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障害編
74話【off duty】新條 浩平:トラップ(藍原編)②
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……そうか。新條くん、潰れちゃったのか。お酒、弱いもんね。救外で初めて会ったときみたいに、今も、げろげろ吐いてたもんね。そんなときに可愛い女の子といい雰囲気になったら、間違いだって、起きるわよね……。
頭では、納得する。そうよ、あたしだって、新條くんという人がありながら、凛太郎くんや西園寺先生にいじられたら感じちゃうし。新條くん以外の人に、何度イカされたことか。それと同じ。そう、体が感じてしまうのは、仕方がない。だって、心と体は別物だもの。心さえ裏切らなければ、体だけ感じてしまっても、それは、仕方がないことなんだ。あたしだって、付き合う前から、新條くんにそう宣言してたじゃない。
そう納得しようとして、気がついた。頭で割り切ろうとしても、全然うまく行かない。いざ大好きな人がほかの女の子と肌を合わせているのを見ると、こんなにも、胸が張り裂けそうなほど苦しいなんて。これほどまでの痛みになるなんて、全然知らなかった。
また、涙が溢れてきた。いろんな感情が一気に沸き上がってきて、どうしようもなくなる。
「ごめん……ごめんね、新條くん」
新條くんがギョッとしてあたしを見た。
「なんで……なんで先生が謝ってるんだよ?」
「あたし、自分勝手だよね。あたしは誰にでも感じちゃう体なんだって、新條くんが我慢せざるを得ないようなことをいっておいて、それに甘えて新條くんを傷つけて……なのに、同じことを新條くんがしたら、すごく苦しくて、もう、耐えられないくらい辛くって……こんな、気持ちになるなんて、全然気づかなくて……自分がそうなるまで、あたしがたくさん新條くんを傷つけてたこと、ずっと気づかなくて……!」
ぽろぽろと涙が溢れて止まらなかった。今まであたしが新條くんにしてきたことの残酷さ。そして、新條くんがしたことの残酷さ。申し訳ない気持ちと、心をえぐられるような痛みと、全部合わさって、よくわからなくなった。
「せ、先生……! 先生は謝る必要なんてないんだよ、いっただろ、俺は先生のことは全部わかってて好きになったんだ。先生は気にすることはないんだよ。でも俺は違う。俺はずっと、誰よりも先生を好きで、誰よりも先生を大事にするつもりで一緒にいたのに、俺のやったことは、先生が許せなくて当然だ」
さっきまで後悔だらけで今にも逃げ出したそうだった新條くんの目が、真剣にあたしを見つめて、そういった。
「……新條くんは、梨沙ちゃんのこと、好きになったの?」
「まさか! そんなわけないだろ」
新條くんが大声で否定した。
「俺は、その……言い訳にしか聞こえないかもしれないけど……先生の後輩だから、部屋に入れたんだ。そうじゃなかったら断ってたし、たとえ後輩でも、先生の指示じゃなければ断ってた。それに、俺さえちゃんとしてれば、絶対に間違いなんて起きないと思ってた。でも、まさか……戸叶先生のほうから、俺にしてくるなんて……夢にも思わなくて。気がついたときには、もうすっかり酔っ払って、体も動かなくて……」
「……そうだったのね……」
ちょっとだけ、ほっとする。新條くんは、まだあたしのことが好きなんだ。あたしも、好き。新條くんを失いたくなんて、ない。でも……。
目の前の新條くんを見る。……梨沙ちゃんは、新條くんに、何をしたんだろう? 新條くんのどこに、どんなふうに触れて、どんなふうに……キモチよく、させて……
「……ダメっ!」
急激に体が熱くなって、怒りに似た感情が込み上げた。誰に対してなのか、よくわからない。梨沙ちゃん? 新條くん? それとも、新條くんが好きなのに許せない、自分?
「……先生」
新條くんが恐る恐る伸ばした腕を、あたしは払いのけた。
「ダメ! 新條くんが大好き。大好きだけど、イヤだ。今のままじゃ、イヤ。こんなんじゃ、新條くんと元には戻れない……っ」
自分勝手に、そう叫んだ。新條くんの目に絶望の色が浮かぶ。仕方ない、自分でも、自分の気持ちをコントロールできない。怒りなのか嫉妬なのかよくわからないこの感情を、どうにか収めたいけど。振り上げたこぶしを何とか下ろして、また新條くんと触れ合いたいけど、ほかの女に触った手で、あたしに触れてほしくない。ほ、ほかの女に挿れたモノを、あたしに、挿れるなんて……っ!
「……洗ってきて!」
震えながら、あたしは口走った。
「きれいに、隅々まで、洗ってきて! 梨沙ちゃんに触られたところ、全部、きれいにしてきて……っ!」
新條くんはきょとんとしたあと、慌ててふらふらと立ち上がった。
「下着もジャージも、全部洗濯だからね!?」
新條くんが、まだアルコールの残るおぼつかない足取りで、お風呂場に向かった。その間に、あたしは怒りに任せて座卓の上に散らかった空き缶を片付ける。乱暴に、ゴミ袋に放り込む。こんなっ、新條くんを潰して、梨沙ちゃんと間違いを犯させた、こんなお酒なんてっ!
梨沙ちゃんとの名残をきれいさっぱり掃除して、余ったおつまみももう全部捨てて、ぱんぱんになったゴミ袋を土間に放る。……ちょっとだけ、すっきりした。お風呂場では、ずっとシャワーの音が聞こえてる。いつもより念入りに、洗ってくれてるみたい。でもあたしの中には、まだモヤモヤとしたものが残っていて。あたしの心が、元に戻るきっかけを、探していた。
頭では、納得する。そうよ、あたしだって、新條くんという人がありながら、凛太郎くんや西園寺先生にいじられたら感じちゃうし。新條くん以外の人に、何度イカされたことか。それと同じ。そう、体が感じてしまうのは、仕方がない。だって、心と体は別物だもの。心さえ裏切らなければ、体だけ感じてしまっても、それは、仕方がないことなんだ。あたしだって、付き合う前から、新條くんにそう宣言してたじゃない。
そう納得しようとして、気がついた。頭で割り切ろうとしても、全然うまく行かない。いざ大好きな人がほかの女の子と肌を合わせているのを見ると、こんなにも、胸が張り裂けそうなほど苦しいなんて。これほどまでの痛みになるなんて、全然知らなかった。
また、涙が溢れてきた。いろんな感情が一気に沸き上がってきて、どうしようもなくなる。
「ごめん……ごめんね、新條くん」
新條くんがギョッとしてあたしを見た。
「なんで……なんで先生が謝ってるんだよ?」
「あたし、自分勝手だよね。あたしは誰にでも感じちゃう体なんだって、新條くんが我慢せざるを得ないようなことをいっておいて、それに甘えて新條くんを傷つけて……なのに、同じことを新條くんがしたら、すごく苦しくて、もう、耐えられないくらい辛くって……こんな、気持ちになるなんて、全然気づかなくて……自分がそうなるまで、あたしがたくさん新條くんを傷つけてたこと、ずっと気づかなくて……!」
ぽろぽろと涙が溢れて止まらなかった。今まであたしが新條くんにしてきたことの残酷さ。そして、新條くんがしたことの残酷さ。申し訳ない気持ちと、心をえぐられるような痛みと、全部合わさって、よくわからなくなった。
「せ、先生……! 先生は謝る必要なんてないんだよ、いっただろ、俺は先生のことは全部わかってて好きになったんだ。先生は気にすることはないんだよ。でも俺は違う。俺はずっと、誰よりも先生を好きで、誰よりも先生を大事にするつもりで一緒にいたのに、俺のやったことは、先生が許せなくて当然だ」
さっきまで後悔だらけで今にも逃げ出したそうだった新條くんの目が、真剣にあたしを見つめて、そういった。
「……新條くんは、梨沙ちゃんのこと、好きになったの?」
「まさか! そんなわけないだろ」
新條くんが大声で否定した。
「俺は、その……言い訳にしか聞こえないかもしれないけど……先生の後輩だから、部屋に入れたんだ。そうじゃなかったら断ってたし、たとえ後輩でも、先生の指示じゃなければ断ってた。それに、俺さえちゃんとしてれば、絶対に間違いなんて起きないと思ってた。でも、まさか……戸叶先生のほうから、俺にしてくるなんて……夢にも思わなくて。気がついたときには、もうすっかり酔っ払って、体も動かなくて……」
「……そうだったのね……」
ちょっとだけ、ほっとする。新條くんは、まだあたしのことが好きなんだ。あたしも、好き。新條くんを失いたくなんて、ない。でも……。
目の前の新條くんを見る。……梨沙ちゃんは、新條くんに、何をしたんだろう? 新條くんのどこに、どんなふうに触れて、どんなふうに……キモチよく、させて……
「……ダメっ!」
急激に体が熱くなって、怒りに似た感情が込み上げた。誰に対してなのか、よくわからない。梨沙ちゃん? 新條くん? それとも、新條くんが好きなのに許せない、自分?
「……先生」
新條くんが恐る恐る伸ばした腕を、あたしは払いのけた。
「ダメ! 新條くんが大好き。大好きだけど、イヤだ。今のままじゃ、イヤ。こんなんじゃ、新條くんと元には戻れない……っ」
自分勝手に、そう叫んだ。新條くんの目に絶望の色が浮かぶ。仕方ない、自分でも、自分の気持ちをコントロールできない。怒りなのか嫉妬なのかよくわからないこの感情を、どうにか収めたいけど。振り上げたこぶしを何とか下ろして、また新條くんと触れ合いたいけど、ほかの女に触った手で、あたしに触れてほしくない。ほ、ほかの女に挿れたモノを、あたしに、挿れるなんて……っ!
「……洗ってきて!」
震えながら、あたしは口走った。
「きれいに、隅々まで、洗ってきて! 梨沙ちゃんに触られたところ、全部、きれいにしてきて……っ!」
新條くんはきょとんとしたあと、慌ててふらふらと立ち上がった。
「下着もジャージも、全部洗濯だからね!?」
新條くんが、まだアルコールの残るおぼつかない足取りで、お風呂場に向かった。その間に、あたしは怒りに任せて座卓の上に散らかった空き缶を片付ける。乱暴に、ゴミ袋に放り込む。こんなっ、新條くんを潰して、梨沙ちゃんと間違いを犯させた、こんなお酒なんてっ!
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