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妄想編
4話【case 2】 榊原冬也 25歳 :動悸(藍原編)
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さて、と。次の患者さんは……あら、けっこう背が高くてソフトマッチョな感じ。今どきの男の子ね、なかなかいいじゃない。主訴は動悸、と。まずは脈を診ないとね。
……1、2,3,4,5……はやっ。あ、わからなくなっちゃった。ちょっと待って、腕時計の秒針を見ながら、もう1回……。やだなあ、この沈黙。脈測るときっていつも、こう、シーン……てしちゃうのよね。……あれ、榊原くんに、すっごく見られてる気がする……。やめてよ、そんな目で見られたらドキドキしちゃう……あ、あれ、また脈がわからなくなっちゃった。1,2,3,4……あれれ、これ、あたしの心拍数かな? だめだめ、集中しないと、あたしったら時間かかりすぎ! 榊原くんに不審に思われちゃう。『……先生、なにずっと黙ってんの?』『え、だから、脈を測って……』『うそ。俺にドキドキしてんじゃないの?』『何いってるの、そんなわけないでしょ』『ほんと? 俺は先生に、ドキドキしてるよ。――ほら』榊原くんが、脈をとってたあたしの手を急につかんで、彼の厚い胸にあてる。シャツ越しでも伝わる熱と、鼓動と、それからじっとりと汗ばんだ肌……
あっ! ダメダメ、そうじゃなくて、ちゃんと数を数えなきゃ……!
「164回。頻脈ですね」
心電図を取るのに横になってもらう。
「シャツのボタンを外しますね」
あっ、いい間違えた、『外してくださいね』っていうつもりだったのに! ……まあいっか、ここはサービスで脱がせてあげよう。
……うわ、また沈黙だ。そして……ボタンをひとつ外すごとにあらわになる、この肌……筋肉質で、程よく厚くて、……やだ、本当に汗ばんでる。榊原くんも……何か、想像してるのかな? 『……先生。先生に脱がされるのって、なんかエロいね』『こら、これはれっきとした診察よ』『どんな診察?』『それは、あなたの――』急に榊原くんがあたしの腕を引っ張る。あたしは倒れるようにして彼に抱きすくめられて……『俺の心臓を、調べるの? 俺が、どれだけ先生にドキドキしてるか』『……榊原くん……』汗ばんだ彼の胸に顔が押しつけられる。……本当にドキドキしてる。それに、すごく熱い……興奮した男の人の、匂いがする。……だめ、このままじゃ――
って、違うでしょ、あたし! この分厚い胸板に、電極をつけるのよ!
「つける場所を確認していきます」
えっと、電極は、まず4番目の肋骨を探して……筋肉質だから見た目じゃわからない。触って確認しないと。
やだなあ、変なこと考えてたから、触るのにドキドキしちゃう。でも、いたってフツーのふりをして、気づかれないように……。
「あ……っ」
え!? え!? なに今の榊原くんの色っぽい声! やだ、もしかしてあたしを誘ってる!? 違うか、あたしが誘ってる!? ……榊原くん、もしかして、あたしの指で……感じちゃった? うわ、どうしよう、なんだか興奮しちゃう。もっと彼に、声を出させたい……ああだめ、こんなことで興奮してるのがばれたら、変態だと思われちゃう。
「ごめんなさい、くすぐったいかしら?」
「大丈夫っす……」
あれ、今度はすごく無表情で、体が硬くなってる。……やっぱり、くすぐったいよね。ただの検査なんだもの、感じるわけないわよね、あたしったら勘違いしすぎ……。
そうそう、そんなこと考えてないで、ちゃんと肋骨の位置を確認しなきゃ。
まず左手で、彼の右の胸を触る。それから、右手で、彼の左の肋骨を探して……ああどうしよう、彼の体が緊張して小刻みに震えてて、じっと耐える表情が、すごくそそられる……『先生、だから、その手つきエロいってば』『違うわよ、これは検査に必要だから』『でも、そんなに優しく撫でられると……すげえ感じる……』『……ふふ、いやらしい体ね』『あっ……こんなに感じるのは……先生の、せいだよ……ッ』『わたしの?』『っ…そう、先生の指が…っ、やらしーから……あ、だめ、乳首は触っちゃ――ああッ!』
――きゃあ! ダメダメダメ! こんなこと考えてたら、もう6個もある電極つける順番なんて全然頭に出てこない! どうしよう、どうしよう……。あ、確か、吸盤についてる色の語呂合わせで、順番がわかるんだった。えっと、左から順番に――
セ(赤)、キ(黄)、グ(緑)、チ(茶)、ク(黒)、ン(残り)……っと。よかった、何とか平静を取り戻したわ!
「……俺、榊原ですけど」
……え? 今、何て?? ――はっ! あたしったら、もしかして、心の声が出てた!? うわ、やだ、恥ずかしすぎる!! 関口って誰だよ!? って絶対思ってるに違いないわ。
「発作性上室性頻拍ですね」
よかった、テンパっててもちゃんと診断はつけられたわ。健康な子にもときどきあるのよね、この不整脈。激しい運動とか、ストレスとかで、起きやすいのよね。……激しい、運動とか。……やっぱり、激しい運動……したのかな。筋肉質だし、胸板厚いし……2,3時間前に、やってきたのかな? ……激しい運動を、彼女と……。
あっ、ダメダメ、そんなことより、そういうのが不整脈の原因になるんだよって、ちゃんと榊原くんに教えてあげなきゃ。
「……激しい運動には、気をつけてくださいね」
……やだ、絶対今あたし、やらしい顔になってたに違いないわ……。
……1、2,3,4,5……はやっ。あ、わからなくなっちゃった。ちょっと待って、腕時計の秒針を見ながら、もう1回……。やだなあ、この沈黙。脈測るときっていつも、こう、シーン……てしちゃうのよね。……あれ、榊原くんに、すっごく見られてる気がする……。やめてよ、そんな目で見られたらドキドキしちゃう……あ、あれ、また脈がわからなくなっちゃった。1,2,3,4……あれれ、これ、あたしの心拍数かな? だめだめ、集中しないと、あたしったら時間かかりすぎ! 榊原くんに不審に思われちゃう。『……先生、なにずっと黙ってんの?』『え、だから、脈を測って……』『うそ。俺にドキドキしてんじゃないの?』『何いってるの、そんなわけないでしょ』『ほんと? 俺は先生に、ドキドキしてるよ。――ほら』榊原くんが、脈をとってたあたしの手を急につかんで、彼の厚い胸にあてる。シャツ越しでも伝わる熱と、鼓動と、それからじっとりと汗ばんだ肌……
あっ! ダメダメ、そうじゃなくて、ちゃんと数を数えなきゃ……!
「164回。頻脈ですね」
心電図を取るのに横になってもらう。
「シャツのボタンを外しますね」
あっ、いい間違えた、『外してくださいね』っていうつもりだったのに! ……まあいっか、ここはサービスで脱がせてあげよう。
……うわ、また沈黙だ。そして……ボタンをひとつ外すごとにあらわになる、この肌……筋肉質で、程よく厚くて、……やだ、本当に汗ばんでる。榊原くんも……何か、想像してるのかな? 『……先生。先生に脱がされるのって、なんかエロいね』『こら、これはれっきとした診察よ』『どんな診察?』『それは、あなたの――』急に榊原くんがあたしの腕を引っ張る。あたしは倒れるようにして彼に抱きすくめられて……『俺の心臓を、調べるの? 俺が、どれだけ先生にドキドキしてるか』『……榊原くん……』汗ばんだ彼の胸に顔が押しつけられる。……本当にドキドキしてる。それに、すごく熱い……興奮した男の人の、匂いがする。……だめ、このままじゃ――
って、違うでしょ、あたし! この分厚い胸板に、電極をつけるのよ!
「つける場所を確認していきます」
えっと、電極は、まず4番目の肋骨を探して……筋肉質だから見た目じゃわからない。触って確認しないと。
やだなあ、変なこと考えてたから、触るのにドキドキしちゃう。でも、いたってフツーのふりをして、気づかれないように……。
「あ……っ」
え!? え!? なに今の榊原くんの色っぽい声! やだ、もしかしてあたしを誘ってる!? 違うか、あたしが誘ってる!? ……榊原くん、もしかして、あたしの指で……感じちゃった? うわ、どうしよう、なんだか興奮しちゃう。もっと彼に、声を出させたい……ああだめ、こんなことで興奮してるのがばれたら、変態だと思われちゃう。
「ごめんなさい、くすぐったいかしら?」
「大丈夫っす……」
あれ、今度はすごく無表情で、体が硬くなってる。……やっぱり、くすぐったいよね。ただの検査なんだもの、感じるわけないわよね、あたしったら勘違いしすぎ……。
そうそう、そんなこと考えてないで、ちゃんと肋骨の位置を確認しなきゃ。
まず左手で、彼の右の胸を触る。それから、右手で、彼の左の肋骨を探して……ああどうしよう、彼の体が緊張して小刻みに震えてて、じっと耐える表情が、すごくそそられる……『先生、だから、その手つきエロいってば』『違うわよ、これは検査に必要だから』『でも、そんなに優しく撫でられると……すげえ感じる……』『……ふふ、いやらしい体ね』『あっ……こんなに感じるのは……先生の、せいだよ……ッ』『わたしの?』『っ…そう、先生の指が…っ、やらしーから……あ、だめ、乳首は触っちゃ――ああッ!』
――きゃあ! ダメダメダメ! こんなこと考えてたら、もう6個もある電極つける順番なんて全然頭に出てこない! どうしよう、どうしよう……。あ、確か、吸盤についてる色の語呂合わせで、順番がわかるんだった。えっと、左から順番に――
セ(赤)、キ(黄)、グ(緑)、チ(茶)、ク(黒)、ン(残り)……っと。よかった、何とか平静を取り戻したわ!
「……俺、榊原ですけど」
……え? 今、何て?? ――はっ! あたしったら、もしかして、心の声が出てた!? うわ、やだ、恥ずかしすぎる!! 関口って誰だよ!? って絶対思ってるに違いないわ。
「発作性上室性頻拍ですね」
よかった、テンパっててもちゃんと診断はつけられたわ。健康な子にもときどきあるのよね、この不整脈。激しい運動とか、ストレスとかで、起きやすいのよね。……激しい、運動とか。……やっぱり、激しい運動……したのかな。筋肉質だし、胸板厚いし……2,3時間前に、やってきたのかな? ……激しい運動を、彼女と……。
あっ、ダメダメ、そんなことより、そういうのが不整脈の原因になるんだよって、ちゃんと榊原くんに教えてあげなきゃ。
「……激しい運動には、気をつけてくださいね」
……やだ、絶対今あたし、やらしい顔になってたに違いないわ……。
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