妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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恋愛編

11話【daily work】病棟長 西園寺 すみれ 42歳:「どこまでやったの?」(藍原編)

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 考えてみれば、あと2日といっても、昼間は仕事、夜はどっちかが当直なんだから、隙も何も、そんな雰囲気になるはずがないのよね。とりあえず木曜日は乗り切ったから、あとは今日一日。普通に仕事して、家に帰れば、大丈夫なはず。

 岡林くんの内科研修最終日。夕方の勤務を終え、あたしは晴れ晴れとした気持ちで岡林くんと別れた。

「2か月間、お疲れ様でした。とっても優秀な研修医くんだったから、すごく助かったわ。外科に行っても頑張ってね」
「……ありがとうございました。いろいろと、お世話になりました」

 岡林くんが頭を下げる。そのまま当直へ送り出し……ミッションクリア!
 あたしは医局に戻って一息ついた。

「あら、藍原さん。その表情だと、岡林の誘惑は断ち切ったわけ?」

 西園寺先生が現れた! だからっ、どうして医局で平気でそんな話をしちゃうかしら? ほかに人がいたらどうするのよ!

「当たり前じゃないですか、あたしは研修医とそそそんな、淫らな関係にはなりませんっ」

 うう、ちょっと半分ウソついてる気もするけど。

「あらあら、若い男とヤレるチャンスだったのに」
「あたしは西園寺先生とは違いますから」
「……百戦錬磨の遊び人の手にかかって開花するあなたを、見てみたかったわ」
「開花したって、先生には見せませんよ」
「あらあら、ふふふ。あなたもまんざらじゃなかったって岡林がいってたけど、その通りみたいね。ねえ、どこまでやったの? キスはしたんでしょ? 胸は触らせたの? 入れてないだけで、あとは済んだのかしら?」
「いいい入れるって……っ、な、何を……っ」
「あら、入れるっていったら……そうか、別に何入れてもいいものね。ふふーん、その様子だと、指は確実に入ってるわね。1本? 2本?」

 ひゃあああ、もうダメだ、この先生と話してると、なぜだか何でも見透かされてしまう。こ、これ以上話すわけには……っ!

「あのっ、あたしまだ仕事が残ってるんで、もう、邪魔しないでもらえますか!?」
「指まで入れられて、よく持ちこたえたわね。あっぱれだわ」
「だから、もう話しかけないでください」
「ねえ、本当はすごくキモチよかったんでしょ? 彼、どうだった? うまかった?」
「……先生、人の話、聞いてますか」

 ダメダメ。もう西園寺先生のいうことなんか聞いちゃダメ! キモチよかったとか、うまかったとか、そんなこと、聞いちゃダメ! ……ああほら、また疼いてきちゃうから……!
 西園寺先生が、ふふっと笑った。

「……まあいいわ。今度、岡林にでも聞くから」
「せ、先生っ、それはやめてくださいっ!!」

 思わず叫んでしまったあたしを見て、西園寺先生がとびきり意地の悪い笑みを浮かべた。

「藍原さん。あなたからダダ漏れなのは、フェロモンだけじゃないみたいね。からかい甲斐があるわぁ」

 ルンルン気分で医局を出ていく西園寺先生をぐったりと見送る。はあ、気を取り直して、論文用のデータを入力しなきゃ。来週から研修医が2か月いない日が続くから、今のうちにできるところまで進めておかないと。
 そう思ってひたすら電子カルテを検索しながらデータ入力をしていたら、いつの間にか時計が11時を回っていた。いけない、そろそろ帰らなきゃ。いつものように白衣のポケットをまさぐり、携帯電話がないことに気づく。

「あれ……どこかに落としたかな……?」

 いつもマナーモードにして白衣に入れてるんだけど、どこにしまったかしら……あ、ひょっとして。昨夜、当直で携帯を目覚まし代わりに使ったから、そのまま当直室に置き忘れたのかもしれない。

 当直室を捜索し、無事携帯電話を回収。さて、終電になる前に帰らないと……。
 当直室を出てシャワー室を通り過ぎようとしたところで、突然シャワー室のドアが開いた。ビクッと立ち止まると、出てきたのは岡林くんだった。

「あれ、藍原先生。こんな時間に何してるんですか」
「ひゃあ、お、岡林くん……」

 開いたドアの隙間から、もあっと湿度の高い熱気が溢れ出す。いつもきっちり白衣を着ている岡林くんが、今は当直用の術着の上に、白衣をさらっと羽織っただけ。Vネックの術着の隙間から見える肌には細かな汗の粒が浮き、普段はさらさらふわふわな髪の毛が、今は濡れてしっとりと顔にかかっている。シャワーを、浴びたばかりなんだ。

 不覚にも、ドキッとした。岡林くんは、かっこいい。それは知ってたけど。シャワーを浴びた直後がこんなに色っぽくて、男の香りが何倍にも増すなんて、反則だ。

「あ……えーと、忘れ物を取りに当直室に来ただけ……ひゃっ!?」

 いい終わらないうちに、岡林くんの手があたしの腕を掴んでぐいと引っ張った。そのままシャワー室の中に連れ込まれ、ドアを閉められる。狭いシャワー室の中で、岡林くんがあたしの両手首を強く捕らえて壁に押しつけた。ついさっきまで使われていたシャワー室の湿気と熱気に、岡林くんの匂いが入り混じって、息苦しくなる。

「先生。隙見せたら抱くっていったでしょ」

 あたしの耳元で、岡林くんが囁いた。
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