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障害編
39話【off duty】西園寺 すみれ:高級マンション(藍原編)
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一人暮らしの先生のお部屋は、びっくりするくらいおしゃれで大人な空間だった。42階建ての高級マンションの、40階。夜景も綺麗で、まさに、洗練された女性の部屋って感じ。
間接照明を使って、ほんのり薄暗い広々としたリビングの真ん中に、ガラスのローテーブルが置いてあって、ソファは外国のホテルにあるような、座面が広いやつ。シングルベッドくらいの広さがありそうなそのソファの上で、ワイングラスを片手にくつろぐ西園寺先生の姿が、目に浮かぶようだ。
「すごい……先生、すごく素敵なお部屋ですね」
感嘆のため息とともに素直な感想をいうと、西園寺先生は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。職場の人でここに入るのは、あなたが初めてよ」
「うわあ、光栄です」
西園寺先生がキッチンでグラスを用意する。
「何がいいかしら? ワイン、シャンパン、ウイスキー、日本酒、それから……」
わ、すごい。ワインセラーまである。なんだかドキドキしちゃう。あたしは西園寺先生ほどワインには詳しくない。お勧めをお願いしたら、2002年もののシャトーカノンが出てきた。
高貴なルビー色をしたワインを口に含むと、その香りに自然と体がほぐれて夢見心地になってしまう。もうさっきの小料理屋で何杯か飲んだあとだからかな、それとも西園寺先生のお部屋があまりに心地よい空間だからだろうか。心の緊張が取れて、ほどよいけだるさが訪れる。
「あらあら、藍原さん、眠そうね? お酒に弱いのね」
「そうでもないはずですけど……」
上司の部屋に誘ってもらってうっかり眠くなるなんて、失礼極まりないわ! でも……。
ちらり、と西園寺先生のほうを盗み見る。……遠くのほうを見ながらワイングラスをゆっくりと揺らすその姿は、同性のあたしから見ても、とっても美しい。何もしてなくても、しっとりとした色気が常に漂っていて、男の人だったら、西園寺先生の誘惑に抗うのは至難の業なんじゃないだろうか。
……先生、さっき、岡林くんは相当うまいっていってた。噂で聞いただけなのか、それとも本当に……知ってるのかな。学生時代は、自分が誘惑して落ちなかった男は西先生だけだっていってたし。
「……どうかした?」
西園寺先生が振り返って初めて、あたしはじっと先生を見つめてたことに気づいた。切れ長の先生の目があたしを覗き込んで、あたしの胸が突然ざわつき始める。
「あっ、いえ、あの……先生が、きれいだなと思って……」
「あら、なに? 私を誘ってるの?」
「ち、違いますっ! そうじゃなくて、とっても、魅力的だなと思っただけです」
先生はふふっと笑った。
「あら、残念。でもね、藍原さん。もし私が男だったら……あなた、ここまでついてきた?」
「え……?」
意味ありげに、西園寺先生が微笑む。
「いくらあなたを襲わないって約束しても、それが男だったら、甘ちゃんな藍原さんも、もうちょっと警戒するんじゃなくて?」
「そ、それは……」
想像してみる。もし誘ってきたのが神沢先輩や岡林くんだったら……確かに、独り暮らしの部屋になんかは上がらない。それってつまり、バイとはいえ、西園寺先生が女性だから、あたしが――油断してるって、こと?
「でもあたし、西園寺先生のこと信頼してますし……」
ドギマギしながらそういうと、西園寺先生はにっこりと笑った。
「そういうところが、甘いのよね。でもいいのよ、私、約束は守るから。あなたさえよければいくらでもキモチよくしてあげたいけど、今はまだ、無理そうね……」
今は、まだ? ちょっと気になるワードがあったけど、先生が約束を守るっていってくれて、ほっとする。
「――それで先生、もうひとつの解決策って、なんですか?」
そもそもあたしはそれが聞きたくてここに来たんだもの。でも先生は余裕の笑みで。
「まあ、せっかくだから、その前にゆっくり飲みましょうよ」
半分以下に減ったあたしのワイングラスに、先生がシャトーカノンを注いだ。
間接照明を使って、ほんのり薄暗い広々としたリビングの真ん中に、ガラスのローテーブルが置いてあって、ソファは外国のホテルにあるような、座面が広いやつ。シングルベッドくらいの広さがありそうなそのソファの上で、ワイングラスを片手にくつろぐ西園寺先生の姿が、目に浮かぶようだ。
「すごい……先生、すごく素敵なお部屋ですね」
感嘆のため息とともに素直な感想をいうと、西園寺先生は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。職場の人でここに入るのは、あなたが初めてよ」
「うわあ、光栄です」
西園寺先生がキッチンでグラスを用意する。
「何がいいかしら? ワイン、シャンパン、ウイスキー、日本酒、それから……」
わ、すごい。ワインセラーまである。なんだかドキドキしちゃう。あたしは西園寺先生ほどワインには詳しくない。お勧めをお願いしたら、2002年もののシャトーカノンが出てきた。
高貴なルビー色をしたワインを口に含むと、その香りに自然と体がほぐれて夢見心地になってしまう。もうさっきの小料理屋で何杯か飲んだあとだからかな、それとも西園寺先生のお部屋があまりに心地よい空間だからだろうか。心の緊張が取れて、ほどよいけだるさが訪れる。
「あらあら、藍原さん、眠そうね? お酒に弱いのね」
「そうでもないはずですけど……」
上司の部屋に誘ってもらってうっかり眠くなるなんて、失礼極まりないわ! でも……。
ちらり、と西園寺先生のほうを盗み見る。……遠くのほうを見ながらワイングラスをゆっくりと揺らすその姿は、同性のあたしから見ても、とっても美しい。何もしてなくても、しっとりとした色気が常に漂っていて、男の人だったら、西園寺先生の誘惑に抗うのは至難の業なんじゃないだろうか。
……先生、さっき、岡林くんは相当うまいっていってた。噂で聞いただけなのか、それとも本当に……知ってるのかな。学生時代は、自分が誘惑して落ちなかった男は西先生だけだっていってたし。
「……どうかした?」
西園寺先生が振り返って初めて、あたしはじっと先生を見つめてたことに気づいた。切れ長の先生の目があたしを覗き込んで、あたしの胸が突然ざわつき始める。
「あっ、いえ、あの……先生が、きれいだなと思って……」
「あら、なに? 私を誘ってるの?」
「ち、違いますっ! そうじゃなくて、とっても、魅力的だなと思っただけです」
先生はふふっと笑った。
「あら、残念。でもね、藍原さん。もし私が男だったら……あなた、ここまでついてきた?」
「え……?」
意味ありげに、西園寺先生が微笑む。
「いくらあなたを襲わないって約束しても、それが男だったら、甘ちゃんな藍原さんも、もうちょっと警戒するんじゃなくて?」
「そ、それは……」
想像してみる。もし誘ってきたのが神沢先輩や岡林くんだったら……確かに、独り暮らしの部屋になんかは上がらない。それってつまり、バイとはいえ、西園寺先生が女性だから、あたしが――油断してるって、こと?
「でもあたし、西園寺先生のこと信頼してますし……」
ドギマギしながらそういうと、西園寺先生はにっこりと笑った。
「そういうところが、甘いのよね。でもいいのよ、私、約束は守るから。あなたさえよければいくらでもキモチよくしてあげたいけど、今はまだ、無理そうね……」
今は、まだ? ちょっと気になるワードがあったけど、先生が約束を守るっていってくれて、ほっとする。
「――それで先生、もうひとつの解決策って、なんですか?」
そもそもあたしはそれが聞きたくてここに来たんだもの。でも先生は余裕の笑みで。
「まあ、せっかくだから、その前にゆっくり飲みましょうよ」
半分以下に減ったあたしのワイングラスに、先生がシャトーカノンを注いだ。
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