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1章 新しい住まい――魔界、王宮

18. 計画

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クエンサール国と魔界をつなぐ<界門>の、すぐ北に連なる山脈の中に、その隠れ家はある。
レイとフリューイの父が残したもので、自然の洞窟を利用して造られており、魔導術による結界に守られている。入り口は周到に隠されているため、持ち主以外がその隠れ家を見つけることはまずない。

レイは半年程前、魔王をその隠れ家に案内したことを思い出した。
そのときレイはギルドの依頼で、隠れ家付近の山中に自生する、ある植物を採取している最中だった。なかなか見つからず、思いのほか苦戦しているところ、偶然魔王が現われて仕事を手伝ってくれたのだ。2人で探し始め、ようやくその植物を入手したが、すでに日が暮れていたため、隠れ家に泊まって朝になってから下山した方が安全と考え、魔王を案内したのだ。

今思えば、あの時魔王が現われたのは、偶然ではなかったのかもしれない。探していた植物は魔界原産の物で、魔王の方が詳しく、見つけるのもうまかった。

「魔王……あの時……都合よく現われたのは……」

レイが何を言おうとしているのか察し、魔王が続きを答えた。

「もちろん偶然ではない」

片方の口の端だけを上げ、魔王が不敵な微笑を浮かべた。そのまま、続けて口を開く。

「レイ、覚えてるか……? あの時、私は……」

「俺に、1回目の求婚をしてきた。俺は……冗談言うなと笑い飛ばしたが」

「おまえが私を信用して隠れ家の在り処を明かし、一泊すると言ったとき……私の想いに気付いてくれたのかと期待したが、笑い飛ばされた時は、がっかりしたぞ……まあ、一晩、おまえを腕の中に抱きしめていられただけ、幸運だったが……」

レイは思い出して顔を赤くした。

「あんたが寒いと言いながら、やたらベタベタしてきたのは……」

「もちろん、下心があったからだ……」

熱い視線で見つめられ、レイはしばらく思考を停止させた。
そしてハッと、話が大幅に逸れてしまっていることに気付いた。

「待て、魔王、その話はまた今度だ。兄さんが、どうして、この隠れ家に寄り道するだなんてわかるんだ? <界門>からは徒歩で半日程度かかるし……山中の隠れ家に、なぜわざわざ……」

「おまえの筆跡で、フリューイ殿に当てた手紙を作らせた。昨晩、彼はそれを受け取っている」

「えええっ?! 俺の筆跡で?! 偽手紙を作ったのか! どんな内容だ?」

「魔界から戻ったおまえが、隠れ家に身を寄せていることを兄に打ち明け、迎えに来てほしいという内容だ」

「兄さんは、きっと罠だと……」

「思うかもしれぬ。だが、必ず来る。たとえわずかでも、おまえからの本当の手紙の可能性がある限り。もし偽の手紙だったとしても、状況を見極めるために来るだろう。おまえの兄は、そういう性質だ。違うか?」

違わない、とレイは思った。
おびき出され、罠にはまる可能性が高いとしても、兄はそれすらうまく利用して、弟を捜しだす手掛かりにしようとするだろう。

「魔王、兄さんの行動が、よく分かったな。何か調べたのか?」

「おまえの話によく登場していたからな。調べなくても分かる」

「え? 俺、そんなに兄さんの話、してたか?」

「なんだ、気付いていなかったのか? ことあるごとにおまえは、兄の話を楽しそうに語っていたぞ。……もしそれがおまえと血のつながった兄でなく、他の者であったら、私は嫉妬で悶絶していただろう」

魔王は溜息をついた後、話を続けた。

「おまえはこの後すぐ、ここを発て。手はずは整えてある。王宮から出るのは正門ではなく、北東の<コマドリの門>に向かえ。そこでユースティスが待っている。彼の案内で王都にある移動陣店に向かい、<第二界門>のあるレンティアルの町に飛び、<界門>を抜けてクエンサール国に入れ。そして隠れ家に向かい、私が到着するのを待て」

「魔王も、来てくれるのか? 魔界を離れて、人間界に」

レイの顔が、パッと輝いた。

「ああ。大幅に予定が変更になったが、この機会に、おまえの親族に挨拶に出向くことにした。山中の隠れ家でおまえと合流したのち、フリューイ殿を待ち、その後3人でおまえの故郷へ向かう。おまえの育ての親と面会したあとは、仙界に出向くつもりだ」

「仙界にも行くのか?! 何のために?」

仙界にはレイの父方の親戚がいるが、濃密な親戚づきあいはない。せいぜい1年のうち1、2回会いに行く程度だ。
レイの疑問に答えようと、魔王は何か言いかけて止め、改めて口を開いた。

「それは後で話そう……。レイ、今回を最後に、里帰りは当分の間できないと覚悟しておいてくれ。さあ、旅支度を始めろ。必要になると思われるものを、用意しておいた。どれでも持って行くといい」

魔王は、部屋の隅に置かれた低いテーブルの上に、薬や携帯食料、衣類などが積まれているのを、指さした。ちらとそれに視線を投げたあと、レイはすぐに魔王に視線を戻すと、戸惑いながら口を開いた。

「一緒には、出掛けられないのか?」
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