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Chapter 1.極悪鬼畜研究所で絶体絶命の貞操危機

1-07 猫耳メイド美少女と狼系イケメン獣人

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目が覚めたら、見知らぬ部屋にいた。

美しい模様の壁紙が見え、豪華な調度品が置かれている。
明るくて、とても広い部屋だ。
天蓋てんがい付きの超でかいベッドの上に寝かされている俺は、上体を起こすと、キョロキョロと辺りを見回した。

「……え? 何、ここ? ……へ? どういうこと?」

ふと自分の体を見ると、何やら綺麗な服を着せられている。ニンゲン研究所で着せられていたシンプルな服とは、明らかに違う。
生成きないろの柔らかい布で仕立てられた、フリフリした飾りのあるシャツと、同布で作られたズボン。軽やかな薄手のその服はとても着心地が良く、甘く爽やかな、とてもいい香りがした。

「何だこれぇ……。とてつもなく俺に似合いそうにない、優雅なフリフリ服……。もしかして今度は俺、王子様に転生したとか?! え、そうなの?! 神様、俺の声を聞いて助けてくれた?! 鏡、どっかに鏡はないか?!」

鏡を探してキョロキョロしていたら、誰かが近づいてくる気配がした。

「あらっ、お目覚めになりました? 体調はいかがですか?」

声の方を見ると、猫耳の美少女が立っていた。メイドみたいな恰好をしている。

「えっ、何、エモい……。可愛い……」

俺がポカンと見とれていると、彼女はにっこり笑い、透き通った綺麗な声で話しかけてきた。

「初めまして、ニンゲン様。私はシフォンと申します。今日からお世話させていただきますので、どうぞよろしくお願いします」

彼女はそう言って優雅に頭を下げた。
わけがわからない。
俺の、お世話?
飼育係の担当が変わったのか?
いや、飼育係はみんな同じ白い制服を着てたが、この子はメイド服みたいな恰好をしているし、明らかにここは、あの奴隷人間売買用の鬼畜施設じゃない。
でも、ここがどうやら動物人間の世界のまま、ということはわかった。先程の猫耳メイドの言葉から察するに、俺は相変わらず魔王とやらの支配する異世界にいて、絶滅したニンゲンという立場だ。つまり王子様に転生した可能性は、ゼロ。

「あの、ニンゲン様? 私の言ってること、わかりますか? ハッ……もしかして、もっと大きな声じゃないと、聞こえないのかな……」

俺は慌てて首を振った。このパターンだと動物人間たちは大抵、鼓膜が破れそうなほどの大声を張り上げるのだ。ニンゲンの各種性能は、著しく低いと思ってるらしい。
俺はとりあえず、彼女に日本語で答えた。

「聞こえてます、聞こえてます、大丈夫です! えっと、シ、シフォ、シフォン……シフォン……さん」

多分通じないだろうな、と思いながらも、俺は彼女の発音に似せて名前を呼んでみた。彼らの言葉の発音は、人間の俺にはとても難しいのだ。どんなに頑張っても、近いかな、という音しか出せないのだが、幸い彼女の名前は日本語の音に近く、よく似た音が出せた。
その甲斐あって、彼女はパッと手を打ち合わせて感動したように声を上げた。

「すごい! 今の、私の名前を呼んで下さったんですよね?! 嬉しい! ……あ、いけない、すぐ旦那様をお呼びしなきゃ!」

「その必要は無い、シフォン。俺はここにいる。この子の食事を用意してくれるか。きっと腹が空いているだろう」

「はい、旦那様、すぐに!」

彼女が部屋から出て行くのと同時に、俺の傍に誰かが近づいてきた。
俺は思わず、その男に見惚みとれてしまった。

金色に輝く、美しい瞳。
頭頂にピンと生えた、狼やシェパードを思わせる大きな耳。
高い鼻梁と、犬の鼻のようにしっとりと濡れた、黒い鼻先。
健康的な肌色をした彼の顔は、人間の表情とイヌ科の雰囲気が見事に調和した、とても魅力的な風貌だ。
がっしりとした顎はとても男らしく、ワイルドな顎髭が薄く生えている。
その精悍な顔つきを彩るように、ゆるいウエーブのかかった長い髪が、ふんわりと揺れ、その青灰色の髪色は、まるで所々銀を織り込んだように、キラキラと輝いている。

近づいてくる彼の圧倒的な存在感に、俺は声も出なかった。

240㎝はあるのではないかと思われる高身長。肩幅の広いがっしりした体には、いかにも高級そうな美しい装飾の衣装を身に着けている。そして、その服の上からでも、逞しい胸筋が見て取れた。
鋭い目つきは視線を受ければ切れそうなほどで、威圧的な強面こわもてだというのに、イケメン過ぎて目が離せない。
本当に、顔も体も雰囲気も、どこもかしこも、ほれぼれするようないい男だ。

狼……人間? 犬人間? シェパードと人間のハイブリッド?!
……こういうひと、どっかで見たことある……。
そうだ、あれだ、ファンタジーRPGとかに登場する、やたらと存在感のある魅力的な脇役。ともすれば主役より人気が出てしまうやつ。うん、間違いない、主役を食うレベルのサブキャラだ、このパネェオーラ。

そう思いながら俺が言葉も無くアホ面をさらしていると、そのイヌ科獣人はベッドの傍まで来て心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫か? なかなか目を覚まさなかったので、気を揉んだぞ。どこか苦しかったり、痛かったりするか? 今、食事を用意するが、食べられる範囲で食べればいい。無理はしなくていいからな」

渋い重低音の声音。不思議な心地よさがあり、ずっと聴いていたくなるような声だ。

「ええ……声までイケメンとか、どんだけ……。しかも優しい……。完璧じゃん……。カッコよくて羨ましい……。ジェラシー通り越して拝んじゃうわ……」

俺がそう感想を漏らすと、目の前の犬系獣人は、穏やかに笑って言った。

「どうやら気分は悪くなさそうだな。安心したぞ。昨日は泣き叫んでいたので、俺も心が破れそうだった」

昨日?
は?
どこかで、お会いしました? 初対面ですけど?
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