妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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迷走編

28話【daily work】看護師 小野 大 27歳:ナースステーション(藍原編)

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 月曜日。病棟に上がると、楓ちゃんがそわそわした様子で近寄ってきた。

「先生……調子どうですか?」

 あたりを気にしながら、小さい声で聞いてくる。

「大丈夫よ、楓ちゃん。なんかね、土日ですっかり、吹っ切れたというか」

 これは本当。新條くんのおかげで、自分でもびっくりするくらい、気持ちが落ち着いたの。楓ちゃん、なぜだか自分に責任感じてるみたいだし、安心させてあげないと。

「そうですか。何かあったら、いつでもいってくださいよ?」

 楓ちゃん、優しいのね。楓ちゃんみたいな女の子の友達がいて、本当によかった。
 さて、今日からはまた、研修医がいない生活に逆戻り。つまり、あたしひとりで入院患者さんを診て、外来もこなしていかなきゃいけない。今日も、10人の患者さんを診たあと、それぞれに指示出しや検査入力をする。

「川北さんには臨時の吐き気止め点滴、森さんは酸素オフにして、渡辺さんは、フォローアップのCTオーダー……」

 全部パソコンに入力して、急ぎの指示は担当ナースに直接伝達。えっと、川北さんの担当は……いたいた、小野くん。
 病室の前をゆったりと歩いている小野くん発見。彼は、2か月前に内科病棟に配属された、唯一の男性看護師。今まであまり関わったことはないけど……何だか、いつもぶっきらぼうで、ちょっと怖いのが本音。楓ちゃんより3個くらい年上みたいだけど、楓ちゃんも、怖いっていってた。あたしよりは年下のはずだけど、噂によると、もう結婚してて子供もいるらしい。

「小野くん。川北さんに、メトクロプラミド点滴お願いします」

 なるべく普通に指示伝票を渡してみたけど。小野くんは、紙を受け取ってしばらく内容を見ると、あたしに突き返してきた。

「俺今忙しいから、急ぎだったら先生やって」
「……え」

 ちょっと待って、点滴作って投与するのって、看護師の仕事よね……? き、聞き間違いかしら……。

「処置台に全部揃ってるから。先生できるでしょ?」

 で、できはするけど……そういう問題?

「……わ、わかったわ……」

 でも、無表情に強くいわれると、怖くて言い返せない……。我ながら情けないなと思いながら、まあでもあたしより小野くんのほうが忙しいなら仕方ないか、と自分を納得させてナースステーションに戻る。点滴作ったりとかは、当直中で緊急性が高くて本当に人手不足のときになら、やったりもするけど、慣れてるわけじゃない。こういうときに研修医がいてくれると助かるんだけど……。慎重に材料を確認しながら、処置台で点滴づくり開始。

「えっと、生食50に、メトクロプラミド1アンプル……」

 注射器やルートも用意して、アンプルを切る。

「あ……っ」

 いけない、手が滑って切ったアンプルのガラスの切れ端が落ちちゃった。小さいし透明だから、どこに行ったかよく見えない。探そうと思ったとき、背後で舌打ちが聞こえた。

「ったく、先生、不器用だな」
「お、小野くん……」

 なんだ、小野くん、いたの。だったら点滴作ってくれればいいのに……。てか、舌打ち、怖いんですけど……。

「先生、動かないで。踏んで割れたりしたらもっとめんどくさいわ」
「え」

 いわれたとおり立っていると、小野くんがかがんで落ちたアンプルを探し始めた。

「あ、ご、ごめんなさい……忙しいんでしょ?」

 怖いと思ったのに、わざわざあたしがミスで落とした切れ端を探してくれてる。親切……なのかな? いわれたとおり、あたしがさらにミスったらめんどくさいからなのかな。何だか訳もなくドキドキしてくる。小野くんは顔もあげずに、独り言のように文句をいった。

「ホントだよ、先生のせいでもっと忙しくなった」
「ご、ごめんなさい……」

 アンプルはなかなか見つからない。小野くんが床に顔を近づけながらあたしの足元を探す。……って、ちょっと……それ以上動くと、あたしの、スカートの中、見えちゃうんですけど……!? 何となく立ってたから、足はぴったり閉じてはいなくて、今小野くんが目を上げたらあたし、パンツ見られちゃう! それに気づいて、右足を動かそうとしたら、小野くんが怒鳴った。

「先生! 動くなっていったでしょ」
「ひゃあっ、ご、ごめんなさい……」

 あたしさっきから謝ってばっかりだ。でも、う、動かないと、ちょっとまずいことに……。かがんだ小野くんの頭があたしの右足首に接近してきて……それからさらに進んで、両足の間に……! ドキドキしながらじっと動かないでいると、突然、小野くんの手があたしの足首を触った! 『ひゃ……っ』思わず足を上げようとすると、小野くんがあたしの足首をしっかりと掴んだ。『先生。動くなって、いってるでしょ……?』鋭い目で、あたしを見上げた。その瞬間、あたしは羞恥で真っ赤になる。絶対今、下着が、見えてる……。『あの、小野くん、ちょっとこれは……』何とかどいてもらう言葉を探している間に、小野くんの顔がむくりと持ち上がって、あたしの膝の裏を舐めた。『ひゃあ!?』『ダメダメ先生、動くなってば』小野くんは淡々とした口調でいいながら、ゆっくりと膝から上へと舌を這わせる。『あっ、ダメッ……』『先生、声出しちゃダメでしょ。周りにバレちゃうよ?』『う、うう……』あたしはもう、なぜ急にこんなことになったのかわからなくて混乱するけど、どういうわけか動くなという命令に逆らえなくて、処置台に両手を突いて何とか足を踏ん張る。小野くんの舌が這う場所からじわじわとした感覚がせりあがってきて、あたしのアソコが一気に熱くなる。その間に、小野くんの頭はとうとうあたしのスカートの中へ……。『あ……っ、小野くん、ちょっと、そこはダメよ……っ』熱くざらついた舌は、あたしの内腿を上へ這って、そのまま下着の部分に到達する。小野くんの吐く息が熱くあたしの股間を刺激して、あたしはそれだけで体の中心がズクズクと疼いてくるのを感じた。『ね、ダメだったら……それ以上は、も……あああっ!』あたしのお願いなんか完全に無視して、小野くんの舌が、下着の上からあたしの敏感な突起をツンとつついた。『あっ、やっ、んん……っ』生まれたての小鹿のようにふるふると内股になって下半身を震わせながら、あたしは何とか立ったまま耐える。小野くんの指が、下着の上から割れ目をなぞった。『先生、濡れてるよ? エロいな、仕事中にナースステーションでこんなことされて感じるなんてさ』ちょっとバカにしたようにいわれて、恥ずかしくなる。それと同時に、ますます体が疼き出して……『あれ、こんなこといわれて、ますます感じちゃうの? スケベだな、また溢れてきたよ?』小野くんが下着をぐいと脇へ寄せた。『あっ、ダメ……っ』露出した割れ目に、ねっとりと舌が触れる。『んんんっ……!』生温かい感触のもたらす鈍い快楽に、あたしは処置台へ上半身を突っ伏すようにして声を堪える。『ほら先生、ちゃんと立ってないと、怪しまれるよ?』そういう小野くんの舌が、ぬぷりとあたしの中へと入ってきた。『あああ……ッ!』

「……あった」

 下から小野くんの声が聞こえて、はっとする。小野くんの頭は、あたしのスカートの中が見えるか見えないか、ギリギリのところにあった。あたしはぱっと足を閉じた。

「ひゃあ、ごめんなさい、わざわざありがとう……っ」

 小野くんはアンプルの切れ端をポイとゴミ箱に捨てると、通り過ぎざまにあたしの肩をぽんと叩いた。

「次からは気をつけてよ、危ないし迷惑」
「は、はい……」

 あたし、何で怒られてるの……。小野くんはそのまま立ち去って、結局点滴づくりはしてくれなかった……。な、何しに来たの……? 無駄にあたしの妄想を煽りに来ただけ……?

「先生、今、小野さんにいわれてたでしょ。なんか怒られた?」

 楓ちゃんがすすすと寄ってきた。すごく心配そうな顔をしてる。

「怖かったでしょ、先生。小野さん、ドクターにも容赦ないから」
「そ、そうね、なんていうか……逆らえない無言の圧力というか……」
「でもね、小野さん、あんなに笑わないし皆に厳しいのに、まさかのデキ婚らしいですよ~。子供は2歳くらいみたい」

 おっと、噂好きの楓ちゃん、さすがね。確かに、あの怖さで父親してるとか、ちょっと想像つかないけど。

「で、先生、こんなところで何してるの?」
「あ、臨時点滴の指示出したら、小野くんに、忙しいから自分でやれっていわれて……」
「はあ? 何それ、看護師の仕事じゃん。先生、それいいように使われてるよ、怒っていいやつだよ」
「うう、やっぱりそうよね? でも、なんだか逆らえなくて……」

 我ながら情けないわ……。ナースの圧力にやられるなんて……。

「先生、伝票ちょうだい。あたしがやってあげるよ」
「ほんと? 助かるわ楓ちゃん、ありがとう」

 ああ、楓ちゃんが優しくてよかった。
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