妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

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恋愛編

7-1話【off duty】岡林 幸太郎:送別会(藍原編)①

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「うわあ、本当に素敵な場所ね」

 レストランのあと、岡林くんに連れられて行ったのは、夜景のきれいな河川敷だった。緑豊かな川沿いに長い散歩道があって、そこから川のほうへ少し外れると、芝生の土手。対岸まで100メートルはあるような大きな川で、平日の夜だからとっても静か。土手に座ると、川の向こうにはネオンが綺麗なビル街が見えていて、遠くにスカイツリーが瞬いている。その上には、都会なのにくっきりと見える星空。

「こんなにきれいな夜景が見えるところがあるなんて、知らなかったわ」
「2か月間お世話になったお礼です。先生、こういうところ好きかなと思って」
「うん、大好き。よくわかるわね」
「そりゃわかりますよ。2か月、先生のそばにいたんだから」

 岡林くんの手が、柔らかい芝に置いたあたしの右手に触れた。振り向くと、岡林くんがじっとあたしを見つめてた。

「……先生、もう、気づいてますよね?」
「え? 何が?」

 岡林くんの顔が、ゆっくり、近づいてくる。

「俺の、気持ち」
「き、気持ちって……」

 思わず体が引いてしまう。岡林くん、近づきすぎよ! そんなに近づかなくても、聞こえてるから!

「先生。……俺たち、いろいろ、したじゃないですか。キスしたり、……アソコ、触ったり」
「しっ、してないわよっ、あれはあなたが勝手に……!」

 キスだって、あたしの許可も得ずに勝手に耳やら首やらにチューしただけで、アソコだって、楓ちゃんが目を覚ますかもしれないのに岡林くんが勝手にいじってきて……あれ、違う、あれはあたしの妄想だったはず。さ、さすがに岡林くんに、アソコを触られた覚えはないわ! ……ない、はず。あれ、どうしよう、自信がない。も、妄想の中に、現実が混ざってる!? うわっ、それはまずいわ、まずすぎる。いえ、でも待って、何も、岡林くんのいうアソコが、本当にアソコのことをいってるのかわからないじゃないの! あたしの早とちりよきっと、そう、アソコはアソコではなくて、別のアソコ、そう、例えば……ドコ?

「でも先生、感じてたでしょ? 俺のこと、受け入れてくれたよね?」

 考えがまとまらないうちに、岡林くんがぐいぐいと迫ってくる。右手を押さえられてるあたしは、それ以上体を引けなくて、芝生の上に倒れてしまった。その上に、岡林くんが四つん這いになる。こ、これは、まずいんじゃないかしら……。

「俺、好きな人にしか、ああいうことしない。先生……わかってて、受け入れてくれたんだよね?」

 え? ちょっと待って。今、なんて?

「す……好き……?」

 岡林くんがくすっと笑った。

「先生、どれだけ鈍感なの? 好き以外に、何があるんだよ」

 好き……? 岡林くんが、あたしを? うそでしょ。だって、

「あれは、酔っぱらって悪乗りしただけだったり、そういうやつでしょ」
「医局では、酔っぱらってなかったよ」
「え……」

 そ、そういえば、そうだった。あのときは、何だっけ……そう、西園寺先生が急に入ってきて、あたしはもうごまかすのに必死で……岡林くんの気持ちとか、どうしてあんなことになったのかとか、まるで考えていなかったわ!

「それに俺、知ってるよ。先生が医局で居眠りしてたとき……すごく感じて、アソコが濡れてた」
「え……っ!」

 うそ……。どうしよう、もう完全に頭が混乱してる。あたしが、めっちゃエロい夢見てうっかり感じちゃって、ぬ、濡れちゃったこと……バレてた!? やっぱりあのとき、あたし、エロい寝言口走ってたんだ!? やだ、もうダメ、岡林くんの顔、恥ずかしすぎてまともに見られない!

「や……やめて、それはっ、お願いだからっ、いわないで……!」

 何とか逃れようとするけど、いつの間にか両手首を岡林くんに押さえられてて、体が動かない。恥ずかしすぎる、もう、体中が熱くって、恥ずかしくて、泣きそう。

「ふふ。先生、そうやって恥ずかしがってるところ、すごく可愛い」

 岡林くんが、あたしにのしかかってくる。そして、耳元で囁いた。

「俺、先生の弱いところ、知ってるよ……?」
「……っ」

 やだ、耳に息がかかるだけで、体が震える。

「ほら、今も。藍原先生って、耳、すごく感じやすいよね?」
「あ……っ」

 岡林くんの熱い舌が、ざらりと、あたしの耳を舐める。一気に、体の熱が上がった。ダメ、耳は、ダメなの……!

「んんッ……、だ、ダメだってば、岡林くん……っ!」

 岡林くんの舌が、耳の穴の中まで、ぐるりと舐める。あたしは体中に震えが走って、もう、体が自分のものじゃないような感覚になってくる。

「先生……俺のものになってよ」

 そういって岡林くんが、あたしの唇を覆った。

「ん……っ、んんッ」

 岡林くんの唇があたしの唇を深く覆い、わずかな隙間から彼の舌が侵入してきた。あたしは顔を背けようとするけど、逃げ場がない。彼の熱い舌があたしの口の中を這い回って、逃げるあたしの舌を捉えた。

「んっ、ふ……っ!」

 ダメ、逃げられない。岡林くんの舌は、激しくあたしに絡みついて、音を立ててもてあそぶ。息ができない。

「ふっ、あ……っ、んふ……っ」

 空気を求めて口を開けると、岡林くんがさらに深く唇を合わせてきた。唇を、舌をついばむその動きに翻弄されて、完全に思考が停止する。もう、あんなに逃げようとしていた体はすっかり力を失い、しびれたように動けない。絡めとられたあたしの舌は、いつの間にか岡林くんの舌の動きに応えるようにうごめき、彼を求めて音を立てた。

「んんん……っ、はぁ、あ……っ」

 たっぷりとあたしの唇を味わったあと、岡林くんの顔が離れた。

「先生……すごく、可愛い。感じてる先生、もっと見せて?」
「だ、ダメ、ねぇ……ああっ」

 岡林くんの舌が首筋を舐め、徐々に下へおりていく。同時に、あたしを押さえていた右手が離れて、あたしのスカートの裾から中へ……。

「あっ、ダメだったら、そこは、ホントに……!」

 触っちゃダメ! そこは、ダメなの! 触られたら、感じてるのが、バレちゃう。まるで岡林くんを求めてるみたいに、濡れてるのが……。

「やめ、お、おねが……ああんっ!」

 下着の上から、岡林くんの指先が、あたしの膨らんだ突起をわずかに擦った。それだけで、あたしは声をあげて体をのけぞらせてしまう。

「先生、全然ダメじゃないじゃん。ねえ、俺に触られて、キモチいいんでしょ? それって、俺のこと、好きってことだよね……?」
「あっ、あっ、ダメ、あああっ」

 絶え間なく愛撫されながら訊かれても、何にも考えられない。あたしの体は、勝手に反応する。あたしの心なんてお構いなく。それって、あたしが、岡林くんを好きだから?

「ほら、すごく濡れてる。あのときみたいに」
「んんっ、ああっ、はっ、あ……っ」

 もう両手は解放されたのに、あたしの手は、岡林くんの肩を強くつかんだまま、押し戻すでもなく、抱き寄せるでもなく、中途半端だ。快感に素直に反応する体の中で、両腕だけが、ほんのわずかな理性を代弁している。でも、それすら今にも崩壊しそう。

「先生。先生の感じてる声、もっと聴きたい。もっと、乱れてよ……」
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