妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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障害編

51話【daily work】戸叶 梨沙:休憩室(小野編)

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「ねえ、ここ、喫煙OKなの?」
「いや?」
「小野くん、いつもここで吸ってるの?」
「うん」
「いいね。あたしも今度からここに来よう」

 4階中央病棟の端にあるナース用休憩室で、戸叶先生がタバコをふかす。窓を細く開けて、煙だけは外に吐き出して、左手には灰皿代わりの缶コーヒー。喫煙者のナースは数人いるけど、ここでこっそり吸ってるのを見たことはない。病院は敷地内禁煙だから、吸いたい奴は休憩時間に外に行くしかない。そんなのめんどくさいから、俺はここで吸うことにしてる。

 日勤の連中はみんなすでに休憩を取り終わって、あとは俺だけ。せっかくひとりでまったり吸ってたのに、突然戸叶先生がやってきた。普通、医者はナース用休憩室には入ってこないんだけどな。

「へえ、ナースの休憩室って、お菓子ばっかりだね。さすが女子部屋」
「……先生、何しに来たの」
「え? ちょっと遊びに。迷惑?」

 ……別に、話しかけてこなけりゃ迷惑じゃないけど。俺の貴重な休み時間、あと15分しかないんだよね。
 時間がもったいないから無視してると、戸叶先生がタバコの吸い殻を缶コーヒーの中に突っ込んでから、俺の隣に座った。

「……この部屋、しばらくは誰も来ないの?」
「そのはずだけど」

 戸叶先生がぐっと身を乗り出した。

「ねえ……しようよ」

 返事を聞く前から、俺の股間に手を伸ばしてる。……めんどくせぇな、あと14分しかないんだよ。
 また無視してると、勝手に俺のズボンを下ろし始めたから、仕方なくいった。

「時間ないんだよね。それに俺、めんどくさいの嫌いっていったでしょ」
「小野くんは何もしなくていいよ。あたしが勝手にするから」

 ……そういう意味じゃなくて。

「あのさ。うっかりほかのナースに見られたらまずいわけ。だから、院内でヤるのは嫌いなわけ」
「あ、そっか。小野くん、妻子持ちだし? あたしと不倫してるのばれたら、奥さんに知られちゃうかも?」

 それもあるし、先生以外にもヤッてるナース、いるから。そういうのにうっかり見られたら、いろいろとめんどくせぇだろ。

「……こういう揉め事を職場に持ち込んだら、オタクの上司が黙っちゃいないんだよ」
「え、誰? 藍原先生?」
「違うよ。西園寺先生」
「え、そうなの?」
「ここに配属されたとき、牧野師長に念押しされた。西園寺先生は、男女の揉め事のせいで職場がぎくしゃくするのを極端に嫌うから、絶対大人しくしてろ、って」
「そうなんだ?」
「何年か前に、ナースと二股かけてた医者が揉め事起こして、へき地に飛ばされたって聞いた」
「マジで。ウケる~」
「先生も気をつけたら?」
「なんで」
「……まだちょっかい出してるんでしょ、藍原先生に」
「えー。別に今は出してないよ。てか、藍原先生には出してないよ、先生の彼氏狙いだから」
「同じことじゃん」
「じゃあさ、あたしと小野くんのことが西園寺先生にバレたら、あたしも飛ばされちゃうの?」
「別に、トラブらなければいいんじゃん? 西園寺先生だって、相当遊んでるって話だし」
「何それ、自分は棚に上げて」
「西園寺先生は、うまくやってるってことだよ」
「ふーん。まあ確かに、慣れてそうだけど。キスもうまかったし」
「キス? なに、戸叶先生が、西園寺先生と、キス?」

 思わず振り向くと、戸叶先生がにやりと笑った。

「飲み会のとき、軽くキスしに行ったら、マジのやつされた。びっくりしたよ、あの人、相当エロいよ」

 うん、まあ、エロいのは見りゃわかる。

「まっ、あたしは、女より男とキスするほうが好きだけどね」

 そういうと、戸叶先生が身を乗り出して唇を合わせてきた。するりと入り込んできた舌はタバコとコーヒーの味がする。結局、股間に添えられた手は、会話の間も絶え間なく上下に動いていて、俺のモノは中途半端に勃起していた。……あと5分。ああ、俺の休み時間が……。

「あのさ。俺、もう戻らないといけないんだけど」
「これじゃあ戻れないね」

 戸叶先生がにやっと笑い、俺はちょっとイラっとする。タバコの吸い殻を戸叶先生の缶コーヒーに突っ込むと、俺は先生の頭を掴んだ。

「じゃあ責任取って。3分でイカせて」

 先生が嬉しそうに笑い、されるがままに俺の股間に頭をうずめる。貴重な休憩を邪魔されて結構ムカついてたけど……やっぱり戸叶先生、フェラはうまい。俺の機嫌を察してのサービスのつもりなのか、喉の奥まで咥えこんで激しく吸引してくる。最初から唾液も速度も全開で、深いピストンでカリの部分を上手に歯茎で刺激してくる。文字通り3分で、俺は射精した。例によって、先生が喉を鳴らしながら美味しそうに全部飲み込む。
 すっきりしてズボンを引き上げたタイミングで、休憩室のドアが開いた。

「うわっ!? あれ、戸叶先生? ごめんなさい、誰もいないと思ってノックもしないで」

 入ってきたのは佐々木さん。今日は夜勤のはずなのに、ずいぶん早い出勤だ。危ないタイミングだった。これだから院内はめんどくさいんだよ……。

「今日これから院内研修なんで、その前にこれ届けようと思って」

 佐々木さんが、紙袋からお菓子の包みを取り出した。

「鬼怒川温泉のお土産です! 小野さんも、みんなで食べてくださいね」

 また女子部屋に菓子が増えた。

「温泉? 週末で行ってきたんですか?」

 戸叶先生が訊く。

「はいっ、藍原先生と」
「藍原先生? 佐々木さん、一緒に旅行に行くくらい仲良しなんですか?」

 戸叶先生が興味津々だ。佐々木さんはご機嫌にうなずく。

「はいっ、仲良しでーす。一緒に合コンにも行ったし~、彼氏も交えて部屋飲みしちゃう仲でーす」
「え、彼氏って、藍原先生の彼氏?」

 うわ、戸叶先生の目が光った。

「そうですよ。地味だけどとっても優しい彼氏!」

 佐々木さん、それ以上しゃべらないほうがいいと思うぞ。

「いいなあ、部屋飲み、うらやましいなあ! 今度誘ってくださいよぉ」
「まあ、部屋飲みするときはだいたい彼氏のほうの部屋だから、彼氏に許可とらないと……まあいっか、どうせ藍原先生のお隣さんだし。……って、いけない、彼氏のこと、あたしがバラしちゃったの、秘密にしといてくださいね!? 今度先生から直接聞いてくださいよ」
「へえ、彼氏が、隣に住んでるんですか!? すごーい、デートし放題ですね! 今度さりげなく聞いてみようっと」

 ほら、戸叶先生、ルンルンだよ。なんか、めんどくさくなる予感。関わりたくねえな……。

「――じゃあ俺、もう行くんで」

 結局、ろくに休めない休憩時間だった。
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