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恋愛編
24話【off duty】大橋 潤也:「来ないと殺すから」(大橋編)①
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花金の夜。することもなくて部屋でシコってたら、電話が鳴った。知らない番号だ。こんな時間に誰だ?
「もしもーし」
『……今どこ』
「え? 家だけど……て、誰?」
『今すぐ来い』
「は?」
『歌舞伎町、〇×屋の前。来ないと殺す』
「え? え? ちょっと、誰?」
なんだよ、このドスの利いた女の声。どっかで聞いたことあるような声だったりいい方だったりするけど……え。まさか、ひょっとして……
「か、楓さん?」
『30分以内に来ないと殺すから』
「え!? 30分って、今から――」
ブチッ。プーッ、プーッ。
……って、切れてるし。なんだ、今の電話? いや、でも。これはまさに、千載一遇のチャンス。何だかよくわからないけど、ちょっとだけ嫌な予感もするけど、俺に選択の余地はないっ!
半勃起のチンコを急いでパンツにしまって、俺は大急ぎで出かけた。
人生最高のダッシュで、何とか29分後に〇×屋に到着。……いた。楓さんだ。うわ、こんな物騒な繁華街で、可愛い子がひとりで雑居ビルの階段に座ってる。これはまずいって。
「か、楓さん! どうしたの、何かあった?」
振り向いた楓さんの顔を見て、思わず、うっと声を漏らす。これはヤバい。ヤバいって。目の座り方が半端ねえ。こないだ新條の部屋で飲んだときより、数倍ヤバい。
「大橋……」
ひゃー、呼び捨てだし。
「大橋。付き合え」
「え? え? い、いいの? 俺と付き合ってくれんの!?」
「違うだろー!! 酒に付き合えっていってんの!」
「あ、そっち? でも楓さん、もう充分に酔っぱらってるっぽいけど」
「文句あんの!?」
「……いや、ないっす」
うひゃー、めちゃ絡んでくる。でもいいや、楓さんと飲めるなら。こんな楓さんも、悪くない。
近くのこじんまりした居酒屋に入り直して、ふたりで日本酒を飲む。
「岡林先生が……岡林先生が……藍原先生狙いだったんだって……」
1杯飲んだあと、楓さんが語り出した。さっきより、女らしい声に戻ってる。
「え、岡林って、あの? 藍原先生って、あの藍原先生……?」
「……ほかに誰がいるんだよ!?」
うひゃっ、たまに地雷踏むと豹変するなあ。
「藍原先生だってさー。そりゃ、勝ち目ないよねー。藍原先生、すごく可愛いもん。頭もいいし、胸もでかいし、性格もいいし」
「そ、そんなの関係ねーよ! 俺は藍原先生の胸より、楓さんの胸のほうが好きだよ」
「あんたに好かれても意味ないの!」
「……すんません」
「あーあ、藍原先生狙いじゃなかったら、まだあたしにも脈あったのかな~」
「……」
まいったなあ。楓さん、キレながら、涙ぐんでんじゃん。藍原先生か。確かに、可愛いよ。あのムカつくほどイケメンの岡林とだったら、美男美女カップルでお似合いだ。でも俺は、楓さんのほうがいいけどな。上気した顔で、気持ちよさそうに喘ぐ楓さんの姿……忘れられない。
「……楓さん。そんな奴もう忘れてさ、俺にしなよ」
「……」
「楓さん?」
「……キモチワルイ……」
「え……」
慌ててトイレに連れて行くと、楓さんは数回げえげえ吐いた。でも、それでちょっとすっきりしたみたいだ。キレモードから、ちょっとまともに戻った。
「楓さん、酒はもうやめよう。お店出るよ?」
「ん……」
苦しそうに顔を歪めてうなずく。息も絶え絶え、体はアルコールで真っ赤だ。
楓さんに肩を貸しながら、俺は夜中の歌舞伎町に出た。酔っぱらった体には、秋の夜風が冷たい。ネオン街を駅に向かいながら、もう終電がないことに気づく。
「楓さん……」
楓さんは何もいわずに、ぐったりしながら俺に寄り掛かって歩いてる。
「楓さん……もう遅いよ。……どっか入ろ?」
返事はない。俺は、楓さんを連れて、色とりどりの看板が軒を並べる脇道に入った。
「もしもーし」
『……今どこ』
「え? 家だけど……て、誰?」
『今すぐ来い』
「は?」
『歌舞伎町、〇×屋の前。来ないと殺す』
「え? え? ちょっと、誰?」
なんだよ、このドスの利いた女の声。どっかで聞いたことあるような声だったりいい方だったりするけど……え。まさか、ひょっとして……
「か、楓さん?」
『30分以内に来ないと殺すから』
「え!? 30分って、今から――」
ブチッ。プーッ、プーッ。
……って、切れてるし。なんだ、今の電話? いや、でも。これはまさに、千載一遇のチャンス。何だかよくわからないけど、ちょっとだけ嫌な予感もするけど、俺に選択の余地はないっ!
半勃起のチンコを急いでパンツにしまって、俺は大急ぎで出かけた。
人生最高のダッシュで、何とか29分後に〇×屋に到着。……いた。楓さんだ。うわ、こんな物騒な繁華街で、可愛い子がひとりで雑居ビルの階段に座ってる。これはまずいって。
「か、楓さん! どうしたの、何かあった?」
振り向いた楓さんの顔を見て、思わず、うっと声を漏らす。これはヤバい。ヤバいって。目の座り方が半端ねえ。こないだ新條の部屋で飲んだときより、数倍ヤバい。
「大橋……」
ひゃー、呼び捨てだし。
「大橋。付き合え」
「え? え? い、いいの? 俺と付き合ってくれんの!?」
「違うだろー!! 酒に付き合えっていってんの!」
「あ、そっち? でも楓さん、もう充分に酔っぱらってるっぽいけど」
「文句あんの!?」
「……いや、ないっす」
うひゃー、めちゃ絡んでくる。でもいいや、楓さんと飲めるなら。こんな楓さんも、悪くない。
近くのこじんまりした居酒屋に入り直して、ふたりで日本酒を飲む。
「岡林先生が……岡林先生が……藍原先生狙いだったんだって……」
1杯飲んだあと、楓さんが語り出した。さっきより、女らしい声に戻ってる。
「え、岡林って、あの? 藍原先生って、あの藍原先生……?」
「……ほかに誰がいるんだよ!?」
うひゃっ、たまに地雷踏むと豹変するなあ。
「藍原先生だってさー。そりゃ、勝ち目ないよねー。藍原先生、すごく可愛いもん。頭もいいし、胸もでかいし、性格もいいし」
「そ、そんなの関係ねーよ! 俺は藍原先生の胸より、楓さんの胸のほうが好きだよ」
「あんたに好かれても意味ないの!」
「……すんません」
「あーあ、藍原先生狙いじゃなかったら、まだあたしにも脈あったのかな~」
「……」
まいったなあ。楓さん、キレながら、涙ぐんでんじゃん。藍原先生か。確かに、可愛いよ。あのムカつくほどイケメンの岡林とだったら、美男美女カップルでお似合いだ。でも俺は、楓さんのほうがいいけどな。上気した顔で、気持ちよさそうに喘ぐ楓さんの姿……忘れられない。
「……楓さん。そんな奴もう忘れてさ、俺にしなよ」
「……」
「楓さん?」
「……キモチワルイ……」
「え……」
慌ててトイレに連れて行くと、楓さんは数回げえげえ吐いた。でも、それでちょっとすっきりしたみたいだ。キレモードから、ちょっとまともに戻った。
「楓さん、酒はもうやめよう。お店出るよ?」
「ん……」
苦しそうに顔を歪めてうなずく。息も絶え絶え、体はアルコールで真っ赤だ。
楓さんに肩を貸しながら、俺は夜中の歌舞伎町に出た。酔っぱらった体には、秋の夜風が冷たい。ネオン街を駅に向かいながら、もう終電がないことに気づく。
「楓さん……」
楓さんは何もいわずに、ぐったりしながら俺に寄り掛かって歩いてる。
「楓さん……もう遅いよ。……どっか入ろ?」
返事はない。俺は、楓さんを連れて、色とりどりの看板が軒を並べる脇道に入った。
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