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迷走編
58話【daily work】坂井 健一 21歳:疑い病名(藍原編)
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夕回診が終わるころ、小野くんに声をかけられた。けんちゃんが帰るらしい。あたしは梨沙ちゃんと連れだって、けんちゃんを面談室に案内した。
「どうしたんですか? 何か深刻な話ですか?」
けんちゃんは不安そうだ。さて、どう切り出せばいいかしら……。
「あの、塩谷さんの貧血の件に関係するので、伺うんですけど」
前置きをしてから、思い切って訊く。
「貧血の原因として、あくまでも可能性ですが……塩谷さんが、自分で血液を抜いている可能性があります」
「ええっ!?」
けんちゃんが目を丸くした。隣の梨沙ちゃんもびっくりしてる。
「ちょっと意味が、よくわからないんですが……」
「自己瀉血といって、ストレスなどが原因となって自分で血を抜くケースがあるんです。精神的に不安定な人が、いわゆる自傷行為としてすることもありますし、自分を傷つける意図がなくても、ストレス発散のひとつの形として、瀉血を選ぶ人もいます。それで……塩谷さん、いくら調べても出血源が特定できませんし、左の腕には針を刺した痕や、ほかにも自傷行為の痕があります」
そこまでいうと、けんちゃんは話そうかどうか悩んだ表情で、結局告白した。
「あの、実は……俺、茜とはよく喧嘩するんですけど……あいつ、かっとなると、俺の前で『死んでやる!』とかいってナイフで手首を切ったりすること、あるんです。でもそんな、貧血になるほど出血はしてないはずです。本気で死のうとしてるようには見えなくて」
なるほどね。
「そうですか。塩谷さんは看護師ですから、瀉血は、手首を切るとかではなくて、採血するように、腕の血管に針を刺して行う可能性が高いです。それで、坂井さんにお願いがあるのですが」
「え?」
けんちゃんがびっくりした顔をする。
「塩谷さん、彼女のお部屋に、入れます?」
「ええ!? まあ、一緒に暮らしてるようなもんなんで、合鍵は持ってますけど……」
「申し訳ないんですが、彼女が入院している間に、彼女の部屋を、探してほしいんです。もし、自宅に注射器や針、点滴用のチューブなどを保管しているようだと、自己瀉血と診断していいと思います。自己瀉血は、本人は死ぬつもりはなくても、加減を誤ったら死に至る危険な行為ですから、塩谷さんのためにも、止めてあげなくてはいけません」
けんちゃんは半泣きになりながらもうなずいた。
「……今夜、探してみます……」
けんちゃんが去ったあと、梨沙ちゃんが興奮気味に口を開いた。
「マジですか先生、自分で抜いちゃうですか! それ、完全に病気じゃん」
「そうよ、心の病気」
「ひゃあ、リスカの跡、見てみたかったな~」
相変わらず歯に衣着せぬ梨沙ちゃんね……。
「どうしたんですか? 何か深刻な話ですか?」
けんちゃんは不安そうだ。さて、どう切り出せばいいかしら……。
「あの、塩谷さんの貧血の件に関係するので、伺うんですけど」
前置きをしてから、思い切って訊く。
「貧血の原因として、あくまでも可能性ですが……塩谷さんが、自分で血液を抜いている可能性があります」
「ええっ!?」
けんちゃんが目を丸くした。隣の梨沙ちゃんもびっくりしてる。
「ちょっと意味が、よくわからないんですが……」
「自己瀉血といって、ストレスなどが原因となって自分で血を抜くケースがあるんです。精神的に不安定な人が、いわゆる自傷行為としてすることもありますし、自分を傷つける意図がなくても、ストレス発散のひとつの形として、瀉血を選ぶ人もいます。それで……塩谷さん、いくら調べても出血源が特定できませんし、左の腕には針を刺した痕や、ほかにも自傷行為の痕があります」
そこまでいうと、けんちゃんは話そうかどうか悩んだ表情で、結局告白した。
「あの、実は……俺、茜とはよく喧嘩するんですけど……あいつ、かっとなると、俺の前で『死んでやる!』とかいってナイフで手首を切ったりすること、あるんです。でもそんな、貧血になるほど出血はしてないはずです。本気で死のうとしてるようには見えなくて」
なるほどね。
「そうですか。塩谷さんは看護師ですから、瀉血は、手首を切るとかではなくて、採血するように、腕の血管に針を刺して行う可能性が高いです。それで、坂井さんにお願いがあるのですが」
「え?」
けんちゃんがびっくりした顔をする。
「塩谷さん、彼女のお部屋に、入れます?」
「ええ!? まあ、一緒に暮らしてるようなもんなんで、合鍵は持ってますけど……」
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けんちゃんは半泣きになりながらもうなずいた。
「……今夜、探してみます……」
けんちゃんが去ったあと、梨沙ちゃんが興奮気味に口を開いた。
「マジですか先生、自分で抜いちゃうですか! それ、完全に病気じゃん」
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「ひゃあ、リスカの跡、見てみたかったな~」
相変わらず歯に衣着せぬ梨沙ちゃんね……。
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