妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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妄想編

53話【daily work】西園寺 すみれ:論文(藍原編)

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 日中の仕事を終え、夕方に医局に戻ると、西園寺先生が待ち構えていた。

「藍原さん、ちょっと」
「何ですか?」

 西園寺先生が、何やら患者さんのIDが書かれたリストを渡してきた。

「あなた、こないだ心不全学会で発表したわよね。これ、その関連で論文にしてほしいんだけど」
「え、論文……ですか?」
「そう、臨床統計。うちの総合診療内科、循環器内科、循環器外科で扱った心不全患者のうち、この5年間で心エコー、BNPを測った患者のリスト。いろんなパラメータの相関関係を調べて、形になりそうなら論文にしてちょうだい」
「え……ええー!? これまた、ざっくりな指示ですね」
「で、最終目標は論文化だけど、その前に、来年春にまた学会があるから、できればそれに間に合わせたいのよね」
「それ、締め切りいつですか」
「10月末」
「……あと2か月しかないじゃないですか!」
「まっ、ちょっとやってみて」

 かるーく肩を叩いて、西園寺先生が去っていった。患者の数を見る。……ざっと、100人はいる……。うそでしょ、そんなの無理!

 医局のカレンダーで確認する。岡林くんがいるのは、あと2週間。そのあと2か月間は、研修医が来ない。つまり、あたしひとりで病棟も診ることになる。やるなら、岡林くんがいる間に時間を捻出するしかない。そう思っていると、院内PHSが鳴る。岡林くんからだ。

『藍原先生、今いいですか?』
「いいわよ、どうしたの?」
『あの、症例レポートを添削してほしいんですけど、いつなら時間ありますか?』

 ああ、そうだった。初期研修医は、回った科ごとに数例ずつレポートをまとめないといけないのよね。あと2週間で内科研修も終わりだから、確かにそろそろそんな時期ね。

「うーん、そうねぇ……あたしも仕事が残ってて、しばらく医局にいるから、今日ならいつでもいいわよ」
『あ……今日だと俺、ACLSの講習があって、終わるの7時過ぎちゃうんですけど』
「いいわよ、あたしもそれくらいはかかりそうだから。終わったら医局に来て」
『了解しました』

 はあ。ここに来て、仕事が立て込んできたわね……。まあいいわ、まずは各患者のデータのリストアップ。これは院内でしかできない仕事だから、とにかく早く終わらせて、いつでも仕事を持ち帰れる状態にしないと。
 あたしは早速パソコンの前に座って作業を始めた。
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