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Act 1
14. 現実化した幻想彼氏「高羽真也」4
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健斗は真剣な眼差しをひたと皓一に注ぎ、哀切すら感じる声音でもう一度言った。
「皓一さん、その人、誰なんですか?」
「しつこいぞ、おまえ」
苛ついた口調でそう答えたのは皓一ではなく、真也だった。
「あんたには訊いてない。俺は皓一さんに訊いているんだ」
健斗は険しい目つきで真也を睨み付けた。その目を見返しながら、真也は「はっ!」と吐き捨てるような嘲笑を漏らした後、言葉を続けた。
「おまえの言った『あのブログ記事』というのは多分、去年の12月、俺が皓一とのデートをドタキャンしたときのだろう。あの日俺は急用が入って皓一と出かけられなくなったが、皓一は一人で予定通りのコースを回った。そのときのことを、言ってるんだろうが? なあ、そうだろ、皓一?」
尋ねられた皓一は真也の目を見た途端、またもや目の奥で閃光が弾けるのを感じた。そして次の瞬間には、理解と納得が訪れた。
「ああ、そうか――うん、そう、あれな。健斗……ごめんな、ブログのこと、おまえに嘘をつきたくなくて、さっきは適当にゴニョゴニョ返してたんだ……。ブログは架空のデートっぽく装って書いてたし……どこまで話すべきか、踏ん切りがつかなくてさ。健斗君が信じられないのも無理はない。この冴えない俺に、こんな高スペックの恋人がいるなんてさ、俺自身、今でも信じられないよ、アンビリーバボーってやつだよな……ハハハ……」
そう言って頬を染めて照れ笑いをする皓一を、健斗はまだ戸惑った視線で見つめていた。そこへトドメとばかりに、真也が言い放つ。
「皓一には恋人がいる。その恋人が俺、高羽真也だ。付き合い始めて5年だが、この先の10年20年、そのあともずっと、死ぬまで愛し合うだろう。この国の法律が同性同士の結婚を認めたら、俺は速攻皓一にプロポーズする。健斗、諦めろ。可哀想だがおまえの恋は実らない。他を当たれ」
シッシッっという形を取って、真也の手がヒラヒラと健斗の目の前で動く。健斗はムッとして、真也を睨み付けた。
バチバチバチッ、という音が聞こえてきそうなほど、二人は火花を散らせて目力合戦を繰り広げている。
皓一は、イケメン二人が自分を取り合っている、というあり得ない状況に目眩がしてきた。もしかしたら仕事中に倒れて、病院のベッドで管(くだ)に繋がれ植物状態のまま、夢を見てるんじゃないかと思い、試しにギュッと手の甲をつねってみた。――痛くない。やっぱり夢……と思ったとき。「いてて」と声がして、つねっているのは自分の手ではなく真也の手だと気付いた。
「いてて、皓一、なんで俺の手をつねるんだ? わかったわかった、この若造に食って掛かるなと言うんだな? よしよし、おい健斗、きついこと言って悪かったな。仲良く飲もうぜ? 何でも注文しろ、全部俺のおごりだ」
気前よくそんな提案をしてきた真也を無視して、健斗は皓一に向かって言った。
「俺、もう帰ります。明日、一限からあるんで」
帰り支度を始め、席を立ちあがった健斗に皓一も慌てて荷物を手に持ちながら言った。
「あっ、じゃあ俺も帰る! 家、同じ方向だし、歩きながらもう少し話そう。あ……もちろん、健斗君が嫌じゃなければ」
皓一の遠慮がちな申し出に「もちろん大歓迎です」と笑顔で応える健斗を見て、皓一はホッと胸をなで下ろした。しこたま勇気が必要だったろう告白タイムに、想い人の恋人がいきなり乱入してすべてを台無しにしてしまったのだから、拗ねて怒ってしまっても無理ないくらいなのに、「健斗君は大人だな……」と、皓一は胸の中でひっそりと感心した。
健斗は店の支払いを「割り勘で」と言いはったが、いち早く伝票を手にしていた真也がさっさと会計を済ませていた。レジには店の女の子が総出になっていて、キャッキャウフフと花が咲いている。
三人は店の外までスタッフの女の子たちにお見送りされたのち、ブラブラと歩き始めた。
「皓一さん、その人、誰なんですか?」
「しつこいぞ、おまえ」
苛ついた口調でそう答えたのは皓一ではなく、真也だった。
「あんたには訊いてない。俺は皓一さんに訊いているんだ」
健斗は険しい目つきで真也を睨み付けた。その目を見返しながら、真也は「はっ!」と吐き捨てるような嘲笑を漏らした後、言葉を続けた。
「おまえの言った『あのブログ記事』というのは多分、去年の12月、俺が皓一とのデートをドタキャンしたときのだろう。あの日俺は急用が入って皓一と出かけられなくなったが、皓一は一人で予定通りのコースを回った。そのときのことを、言ってるんだろうが? なあ、そうだろ、皓一?」
尋ねられた皓一は真也の目を見た途端、またもや目の奥で閃光が弾けるのを感じた。そして次の瞬間には、理解と納得が訪れた。
「ああ、そうか――うん、そう、あれな。健斗……ごめんな、ブログのこと、おまえに嘘をつきたくなくて、さっきは適当にゴニョゴニョ返してたんだ……。ブログは架空のデートっぽく装って書いてたし……どこまで話すべきか、踏ん切りがつかなくてさ。健斗君が信じられないのも無理はない。この冴えない俺に、こんな高スペックの恋人がいるなんてさ、俺自身、今でも信じられないよ、アンビリーバボーってやつだよな……ハハハ……」
そう言って頬を染めて照れ笑いをする皓一を、健斗はまだ戸惑った視線で見つめていた。そこへトドメとばかりに、真也が言い放つ。
「皓一には恋人がいる。その恋人が俺、高羽真也だ。付き合い始めて5年だが、この先の10年20年、そのあともずっと、死ぬまで愛し合うだろう。この国の法律が同性同士の結婚を認めたら、俺は速攻皓一にプロポーズする。健斗、諦めろ。可哀想だがおまえの恋は実らない。他を当たれ」
シッシッっという形を取って、真也の手がヒラヒラと健斗の目の前で動く。健斗はムッとして、真也を睨み付けた。
バチバチバチッ、という音が聞こえてきそうなほど、二人は火花を散らせて目力合戦を繰り広げている。
皓一は、イケメン二人が自分を取り合っている、というあり得ない状況に目眩がしてきた。もしかしたら仕事中に倒れて、病院のベッドで管(くだ)に繋がれ植物状態のまま、夢を見てるんじゃないかと思い、試しにギュッと手の甲をつねってみた。――痛くない。やっぱり夢……と思ったとき。「いてて」と声がして、つねっているのは自分の手ではなく真也の手だと気付いた。
「いてて、皓一、なんで俺の手をつねるんだ? わかったわかった、この若造に食って掛かるなと言うんだな? よしよし、おい健斗、きついこと言って悪かったな。仲良く飲もうぜ? 何でも注文しろ、全部俺のおごりだ」
気前よくそんな提案をしてきた真也を無視して、健斗は皓一に向かって言った。
「俺、もう帰ります。明日、一限からあるんで」
帰り支度を始め、席を立ちあがった健斗に皓一も慌てて荷物を手に持ちながら言った。
「あっ、じゃあ俺も帰る! 家、同じ方向だし、歩きながらもう少し話そう。あ……もちろん、健斗君が嫌じゃなければ」
皓一の遠慮がちな申し出に「もちろん大歓迎です」と笑顔で応える健斗を見て、皓一はホッと胸をなで下ろした。しこたま勇気が必要だったろう告白タイムに、想い人の恋人がいきなり乱入してすべてを台無しにしてしまったのだから、拗ねて怒ってしまっても無理ないくらいなのに、「健斗君は大人だな……」と、皓一は胸の中でひっそりと感心した。
健斗は店の支払いを「割り勘で」と言いはったが、いち早く伝票を手にしていた真也がさっさと会計を済ませていた。レジには店の女の子が総出になっていて、キャッキャウフフと花が咲いている。
三人は店の外までスタッフの女の子たちにお見送りされたのち、ブラブラと歩き始めた。
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