったものがあった。
「……嬉しそうに、その首輪つけますね」
「……変かな?」
「いえ、そういうわけではないです」
「……ユキトさんって人に、キープしてもらったんだけどね。……初めて、夜の仕事が待ち遠しい、そう思えたんだ」
思わず顔が綻ぶ。
「……アヤさんがそうな風に言うなら。きっと、素敵な方なんでしょうね」
「……うん! 優しくて、カッコよくて……まさか、この仕事をしていて、人を好きになるなんて思わなかったな」
「好き……いい、ですね。……俺も、そんな人に出会えたらいいなって、そう思います」
悲しそうな顔で笑うモエを見ていると、昔の自分と重なるような気がした。
「先に、お店に出てるね。モエは、ゆっくりで大丈夫、だよ?」
「はい!」
お店に出る前準備を既に済ませていたアヤは、モエよりも先に夜の闇へと向かう。どこか楽しげな雰囲気で。
「俺にも……もしかしたら……」
小さく呟いたモエの声は、もうすぐに聞こえなくなった。
「おぉ、アヤくんじゃないか。久しぶりだね」
「オオダカさん! ご無沙汰しています!」
オオダカと呼ばれた、ロマンスグレーの男性は店に入ってきたアヤを見て声をかけた。
「……おや? その首輪は……」
「あの、実は、キープをしていただきまして……」
「おお! おお! そうだったんだね。……おめでとう」
「ありがとうございます! そ、それに……身請け、も……」
おいでおいでと手招きすると、ニコニコと寄ってきたアヤの頭を撫でる。
「凄いじゃないか! 良かったね! 私も是非、アヤ君を指名した方にお会いしてみたいものだね」
「あ……今日、来られるみたいで」
「そうかね。……もし、お会いしても構わなければ、黒服を通して声をかけてくれるかな? 今日は時間があるから、少し遅くまでいるつもりだよ」
「分かりました! 聞いてみますね」
「ちなみに、その方はまだ来ていないのかな? まだなら、私の一杯に付き合ってはくれないかい?」
「もちろんです! お隣、良いですか?」
「あぁ、座りなさい。オレンジジュースで良いかな?」
「はい! ありがとうございます!」
「君! 私はアヤ君を指名するよ。大丈夫かな?」
「もちろんですオオダカ様。……ただ、キープされている身ですので……。オオダカ様は大丈夫と存じますが、ルールのみご注意ください」
「大丈夫、わかっているよ。私にジントニック、アヤ君にオレンジジュースを一杯頼む。あと、チョコレートもお願いしよう」
「承知いたしました」
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