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Chapter 3.ペット以上になりたい俺は、異世界暮らしに本気出す
3-11 超絶美人とポン
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ククルフ トゥル ククトゥールル。
その究極の愛の言葉を、近い発音で声に出す練習と、書き文字の練習を繰り返すこと、3日。
人間の俺には絶対出せない音が混じっているので、完璧な発音には程遠いけど、何とか通じるかな?――という段階にまでなってきた。
この言葉を告げて、俺の気持ちをヴァルに伝えたいと思うんだけど、この3日、ヴァルは仕事で遠くに出かけているらしく、まったく会えていない。
今、やっと帰ってきた――と思ったら、誰か知らない人と一緒だ。
「ユート、紹介しよう。彼女はミナ・ピュリカ。俺の遠縁で、長年の友だ」
俺は目の前に現れたその人を見て、驚いた。一言でいうなら、「ケモ耳ナイスバディ超絶美人」だ。
遠縁と言ってたし、多分、この女性も狼人種なんだろう。耳と尻尾の形状が、ヴァルのそれとよく似てる。
上品なドレスに身を包んだその女性は、所々赤いメッシュの入った茶褐色の豊かな髪を、腰辺りまで伸ばしていた。髪と同色の、ツヤツヤした尻尾もある。
そして誰が見ても美人と言うに違いない顔立ち。
長い睫毛に縁どられた茶色い瞳は、光を受けて赤みを帯び、キラキラと輝いてる。美しいだけでなく、力強い意思を感じる瞳だ。チラッと見ただけでも目が吸い寄せられてしまう。
スタイルも抜群で、メリハリのある女性らしい体形だ。
身長は、ヴァルより20㎝ほど低い感じだから……220㎝ぐらいだろうか。160㎝ぐらいの俺から見ると、彼女もやはりとても背が高い。狼人種って、みんなこんなに背が高くてスタイルがいいんだろうか。それともヴァルとこの人が、特別に外見に恵まれているんだろうか。
とにかく一度見たら忘れないぐらい、常人離れした魅力とオーラ。ポカンとアホ面を晒して、つい、見とれてしまうほどに。
「よろしく、ユート。会えて嬉しいわ。あなたのことは、ヴァルから聞いていてよ。とても賢いと、自慢話ばかりをね」
彼女のつややかな声を聞いて、俺はハッとした。この間、中庭の東屋でヴァルと話していた女性だ。誰かを譲る譲らないという話をして、「結婚して」とヴァルに迫っていた、あの女性だ!
こ、こんなダイナマイト美女だったのか!!
な、な、何しに来たんだ?!
まままま、まさか、俺を譲り受けに来たんじゃないだろうな?!
俺は動揺のあまり、カチーンと固まってしまった。
その俺の様子を誤解したらしく、彼女は柔らかく笑いながら言った。
「大丈夫、怖くなくてよ? ユート、わたくしもね、ニンゲンと一緒に暮らしているの。一年前に、ヴァルから譲ってもらった子よ。紹介するわ。ポン、いらっしゃい」
ナイスバディ美人――ミナの後ろから、小さな子供がピョコン、と姿を現す。
見たところ8歳前後。
身長は俺より30㎝ぐらい低い感じだから、130㎝ぐらいだろうか。
浅黒い肌で、くりくりとした大きな目をした可愛らしい子だ。
瞳は赤みを帯びた茶色で、ミナの目の色に似ている。
その子供は、レースと刺繍で飾られた、見るからに上等そうな服を着て、ミナのスカートを掴んだまま恥ずかしそうな様子でこちらを見ている。
ミナはその子をそっと前に出すと、言った。
「瞳の色が、わたくしと似ているでしょう? ヴァルから紹介されたとき、一目で気に入って、引き取ったの。今では大切な家族よ。ねえユート、この子と一緒に遊んでくれない? 大丈夫よ、とても穏やかな優しい子なの。さあポン、あのニンゲンのお兄ちゃんに遊んでもらいなさい?」
ポンはあどけない表情でミナを見上げると、コクリと頷いて、俺の方におずおずと近寄ってきた。俺はとりあえず、話しかけてみる。
「え……え……。えぇっと……、ポ、ポン? おまえ、日本語、わかる?」
ポンはきょとんとした目で俺を見つめ、「あうあーうあー」と、意味の分からない声を上げた。
「だよなぁ~……。見るからに日本人じゃないし、やっぱ日本語なんか通じないわなぁ。でも遊ぶって言っても、何したらいいの……」
俺は戸惑いながらも、ポンに手を差し出した。すると彼は俺の手を握り、嬉しそうにニコーッと笑う。手の形状が自分と同じだということに気付いたのか、俺の指を触りながら、しげしげと観察している。
「あ~うん、……そうだよ、俺たち同じ人間だよ。狼人種の立派な爪も、ぷにぷにの肉球も無い。おまえは、どこの国の子だったんかな。見たとこ、大切にされてるみたいで、良かったな。まあ座れ、折り紙でも折るか? 絵本でも見るか? あ、クッキー食べる?」
クッキーの盛られた皿を差し出すと、ポンはチラリとミナの方を見た。その視線に気付いたミナが、にっこり微笑む。
「よくてよ、ポン。頂戴なさい。ユートにありがとうも忘れずにね?」
「あうあうあー!」
ポンは俺に会釈すると、傍に置いてあった紙ナプキンの上にクッキーを一枚乗せ、ソファに座って食べ始めた。俺もポンの隣に座り、クッキーをつまみながら話しかける。
「はあ……おまえ、よく躾けられてんなぁ。なんてお行儀がいいんだ。それにしてもおまえの飼い主、やたら美人じゃん? ……ハッ! まさかおまえ、あの美人のお姉さんと一緒に寝てんのか?!」
「んあ?」
「羨ましい……なんてこと、ないぞ。俺だって、ヴァルと一緒に寝……。いや今は、一人寝……。寂しくなんか……ないからな。ベッド広くていいぞぉ……倒立前転、何回だっていけるぞぉ……。違う、強がりなんかじゃ、ないからな……」
「んふ?」
「……おまえ、無邪気だな。クッキー、もっと食べていいんだぞ? それにしても、ここに、何しに来たんだ……? 本当に、遊びに来ただけか?」
飼ってるニンゲンを交流させようとしてる……というのは表向きで、目的はそれじゃない気がする……。
まさか……まさかヴァル、もう俺を手放すつもりじゃ、ないだろうな?
この美人狼に、俺を譲るとか……じゃないだろうな?!
ち、ち、違うよな、ヴァル?!
不安を抱えながらヴァルをじーっと見ていると、ヴァルは何だかソワソワしながら近づいてきて、口を開いた。
「ユート、話があるんだが……」
な、なんだよヴァル?!
なんで、そんな思いつめたような表情で、俺を見るんだよ?!
嫌だ、俺、どこにも行かないからな!!
その究極の愛の言葉を、近い発音で声に出す練習と、書き文字の練習を繰り返すこと、3日。
人間の俺には絶対出せない音が混じっているので、完璧な発音には程遠いけど、何とか通じるかな?――という段階にまでなってきた。
この言葉を告げて、俺の気持ちをヴァルに伝えたいと思うんだけど、この3日、ヴァルは仕事で遠くに出かけているらしく、まったく会えていない。
今、やっと帰ってきた――と思ったら、誰か知らない人と一緒だ。
「ユート、紹介しよう。彼女はミナ・ピュリカ。俺の遠縁で、長年の友だ」
俺は目の前に現れたその人を見て、驚いた。一言でいうなら、「ケモ耳ナイスバディ超絶美人」だ。
遠縁と言ってたし、多分、この女性も狼人種なんだろう。耳と尻尾の形状が、ヴァルのそれとよく似てる。
上品なドレスに身を包んだその女性は、所々赤いメッシュの入った茶褐色の豊かな髪を、腰辺りまで伸ばしていた。髪と同色の、ツヤツヤした尻尾もある。
そして誰が見ても美人と言うに違いない顔立ち。
長い睫毛に縁どられた茶色い瞳は、光を受けて赤みを帯び、キラキラと輝いてる。美しいだけでなく、力強い意思を感じる瞳だ。チラッと見ただけでも目が吸い寄せられてしまう。
スタイルも抜群で、メリハリのある女性らしい体形だ。
身長は、ヴァルより20㎝ほど低い感じだから……220㎝ぐらいだろうか。160㎝ぐらいの俺から見ると、彼女もやはりとても背が高い。狼人種って、みんなこんなに背が高くてスタイルがいいんだろうか。それともヴァルとこの人が、特別に外見に恵まれているんだろうか。
とにかく一度見たら忘れないぐらい、常人離れした魅力とオーラ。ポカンとアホ面を晒して、つい、見とれてしまうほどに。
「よろしく、ユート。会えて嬉しいわ。あなたのことは、ヴァルから聞いていてよ。とても賢いと、自慢話ばかりをね」
彼女のつややかな声を聞いて、俺はハッとした。この間、中庭の東屋でヴァルと話していた女性だ。誰かを譲る譲らないという話をして、「結婚して」とヴァルに迫っていた、あの女性だ!
こ、こんなダイナマイト美女だったのか!!
な、な、何しに来たんだ?!
まままま、まさか、俺を譲り受けに来たんじゃないだろうな?!
俺は動揺のあまり、カチーンと固まってしまった。
その俺の様子を誤解したらしく、彼女は柔らかく笑いながら言った。
「大丈夫、怖くなくてよ? ユート、わたくしもね、ニンゲンと一緒に暮らしているの。一年前に、ヴァルから譲ってもらった子よ。紹介するわ。ポン、いらっしゃい」
ナイスバディ美人――ミナの後ろから、小さな子供がピョコン、と姿を現す。
見たところ8歳前後。
身長は俺より30㎝ぐらい低い感じだから、130㎝ぐらいだろうか。
浅黒い肌で、くりくりとした大きな目をした可愛らしい子だ。
瞳は赤みを帯びた茶色で、ミナの目の色に似ている。
その子供は、レースと刺繍で飾られた、見るからに上等そうな服を着て、ミナのスカートを掴んだまま恥ずかしそうな様子でこちらを見ている。
ミナはその子をそっと前に出すと、言った。
「瞳の色が、わたくしと似ているでしょう? ヴァルから紹介されたとき、一目で気に入って、引き取ったの。今では大切な家族よ。ねえユート、この子と一緒に遊んでくれない? 大丈夫よ、とても穏やかな優しい子なの。さあポン、あのニンゲンのお兄ちゃんに遊んでもらいなさい?」
ポンはあどけない表情でミナを見上げると、コクリと頷いて、俺の方におずおずと近寄ってきた。俺はとりあえず、話しかけてみる。
「え……え……。えぇっと……、ポ、ポン? おまえ、日本語、わかる?」
ポンはきょとんとした目で俺を見つめ、「あうあーうあー」と、意味の分からない声を上げた。
「だよなぁ~……。見るからに日本人じゃないし、やっぱ日本語なんか通じないわなぁ。でも遊ぶって言っても、何したらいいの……」
俺は戸惑いながらも、ポンに手を差し出した。すると彼は俺の手を握り、嬉しそうにニコーッと笑う。手の形状が自分と同じだということに気付いたのか、俺の指を触りながら、しげしげと観察している。
「あ~うん、……そうだよ、俺たち同じ人間だよ。狼人種の立派な爪も、ぷにぷにの肉球も無い。おまえは、どこの国の子だったんかな。見たとこ、大切にされてるみたいで、良かったな。まあ座れ、折り紙でも折るか? 絵本でも見るか? あ、クッキー食べる?」
クッキーの盛られた皿を差し出すと、ポンはチラリとミナの方を見た。その視線に気付いたミナが、にっこり微笑む。
「よくてよ、ポン。頂戴なさい。ユートにありがとうも忘れずにね?」
「あうあうあー!」
ポンは俺に会釈すると、傍に置いてあった紙ナプキンの上にクッキーを一枚乗せ、ソファに座って食べ始めた。俺もポンの隣に座り、クッキーをつまみながら話しかける。
「はあ……おまえ、よく躾けられてんなぁ。なんてお行儀がいいんだ。それにしてもおまえの飼い主、やたら美人じゃん? ……ハッ! まさかおまえ、あの美人のお姉さんと一緒に寝てんのか?!」
「んあ?」
「羨ましい……なんてこと、ないぞ。俺だって、ヴァルと一緒に寝……。いや今は、一人寝……。寂しくなんか……ないからな。ベッド広くていいぞぉ……倒立前転、何回だっていけるぞぉ……。違う、強がりなんかじゃ、ないからな……」
「んふ?」
「……おまえ、無邪気だな。クッキー、もっと食べていいんだぞ? それにしても、ここに、何しに来たんだ……? 本当に、遊びに来ただけか?」
飼ってるニンゲンを交流させようとしてる……というのは表向きで、目的はそれじゃない気がする……。
まさか……まさかヴァル、もう俺を手放すつもりじゃ、ないだろうな?
この美人狼に、俺を譲るとか……じゃないだろうな?!
ち、ち、違うよな、ヴァル?!
不安を抱えながらヴァルをじーっと見ていると、ヴァルは何だかソワソワしながら近づいてきて、口を開いた。
「ユート、話があるんだが……」
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