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宇宙を巡る
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紫音は今、遥か上空からザイールの町を見下ろしていた。
町は手の平程の大きさになり、回りには緑が見え、離れたところにタノールの町があり、小さな町が点々と見えていた。
紫音は更に上へ上へと昇っていった。
町はどんどん小さくなって見えなくなり、やがて大陸が見え海が見えた。
紫音は雲を突き抜けて尚も昇っていった。
そして今、目の前に球体がその圧倒的な存在感で現れた。
白とブルーで身を飾り、光を受けて輝くそれは、その美しさで見るものすべてを感動させた。
紫音もまた、この光景が好きだった。
紫音は感じていた。
目の前の球体は確かに生きている。
そして、その大きな体に数限りない命を生み育て愛しんでいた。
彼が呼吸する度に風が吹き、その中心の熱い塊で血を通わせ、その表面に貯えたおびただしい水で、命の営みを循環させていた。
紫音はその歩みを止めない堅固な意思と総てを育む営みに、父母の愛を感じ暖かい思いに包まれるのだった。
そしてこの星も又、この宇宙に生命の器を与えられ、器が朽ち果ててその生命が故郷に帰るその日まで、己の役割を果たしているように、自分も又与えられた役割を、精一杯果たしていこうと、新たに決意するのだった。
紫音はそれから月へ行きその静かなたたずまいを眺め、太陽へ行きその猛々しい炎の饗宴に力を与えられ、更に火星、水星、木星、金星、土星と順番に訪れ、最後に遠く離れた場所から銀河系の宇宙を眺めていた。
そこには星という数限りない生命の集まりがあった。
自分もまたこの星たちと同じだという思いで、紫音は見つめていた。
器の形は違えど、星達も同じ生命を持って同じ生命の発露の方法で、自分の存在を主張していた。
紫音は今、この果てしない宇宙そのものであり、この宇宙も又、紫音そのものであった。
紫音は宇宙をつかさどる力を感じ、その懐に抱かれ溶け込み、新たな力が漲ってくるのを感じていた。
紫音には老いというものがなくいつまでも若いままだった。
死ぬということがなく、役割が終わればその世界から消え、別の世界へ現れるだけだった。
そうやって果てしない時を生きて来た。
そして紫音には小さい頃の記憶というものがなかった。
あるのは今の姿の自分がそれぞれの世界いる記憶だけだった。
ある時、紫音は小さい時の記憶を忘れているだけだと思い、過去への記憶を丹念に思い出していった。
しかしある場所を境に、それ以前の記憶はぷっつり途切れていた。
親もわからず、子供の時からの育った記憶がないというのは、この世界に繋がりがなくただ一人だけの存在だということだった。
自分は一体誰なのか?
何の為にここにいるのか?
その思いがいつも紫音の中にあった。
だから時々はその力を使って、この星を宇宙から眺めたり、他の星を巡ったり、離れた所から銀河系を眺めたりしていた。
そうする事で、紫音はこの星との繋がりを感じ、宇宙との繋がりを感じ、その中に溶け込む事で、新たな希望が沸いてくるのであった
紫音はやろうと思えば何でも出来た。
死期間近な病人を治す事も出来たし、一つの国を支配した事もあった。
一つの文明が成熟し過ぎ、人間の傲慢さに歯止めが聞かなくなり、滅びの運命を辿るしかなくなった時、最小の被害で済むように手を加えた事もあった。
人類の精神的な支えが必要だと思った時、神と呼ばれ、そう振るまった事もあった。
しかしその後の歴史を見た時、一体それが何になったのだろうとも思えた。
一人一人で見れば素晴らしい存在の人類も、集団になれば神さえも紛争の種にして争った。
東方へ行きたい。
紫音はそう思った
東の方に、日、出づる国があると云う。
そこへ行けば私の旅は終わる。
紫音はそんな気がしてならなかった。
町は手の平程の大きさになり、回りには緑が見え、離れたところにタノールの町があり、小さな町が点々と見えていた。
紫音は更に上へ上へと昇っていった。
町はどんどん小さくなって見えなくなり、やがて大陸が見え海が見えた。
紫音は雲を突き抜けて尚も昇っていった。
そして今、目の前に球体がその圧倒的な存在感で現れた。
白とブルーで身を飾り、光を受けて輝くそれは、その美しさで見るものすべてを感動させた。
紫音もまた、この光景が好きだった。
紫音は感じていた。
目の前の球体は確かに生きている。
そして、その大きな体に数限りない命を生み育て愛しんでいた。
彼が呼吸する度に風が吹き、その中心の熱い塊で血を通わせ、その表面に貯えたおびただしい水で、命の営みを循環させていた。
紫音はその歩みを止めない堅固な意思と総てを育む営みに、父母の愛を感じ暖かい思いに包まれるのだった。
そしてこの星も又、この宇宙に生命の器を与えられ、器が朽ち果ててその生命が故郷に帰るその日まで、己の役割を果たしているように、自分も又与えられた役割を、精一杯果たしていこうと、新たに決意するのだった。
紫音はそれから月へ行きその静かなたたずまいを眺め、太陽へ行きその猛々しい炎の饗宴に力を与えられ、更に火星、水星、木星、金星、土星と順番に訪れ、最後に遠く離れた場所から銀河系の宇宙を眺めていた。
そこには星という数限りない生命の集まりがあった。
自分もまたこの星たちと同じだという思いで、紫音は見つめていた。
器の形は違えど、星達も同じ生命を持って同じ生命の発露の方法で、自分の存在を主張していた。
紫音は今、この果てしない宇宙そのものであり、この宇宙も又、紫音そのものであった。
紫音は宇宙をつかさどる力を感じ、その懐に抱かれ溶け込み、新たな力が漲ってくるのを感じていた。
紫音には老いというものがなくいつまでも若いままだった。
死ぬということがなく、役割が終わればその世界から消え、別の世界へ現れるだけだった。
そうやって果てしない時を生きて来た。
そして紫音には小さい頃の記憶というものがなかった。
あるのは今の姿の自分がそれぞれの世界いる記憶だけだった。
ある時、紫音は小さい時の記憶を忘れているだけだと思い、過去への記憶を丹念に思い出していった。
しかしある場所を境に、それ以前の記憶はぷっつり途切れていた。
親もわからず、子供の時からの育った記憶がないというのは、この世界に繋がりがなくただ一人だけの存在だということだった。
自分は一体誰なのか?
何の為にここにいるのか?
その思いがいつも紫音の中にあった。
だから時々はその力を使って、この星を宇宙から眺めたり、他の星を巡ったり、離れた所から銀河系を眺めたりしていた。
そうする事で、紫音はこの星との繋がりを感じ、宇宙との繋がりを感じ、その中に溶け込む事で、新たな希望が沸いてくるのであった
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人類の精神的な支えが必要だと思った時、神と呼ばれ、そう振るまった事もあった。
しかしその後の歴史を見た時、一体それが何になったのだろうとも思えた。
一人一人で見れば素晴らしい存在の人類も、集団になれば神さえも紛争の種にして争った。
東方へ行きたい。
紫音はそう思った
東の方に、日、出づる国があると云う。
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