32 / 84
Act 1
32. 封印された過去の痛み
しおりを挟む
濡れた唇が触れ合い、皓一の首筋に真也の指が這わされる。耳の後ろや鎖骨付近を指先の軽いタッチで撫でられ、皓一は背筋に電流が走ったような心地がした。湯の中で向かい合わせに座ったまま、皓一は真也の背中に両腕を回しギュッと抱きしめた。逞しい恋人の肩に頭を乗せ、どこもかしこもぴったりと触れ合っている心地良さに耽溺する。脚を真也の腰に絡ませ腰を寄せると、股の間の互いの欲望が合わさるのを感じた。皓一は真也のソレに手を伸ばし、キュッと遠慮がちに握りしめた。その途端、溜息まじりに喉を震わす真也の声が、僅かに零れた。皓一は自分のと真也のソレをぴったりと触れ合わせながら、湯の中で扱き始める。
「皓一……」
真也の大きな手が、皓一の手を覆い隠すように添えられる。皓一は真也が以前、「俺を受け入れて、一つになってくれ」と言ったことを思い出した。そしてずっと気になっていたその言葉の意味と、真也の本心を知らなければ、という思いに駆られた。
荒くなっていく息遣いの合間に、皓一は言葉を紡いだ。
「おまえ、これ、どうしたいんだ……?」
「……これ、って何のことだ?」
わざと言わせようとしてるな……と、皓一は真也の肩にもたせかけていた頭を上げて、恋人を見た。真也は半開きの口から僅かに舌を覗かせ、扇情的にチロチロと動かしている。見惚れるほどの男前がそんな表情を展開するものだから、皓一は気絶しそうな心持ちになってしまった。思わずムラッとするほどセクシーな表情を見ているだけで、イッてしまいそうだ。
そんな皓一の様子を見て、真也が煽るような口調で囁いた。
「すごいな皓一……さっきイかせてやったばかりなのに、もうギンギンじゃないか。今度は、口で抜いてやろうか?」
「うっ……! 待て、俺じゃなくて、おまえだよ、今度はおまえのこれを……」
「これ? 何だ? これって?」
「し、しつこいぞ、真也! わかってるくせに!」
皓一は手で湯を跳ね飛ばし、真也の顔にバシャバシャとかけた。
「ははは、なんだ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか、皓一、可愛い」
くしゃ、と相好を崩し、真也が全開で笑う。まるで子供みたいな、無邪気な笑顔だった。
皓一の鼓動が跳ね上がる。思わず手を止めて恋人の笑顔に見惚れてしまうほどに。
「何だ? 水かけごっこはもう終わりか? もっとかけてくれていいんだぞ? いい男なだけに、水も滴らせないとな?」
真也はわざと自画自賛して、気取った仕草で顔にかかった髪をかきあげた。それがまた決まっていて、CMのワンシーンみたいにキャッチーだった。商品はさしずめ、スタイリッシュな一流ヘアサロン御用達のメンズヘアケアグッズといったところか。目線をもらった一枚をポスターにして駅の連絡通路にでも貼り出せば、たちまち何者かに剥されて無くなってしまいそうだ。
(この男が、俺の恋人……。5年も付き合っているくせに……なんか、信じられないな。真也ならどんな相手でも、よりどりみどりだろうに……。なんで俺みたいな、冴えない男を……)
皓一の心に、正体のわからない不安が渦巻いた。さっきまでの浮かれた気分が吹き飛ぶ。今この瞬間はすべて虚構で、手に入れた幸福はやがて、泡沫(うたかた)のように消えてしまう気がした。
「どうした……皓一? のぼせたか?」
「なあ……真也、なんで俺なんだ? ……俺には、モテ要素なんて一つもないと思うのに……」
「皓一、前にも言ったが、おまえは自己評価が低すぎる。俺は、おまえが奥手のゲイで良かったと、つくづく思うぞ。でなければ、俺と出会う前に積極的などっかのメスに奪(と)られていただろうしな……」
真也はそう言いながら皓一を抱き寄せ、なだめるように背中をさすった。その抱擁に応えながら、皓一がたどたどしく言葉を紡ぐ。
「俺、怖いんだ……。幸せ過ぎて、怖いっていう、あれだよ……。こんな幸せな恋人とのひとときを現実に味わえるなんて、今まで生きてきて、一度も思ったことが無かったんだ」
(そうだ……どこかで俺は……ずっと、幸せになるなんて無理だって思って生きてきた……どうしてだろう? 臆病な隠れゲイだから? いや……違う、もっと何か、他に……)
皓一は自分の心の中を覗き込んだ。何か呑みこめない苦い塊のようなものが、喉につかえている気がした。
(俺は忘れてる。何か、大事なことを。ずっとずっと昔……子供の頃。何か、あった。それは何だ? 何なんだ……?)
喉につかえた塊がどんどん大きくなり、皓一の呼吸を阻害する。不安と恐怖がわき上がってきたとき、真也が大きな両手で皓一の頬から首を包み込むように挟み、囁いた。
「よせ、皓一。思い出すな。おまえはまだ、準備ができていない」
「うう……あ……」
呼吸が、戻ってくる。皓一は息を整えながら、涙に潤んだ目で真也を見つめ返した。
「大丈夫、大丈夫だ、皓一……俺がついている。ずっと傍に、いる」
落ち着いた優しい声と、愛情に満ちた眼差し。真也の長い指先が、なだめるように肌を愛撫する。恋人の温もりに触れ、その目を覗き込んだとき皓一の不安や恐怖はパッと消えた。
「……あれ……俺、おまえに、何か訊きたいことが、あった……」
そうだ、と皓一は真也の腹の下に手を伸ばした。すっかりおとなしくなってしまっているソレにやんわり触れながら、問いかけた。
「俺は……今までバニラで満足だったけど……おまえは、違うんじゃないのか?」
「皓一……」
真也の大きな手が、皓一の手を覆い隠すように添えられる。皓一は真也が以前、「俺を受け入れて、一つになってくれ」と言ったことを思い出した。そしてずっと気になっていたその言葉の意味と、真也の本心を知らなければ、という思いに駆られた。
荒くなっていく息遣いの合間に、皓一は言葉を紡いだ。
「おまえ、これ、どうしたいんだ……?」
「……これ、って何のことだ?」
わざと言わせようとしてるな……と、皓一は真也の肩にもたせかけていた頭を上げて、恋人を見た。真也は半開きの口から僅かに舌を覗かせ、扇情的にチロチロと動かしている。見惚れるほどの男前がそんな表情を展開するものだから、皓一は気絶しそうな心持ちになってしまった。思わずムラッとするほどセクシーな表情を見ているだけで、イッてしまいそうだ。
そんな皓一の様子を見て、真也が煽るような口調で囁いた。
「すごいな皓一……さっきイかせてやったばかりなのに、もうギンギンじゃないか。今度は、口で抜いてやろうか?」
「うっ……! 待て、俺じゃなくて、おまえだよ、今度はおまえのこれを……」
「これ? 何だ? これって?」
「し、しつこいぞ、真也! わかってるくせに!」
皓一は手で湯を跳ね飛ばし、真也の顔にバシャバシャとかけた。
「ははは、なんだ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか、皓一、可愛い」
くしゃ、と相好を崩し、真也が全開で笑う。まるで子供みたいな、無邪気な笑顔だった。
皓一の鼓動が跳ね上がる。思わず手を止めて恋人の笑顔に見惚れてしまうほどに。
「何だ? 水かけごっこはもう終わりか? もっとかけてくれていいんだぞ? いい男なだけに、水も滴らせないとな?」
真也はわざと自画自賛して、気取った仕草で顔にかかった髪をかきあげた。それがまた決まっていて、CMのワンシーンみたいにキャッチーだった。商品はさしずめ、スタイリッシュな一流ヘアサロン御用達のメンズヘアケアグッズといったところか。目線をもらった一枚をポスターにして駅の連絡通路にでも貼り出せば、たちまち何者かに剥されて無くなってしまいそうだ。
(この男が、俺の恋人……。5年も付き合っているくせに……なんか、信じられないな。真也ならどんな相手でも、よりどりみどりだろうに……。なんで俺みたいな、冴えない男を……)
皓一の心に、正体のわからない不安が渦巻いた。さっきまでの浮かれた気分が吹き飛ぶ。今この瞬間はすべて虚構で、手に入れた幸福はやがて、泡沫(うたかた)のように消えてしまう気がした。
「どうした……皓一? のぼせたか?」
「なあ……真也、なんで俺なんだ? ……俺には、モテ要素なんて一つもないと思うのに……」
「皓一、前にも言ったが、おまえは自己評価が低すぎる。俺は、おまえが奥手のゲイで良かったと、つくづく思うぞ。でなければ、俺と出会う前に積極的などっかのメスに奪(と)られていただろうしな……」
真也はそう言いながら皓一を抱き寄せ、なだめるように背中をさすった。その抱擁に応えながら、皓一がたどたどしく言葉を紡ぐ。
「俺、怖いんだ……。幸せ過ぎて、怖いっていう、あれだよ……。こんな幸せな恋人とのひとときを現実に味わえるなんて、今まで生きてきて、一度も思ったことが無かったんだ」
(そうだ……どこかで俺は……ずっと、幸せになるなんて無理だって思って生きてきた……どうしてだろう? 臆病な隠れゲイだから? いや……違う、もっと何か、他に……)
皓一は自分の心の中を覗き込んだ。何か呑みこめない苦い塊のようなものが、喉につかえている気がした。
(俺は忘れてる。何か、大事なことを。ずっとずっと昔……子供の頃。何か、あった。それは何だ? 何なんだ……?)
喉につかえた塊がどんどん大きくなり、皓一の呼吸を阻害する。不安と恐怖がわき上がってきたとき、真也が大きな両手で皓一の頬から首を包み込むように挟み、囁いた。
「よせ、皓一。思い出すな。おまえはまだ、準備ができていない」
「うう……あ……」
呼吸が、戻ってくる。皓一は息を整えながら、涙に潤んだ目で真也を見つめ返した。
「大丈夫、大丈夫だ、皓一……俺がついている。ずっと傍に、いる」
落ち着いた優しい声と、愛情に満ちた眼差し。真也の長い指先が、なだめるように肌を愛撫する。恋人の温もりに触れ、その目を覗き込んだとき皓一の不安や恐怖はパッと消えた。
「……あれ……俺、おまえに、何か訊きたいことが、あった……」
そうだ、と皓一は真也の腹の下に手を伸ばした。すっかりおとなしくなってしまっているソレにやんわり触れながら、問いかけた。
「俺は……今までバニラで満足だったけど……おまえは、違うんじゃないのか?」
10
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話
さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ)
奏音とは大学の先輩後輩関係
受け:奏音(かなと)
同性と付き合うのは浩介が初めて
いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく
騎士調教~淫獄に堕ちた無垢の成れ果て~
ビビアン
BL
騎士服を溶かされ、地下牢に繋がれ、淫らな調教を受け続ける――
王の血を引きながらも王位継承権を放棄し、騎士として父や異母兄たちに忠誠を誓った誇り高い青年リオ。しかし革命によって王国は滅びてしまい、リオもまた囚われてしまう。
そんな彼の目の前に現れたのは、黒衣の魔術師アーネスト。
「革命の盟主から、お前についての一切合切を任されている。革命軍がお前に求める贖罪は……『妊娠』だ」
そして、長い雌化調教の日々が始まった。
※1日2回更新
※ほぼ全編エロ
※タグ欄に入りきらなかった特殊プレイ→拘束(分娩台、X字磔、宙吊りなど)、スパンキング(パドル、ハンド)、乳首開発、睡眠姦、ドスケベ衣装、近親相姦など
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
【R18】息子とすることになりました♡
みんくす
BL
【完結】イケメン息子×ガタイのいい父親が、オナニーをきっかけにセックスして恋人同士になる話。
近親相姦(息子×父)・ハート喘ぎ・濁点喘ぎあり。
章ごとに話を区切っている、短編シリーズとなっています。
最初から読んでいただけると、分かりやすいかと思います。
攻め:優人(ゆうと) 19歳
父親より小柄なものの、整った顔立ちをしているイケメンで周囲からの人気も高い。
だが父である和志に対して恋心と劣情を抱いているため、そんな周囲のことには興味がない。
受け:和志(かずし) 43歳
学生時代から筋トレが趣味で、ガタイがよく体毛も濃い。
元妻とは15年ほど前に離婚し、それ以来息子の優人と2人暮らし。
pixivにも投稿しています。
淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂
朝井染両
BL
お久しぶりです!
ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。
こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。
合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。
ご飯食べます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる