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番外編 めぐりめぐる
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今日は大晦日。あちこちで新年を祝う準備がされている。
イタリアの年越しはなんというか…騒がしい。
大晦日の4日前くらいから爆竹や花火が鳴り響き、通りを歩くのはとても危険だ。
それに基本的に年越しは皆で集まって賑やかに過ごす。日本の静かでどこか厳かさも感じられる年越しとは正反対だ。
俺も去年はlumeで、常連さんたちとその家族も呼んでどんちゃん騒ぎをしながら年を越した。でも今年は、ニコラと二人で過ごす予定。マルコさんにそう言うと拗ねられた。でも一度くらいいいだろう。だってこの先何回もあるイベントなんだからさ。
そんな今日は朝から大掃除だ。日本に住んでいた名残かこの日には掃除をしないと落ち着かない。俺に付き合ってニコラも朝から忙しく動いていた。
店の掃除を徹底的にしているニコラに代わって俺は部屋の掃除担当だ。本が雑に詰まっている本棚の前にため息をつきながら仁王立ちする。ニコラは意外とこんなところが雑だ。
「しゃーない、やるか」
よし、と気合いを入れて上段から手をつける。大方が世界の紀行本と料理本で構成されている本棚の片付けはとても重労働だ。
しばらく片付けていると、上段の方で何かが入った箱を見つけた。持ってみると箱の大きさに見合わず、意外と軽い。なんだろうとそっと蓋を開けてみる。中には何枚もの紙が入っていた。
文字と一緒に絵が書かれている。
「レシピ、か?」
紙束の中の1枚にさっと目を通してみる。それはイタリア語で書かれているが、どうやら茶碗蒸しのレシピだ。
他のものも見てみると、全部日本料理のようだ。
それぞれのレシピに色鉛筆で描かれた絵はどれも細かく、丁寧だ。
文字を目で追っていく内に、どこか既視感を覚えた。繊細な絵といい、この癖のある字といい俺はどこかで見たことがある。一体どこだ…?
「どうしたの?」
「うわっ!」
突然ニコラに声をかけられてびくっと肩が跳ねた。集中していたからかニコラが近づいてきていたことにまったく気がつかなかった。
派手に驚いた俺にニコラがくすくす笑う。そんなニコラをじとっと見てから俺は手に持っていたレシピをニコラに見せた。
「ニコラ、これ」
「ん?」
不思議そうな顔をしてニコラがそれを受け取って、あぁと頷いた。
「これは俺が昔教えてもらったレシピだよ。懐かしいなぁ。この人に日本の料理の基本を教わったんだ」
微笑みながらニコラがパラパラとレシピの束をめくる。
「今から何年前だろう。俺が22の時だから…もう10年以上前かな?当時いろんな国の料理を勉強したくて、街中で他国の人かな?って人に声かけてさ、料理教えてもらってたんだよね。このレシピもそんな時のだね。日本人の女の人だったな。柔らかい雰囲気のさ、綺麗な人だったな」
懐かしむように目を細めて語るニコラ。その時の景色を思い出しているんだろうか。どこか遠くを見ているように見える。
「毎週一回、街中のカフェで会ってね。レシピを教えてもらうんだけど毎回1枚だけレシピを書いた紙をくれるの。あ、これね」
ニコラが手にもったレシピを示すように揺らす。
「前回もらったレシピの料理を俺が作って持っていって、新しいレシピと交換。俺が作った料理にもちゃんと感想くれたりして。いい先生だったなぁ」
ふぅん、と相づちを打つ。このレシピを教えてもらったことは、ニコラにとってとてもいい思い出なのだろう。優しい表情で語るニコラに、俺も自然とほっこりした気持ちになった。
「確か画家さんだったな。同じように絵を描いてる旦那さんと、10代の子供がいるって言ってたっけ。日本からこっちに移ってきたばっかりなんだーって。『もう私に教えられることはなくなっちゃった』って言われて1年もしない内にレッスンは終わっちゃったんだけどね。それから会えてないなぁ。今どこにいるんだろう」
ちょっと待て。夫婦二人とも画家で10代の子供がいて日本人で?イタリアに引っ越してきた?
「ニコラそれ何年前だって言った?」
急に声色が変わっただろう俺の様子にニコラが首を傾げる。
「うーんと、12年前?くらいだと思うけど」
12年前。俺はその時15、6歳…ちょうどイタリアに移ってきた歳だ。
時期がぴったり一致する。俺と、俺の両親がイタリアに来た年と。それに夫婦揃って画家という条件もぴったりだ。
「ニコラ、その人の名前とか知らない?」
そう聞いた俺の声は震えていなかっただろうか。
「ユウコさんだよ」
ユウコ、その名前を聞いて俺の中で全てが繋がった。
「ニコラ、それ俺の母さんだ」
そう告げるとニコラの目が真ん丸になった。その心底驚いた表情に思わず笑いが込み上げる。いや、俺もニコラに負けないくらい驚いてるよ。まさか俺の母さんがニコラに料理を教えたことがあるなんて。この広い世界の中、俺達が出会えたことがもう奇跡だと思っていたのに、まさかこんなことがあるなんて。
イタリアに引っ越してきた頃を思い出す。母さんとの会話も思い出してまた笑う。
「そうだ、確かに母さん言ってたよ。最近私、若い男の子に料理を教えてるのよ。その子すごいイケメンなのよって。父さんがどんな子なんだって聞いたら母さんが、すっごくいい子なのよ。雰囲気がね、春の日差しみたいなの。花を咲かせるような、皆をふわっと包み込むような優しい優しい笑顔と言葉を持った子なのよ。って言ってた。父さんがそれ聞いて嫉妬してさ。ははっ懐かしいなぁ」
ニコラの表情が一瞬泣きそうに見えて、でも嬉しそうにふわっと笑った。あぁ、これが母さんが言ってた春みたいな笑顔ってやつなのかな。だったら俺もその意見に賛成だ。ニコラの傍はすごく暖かいんだよ、母さん。母さんももしかしたら知ってたのかもしれないな。
「このレシピの字も絵も。どこか既視感あるなと思って考えてたんだ。通りで見覚えがあるはずだ。母さんの書いたレシピだったんだ」
家族3人で囲む食卓。そこで楽しそうにこの話をしていた母さんを思い出す。料理を教えていたのがニコラだったなんて今の今まで思いもしなかったけれど。
「俺も会ってみたいって父さんが言ったらさ、今は修行中だからダメよ、その子がお店開いたら皆で行きましょう。それまでは私とその子の秘密よ、って。昔から茶目っ気ある人だったからなー。…結局その後1年もしない内に二人は死んじゃって知らないままになってた。けど今繋がった。母さんが料理を教えた“あの子のお店”俺はもう何回も行ってる」
こんなところであの時の約束が果たされるなんて。嬉しくて、でもどこか切なくてちょっと泣きそうになりながらニコラを見る。目が合うとぎゅっと抱き込まれた。痛いくらいにぎゅうぎゅう抱き締められて、ニコラの背中をなだめるように叩く。
「いつかお店開いたら来てもらいたいってずっと思ってたんだ。どこかで会えないかなってあのカフェに行くとちょっと探してみたりしてさ。そっか俺の望みは叶ってたんだね」
ニコラの柔らかい声が降ってくる。
うん、と抱き締められながら頷くとニコラが、嬉しいなぁと小さく呟いた。
うん、俺も嬉しいなぁ。もう会えないと思っていた父さんと母さんに思いがけないところで出会った気分だ。思い出でしかないけれど、俺の他にちゃんと覚えていて、そして大切にしてくれている人がいる。そのことが頭でも心でもわかって、切ないのに嬉しい。
「確かにユウコさんって茶目っ気たっぷりな人だったね。今ごろになってこんな嬉しいことがわかるなんてさ、なんかユウコさんのいたずらにひっかかった気分だね」
ふふっとニコラが笑う振動が腕から、背中から、胸から響く。
目を閉じていると母さんがよく見せた、悪戯っぽい笑顔がぱっと瞼の裏に浮かんだ。懐かしいなぁ。あの笑顔で父さんも俺もどれだけ振り回されたことか。それがどれだけ楽しかったことか。
「なーんかしてやられた気分だな」
ニコラの腕から抜け出てははっと笑うと、ニコラもまた笑った。
「ニコラの作った日本料理は懐かしい味がする理由がわかった。基本は母さんが教えたんだもんな。正真正銘お袋の味だったわけだ」
いつか食べたニコラのだし巻き玉子も、肉じゃがも。日本の味だから懐かしいわけではなかった。母さんの味だからだったんだな。
「知らない内に嫁入り修行してたってこと?」
「ははっ、嫁って」
「お母様の味を身につけて、旦那に作ってあげたいんです」
ニコラの裏声での台詞に二人して大笑いする。
「不甲斐ない息子ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「あははっ、どういうキャラなのそれ」
俺も裏声を作って言うと、ニコラが笑い崩れた。
ひとしきり笑ってから、二人でレシピをそっと片付けた。
「これでチハルのお母さんの味と約束は巡り巡ってちゃんと繋がったんだね」
「ニコラと母さんの約束もな」
本棚の上段にしまわれていたそれは、また大事にしまわれた。それをニコラが満足げに見上げる。
「でもすごい偶然だよな」
「運命かもしれないよ?」
感慨深くそんなことを呟くと、ニコラが相変わらず甘い気障な言葉を吐く。
その悪戯っぽい笑顔がどこか母さんと重なって見えた。
「今年最後にサプライズ」
「誰から?」
「さあね。でもいい年越しだね。来年もいいこと有りそう。まあ、チハルがそばにいること以上のいいことって早々ないけどね」
「はい解散っ!」
甘すぎ!何年一緒にいても慣れない甘い言葉に真っ赤になった俺にニコラがくすくす笑っている。
「っていうか片付け!終わってない!」
はっと時計を見るともうとっくに夕方になってしまっていた。出した物だけでもせめて片付けないと!慌てて二人で動き出す。
遠くの方からは人々の賑やかな声が響いてきた。
めぐりめぐる end.
イタリアの年越しはなんというか…騒がしい。
大晦日の4日前くらいから爆竹や花火が鳴り響き、通りを歩くのはとても危険だ。
それに基本的に年越しは皆で集まって賑やかに過ごす。日本の静かでどこか厳かさも感じられる年越しとは正反対だ。
俺も去年はlumeで、常連さんたちとその家族も呼んでどんちゃん騒ぎをしながら年を越した。でも今年は、ニコラと二人で過ごす予定。マルコさんにそう言うと拗ねられた。でも一度くらいいいだろう。だってこの先何回もあるイベントなんだからさ。
そんな今日は朝から大掃除だ。日本に住んでいた名残かこの日には掃除をしないと落ち着かない。俺に付き合ってニコラも朝から忙しく動いていた。
店の掃除を徹底的にしているニコラに代わって俺は部屋の掃除担当だ。本が雑に詰まっている本棚の前にため息をつきながら仁王立ちする。ニコラは意外とこんなところが雑だ。
「しゃーない、やるか」
よし、と気合いを入れて上段から手をつける。大方が世界の紀行本と料理本で構成されている本棚の片付けはとても重労働だ。
しばらく片付けていると、上段の方で何かが入った箱を見つけた。持ってみると箱の大きさに見合わず、意外と軽い。なんだろうとそっと蓋を開けてみる。中には何枚もの紙が入っていた。
文字と一緒に絵が書かれている。
「レシピ、か?」
紙束の中の1枚にさっと目を通してみる。それはイタリア語で書かれているが、どうやら茶碗蒸しのレシピだ。
他のものも見てみると、全部日本料理のようだ。
それぞれのレシピに色鉛筆で描かれた絵はどれも細かく、丁寧だ。
文字を目で追っていく内に、どこか既視感を覚えた。繊細な絵といい、この癖のある字といい俺はどこかで見たことがある。一体どこだ…?
「どうしたの?」
「うわっ!」
突然ニコラに声をかけられてびくっと肩が跳ねた。集中していたからかニコラが近づいてきていたことにまったく気がつかなかった。
派手に驚いた俺にニコラがくすくす笑う。そんなニコラをじとっと見てから俺は手に持っていたレシピをニコラに見せた。
「ニコラ、これ」
「ん?」
不思議そうな顔をしてニコラがそれを受け取って、あぁと頷いた。
「これは俺が昔教えてもらったレシピだよ。懐かしいなぁ。この人に日本の料理の基本を教わったんだ」
微笑みながらニコラがパラパラとレシピの束をめくる。
「今から何年前だろう。俺が22の時だから…もう10年以上前かな?当時いろんな国の料理を勉強したくて、街中で他国の人かな?って人に声かけてさ、料理教えてもらってたんだよね。このレシピもそんな時のだね。日本人の女の人だったな。柔らかい雰囲気のさ、綺麗な人だったな」
懐かしむように目を細めて語るニコラ。その時の景色を思い出しているんだろうか。どこか遠くを見ているように見える。
「毎週一回、街中のカフェで会ってね。レシピを教えてもらうんだけど毎回1枚だけレシピを書いた紙をくれるの。あ、これね」
ニコラが手にもったレシピを示すように揺らす。
「前回もらったレシピの料理を俺が作って持っていって、新しいレシピと交換。俺が作った料理にもちゃんと感想くれたりして。いい先生だったなぁ」
ふぅん、と相づちを打つ。このレシピを教えてもらったことは、ニコラにとってとてもいい思い出なのだろう。優しい表情で語るニコラに、俺も自然とほっこりした気持ちになった。
「確か画家さんだったな。同じように絵を描いてる旦那さんと、10代の子供がいるって言ってたっけ。日本からこっちに移ってきたばっかりなんだーって。『もう私に教えられることはなくなっちゃった』って言われて1年もしない内にレッスンは終わっちゃったんだけどね。それから会えてないなぁ。今どこにいるんだろう」
ちょっと待て。夫婦二人とも画家で10代の子供がいて日本人で?イタリアに引っ越してきた?
「ニコラそれ何年前だって言った?」
急に声色が変わっただろう俺の様子にニコラが首を傾げる。
「うーんと、12年前?くらいだと思うけど」
12年前。俺はその時15、6歳…ちょうどイタリアに移ってきた歳だ。
時期がぴったり一致する。俺と、俺の両親がイタリアに来た年と。それに夫婦揃って画家という条件もぴったりだ。
「ニコラ、その人の名前とか知らない?」
そう聞いた俺の声は震えていなかっただろうか。
「ユウコさんだよ」
ユウコ、その名前を聞いて俺の中で全てが繋がった。
「ニコラ、それ俺の母さんだ」
そう告げるとニコラの目が真ん丸になった。その心底驚いた表情に思わず笑いが込み上げる。いや、俺もニコラに負けないくらい驚いてるよ。まさか俺の母さんがニコラに料理を教えたことがあるなんて。この広い世界の中、俺達が出会えたことがもう奇跡だと思っていたのに、まさかこんなことがあるなんて。
イタリアに引っ越してきた頃を思い出す。母さんとの会話も思い出してまた笑う。
「そうだ、確かに母さん言ってたよ。最近私、若い男の子に料理を教えてるのよ。その子すごいイケメンなのよって。父さんがどんな子なんだって聞いたら母さんが、すっごくいい子なのよ。雰囲気がね、春の日差しみたいなの。花を咲かせるような、皆をふわっと包み込むような優しい優しい笑顔と言葉を持った子なのよ。って言ってた。父さんがそれ聞いて嫉妬してさ。ははっ懐かしいなぁ」
ニコラの表情が一瞬泣きそうに見えて、でも嬉しそうにふわっと笑った。あぁ、これが母さんが言ってた春みたいな笑顔ってやつなのかな。だったら俺もその意見に賛成だ。ニコラの傍はすごく暖かいんだよ、母さん。母さんももしかしたら知ってたのかもしれないな。
「このレシピの字も絵も。どこか既視感あるなと思って考えてたんだ。通りで見覚えがあるはずだ。母さんの書いたレシピだったんだ」
家族3人で囲む食卓。そこで楽しそうにこの話をしていた母さんを思い出す。料理を教えていたのがニコラだったなんて今の今まで思いもしなかったけれど。
「俺も会ってみたいって父さんが言ったらさ、今は修行中だからダメよ、その子がお店開いたら皆で行きましょう。それまでは私とその子の秘密よ、って。昔から茶目っ気ある人だったからなー。…結局その後1年もしない内に二人は死んじゃって知らないままになってた。けど今繋がった。母さんが料理を教えた“あの子のお店”俺はもう何回も行ってる」
こんなところであの時の約束が果たされるなんて。嬉しくて、でもどこか切なくてちょっと泣きそうになりながらニコラを見る。目が合うとぎゅっと抱き込まれた。痛いくらいにぎゅうぎゅう抱き締められて、ニコラの背中をなだめるように叩く。
「いつかお店開いたら来てもらいたいってずっと思ってたんだ。どこかで会えないかなってあのカフェに行くとちょっと探してみたりしてさ。そっか俺の望みは叶ってたんだね」
ニコラの柔らかい声が降ってくる。
うん、と抱き締められながら頷くとニコラが、嬉しいなぁと小さく呟いた。
うん、俺も嬉しいなぁ。もう会えないと思っていた父さんと母さんに思いがけないところで出会った気分だ。思い出でしかないけれど、俺の他にちゃんと覚えていて、そして大切にしてくれている人がいる。そのことが頭でも心でもわかって、切ないのに嬉しい。
「確かにユウコさんって茶目っ気たっぷりな人だったね。今ごろになってこんな嬉しいことがわかるなんてさ、なんかユウコさんのいたずらにひっかかった気分だね」
ふふっとニコラが笑う振動が腕から、背中から、胸から響く。
目を閉じていると母さんがよく見せた、悪戯っぽい笑顔がぱっと瞼の裏に浮かんだ。懐かしいなぁ。あの笑顔で父さんも俺もどれだけ振り回されたことか。それがどれだけ楽しかったことか。
「なーんかしてやられた気分だな」
ニコラの腕から抜け出てははっと笑うと、ニコラもまた笑った。
「ニコラの作った日本料理は懐かしい味がする理由がわかった。基本は母さんが教えたんだもんな。正真正銘お袋の味だったわけだ」
いつか食べたニコラのだし巻き玉子も、肉じゃがも。日本の味だから懐かしいわけではなかった。母さんの味だからだったんだな。
「知らない内に嫁入り修行してたってこと?」
「ははっ、嫁って」
「お母様の味を身につけて、旦那に作ってあげたいんです」
ニコラの裏声での台詞に二人して大笑いする。
「不甲斐ない息子ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「あははっ、どういうキャラなのそれ」
俺も裏声を作って言うと、ニコラが笑い崩れた。
ひとしきり笑ってから、二人でレシピをそっと片付けた。
「これでチハルのお母さんの味と約束は巡り巡ってちゃんと繋がったんだね」
「ニコラと母さんの約束もな」
本棚の上段にしまわれていたそれは、また大事にしまわれた。それをニコラが満足げに見上げる。
「でもすごい偶然だよな」
「運命かもしれないよ?」
感慨深くそんなことを呟くと、ニコラが相変わらず甘い気障な言葉を吐く。
その悪戯っぽい笑顔がどこか母さんと重なって見えた。
「今年最後にサプライズ」
「誰から?」
「さあね。でもいい年越しだね。来年もいいこと有りそう。まあ、チハルがそばにいること以上のいいことって早々ないけどね」
「はい解散っ!」
甘すぎ!何年一緒にいても慣れない甘い言葉に真っ赤になった俺にニコラがくすくす笑っている。
「っていうか片付け!終わってない!」
はっと時計を見るともうとっくに夕方になってしまっていた。出した物だけでもせめて片付けないと!慌てて二人で動き出す。
遠くの方からは人々の賑やかな声が響いてきた。
めぐりめぐる end.
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