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俺が何も言えずにその動きを呆然と見ていると、ニコラはおもむろにギターを構えた。
そして――
耳に届いたのはバースデーソング。誕生日おめでとう、と心地よい声で何度もメロディーに乗せて紡がれる。ろうそくの明かりで浮かび上がったニコラの表情はひどく柔らかくて…これでニコラに好かれてないなんて思えるやつがいたらおかしいと思うくらいに、その表情は優しくて、甘くて、どうしようもなく胸が痺れた。
「ハッピバースデートゥーユー」
優しくそう歌い終えたニコラに笑顔を向けられる。
「ほら、ろうそく吹いて?」
言われてふっと息をふく。1拍置いて真っ暗になった瞬間ニコラに軽く口を塞がれた。さっきまで俺にお祝いを紡いでいた唇と俺の唇が重なる。
それはすぐに離れていって、ニコラが席を立った気配がした。数瞬後に電気がつく。
明るくなった中を戻ってきたニコラにふわっと微笑まれて「おめでとう」と言われるともうダメだった。気づけば涙が頬を伝っていた。
「え、チハル?どうしたの」
ニコラが驚いて、目を丸くしている。
「いや、ちが」
涙を拭うもそれは止まらない。
「こら、擦っちゃだめ」
ごしごしと動かしていた手を押さえられて、同時に引き寄せられる。
「どうしたの」
「嬉しくて」
そう言ってみたけどニコラはもう俺が嬉しさだけで泣いたのではないことを察しているようで、抱き込まれた腕は緩まなかった。
「…俺、今日…ニコラにもう好きじゃないって言われるかと思っててそれで」
「ちょっ、えっ!?」
相当驚いたようすのニコラにばっとからだを離されて覗き込まれる。
「なんでそんなこと思ってたの!?」
「昼間来るなって言われたこととか…その間ルカさんと会ってたこととか…ルカさんの香水とか」
「ルカ!?」
俺の言葉に一瞬驚いた顔をしたニコラが見えたかと思うと次の瞬間息苦しいほどに抱き締められた。
「ニコラ?」
「ごめん、ごめんねチハル。俺が不安にさせてたのか」
「いや、ニコラのせいじゃない!俺が勝手に」
「俺のせいだ。ごめん説明するね」
ニコラの腕が緩まって見えなかったお互いの表情が見える。ニコラの表情はへにゃっと眉が下がっている。俺の顔はどんなだろう。
「ルカにはギターを教えてもらってたんだ。バースデーソングを贈りたくて。それでこの1週間は会えなかった。香水は教えてもらうとどうしても近くにいることになるからついたんだ。ごめん、言ってもよかったんだけどサプライズにしたくて柔軟剤って嘘までついた」
「ニコラ、ニコラ、もういいんだよ」
今度は俺からぎゅっと抱きついてニコラの言葉を止めた。
「俺、今すごく嬉しいから謝ってほしくなんてないよ」
そう言ってぽんぽんと背中を叩くとまたぎゅっと抱き締められた。
「んーでも俺のせいでチハルを不安にさせてたんだよ…今俺の行動思い返してみれば浮気男みたいだ…ほんとごめん」
「いいんだって」
「だって…辛い思いさせた」
「ニコラ」
背中に回していた手を離して、ニコラの頬に添えて顔を上げてもらう。
「もういいんだけどさ。ニコラがそれだと嫌だったら、ごめんって言うよりさ…好きって言ってほしい。不安になった分だけ言ってよ」
そう言うとニコラはぱちぱちと数回目をしばたかせた。
そして
「あーもう好きほんとに好きチハル可愛い」
「言った傍からかよ」
思わず笑うとニコラは俺の肩に額をつけてしまった。
「チハル好き。ここでその提案が出てくるところとかもうほんとに好き。好きすぎてどうしようほんとはずっと一緒にいたかった明日から昼間も一緒ね」
怒濤の好きコールにそろそろ痒くなってきた。まるで飼い主に甘える大型犬のようなニコラに笑ってしまう。
「わかった、わかったから。ケーキ食べようよ」
「んー」
渋々離れていくニコラ。こんなに言葉と態度で示されるともう不安になんてなっていられない。
「なぁ、なんで今日は昼間から呼び出したんだ?」
「んー?だって夜はマルコさんたちが来るでしょ?チハルを独り占め出来ないし、すると怒られそうだし」
「なるほど」
「マルコさんたちがチハルの誕生日祝うんだって張り切ってたよ」
「…幸せもんだね俺」
チハルが幸せなら何よりだよ、とニコラにちゅっとキスを落とされて恥ずかしさに身を捩る。さっきまでの空気はもうなくて、今はただただ甘いニコラが戻ってきた。
「このケーキ美味しい!ニコラが作ったのか?」
「そうだよ。美味しいならよかった」
フォークに乗せたケーキを差し出すとニコラが笑って食べてくれる。
来るまでは気分はどん底だったけど、今は最高。落差が激しくて目眩がしそうなほど幸せだ。
「あ、ちょっと待ってて」
そう言って席を立ったニコラが手に包みを持って戻ってくる。
「はい。プレゼント」
「ありがとう!え、開けてもいい?」
聞くと微笑んで頷いたので、遠慮なく包みを開ける。出てきたのはピアスだった。シンプルな銀細工に紫の宝石がついている。
「2月の誕生日だよ」
「ってことはアメジスト?」
「うん」
つけてもいい?と聞かれて躊躇いもなく頷く。ニコラからのプレゼントだ。むしろつけてほしい。
つけ終わるとよく似合ってる、と満足そうにニコラが笑った。
「アメジストの意味って知ってる?」
「いや、知らないなー。ニコラは知ってるのか?」
「真実の愛を守り抜く、だよ」
ニコラの唇が囁きながら俺の唇に触れる。きっと今の俺の顔は真っ赤だ。
そして――
耳に届いたのはバースデーソング。誕生日おめでとう、と心地よい声で何度もメロディーに乗せて紡がれる。ろうそくの明かりで浮かび上がったニコラの表情はひどく柔らかくて…これでニコラに好かれてないなんて思えるやつがいたらおかしいと思うくらいに、その表情は優しくて、甘くて、どうしようもなく胸が痺れた。
「ハッピバースデートゥーユー」
優しくそう歌い終えたニコラに笑顔を向けられる。
「ほら、ろうそく吹いて?」
言われてふっと息をふく。1拍置いて真っ暗になった瞬間ニコラに軽く口を塞がれた。さっきまで俺にお祝いを紡いでいた唇と俺の唇が重なる。
それはすぐに離れていって、ニコラが席を立った気配がした。数瞬後に電気がつく。
明るくなった中を戻ってきたニコラにふわっと微笑まれて「おめでとう」と言われるともうダメだった。気づけば涙が頬を伝っていた。
「え、チハル?どうしたの」
ニコラが驚いて、目を丸くしている。
「いや、ちが」
涙を拭うもそれは止まらない。
「こら、擦っちゃだめ」
ごしごしと動かしていた手を押さえられて、同時に引き寄せられる。
「どうしたの」
「嬉しくて」
そう言ってみたけどニコラはもう俺が嬉しさだけで泣いたのではないことを察しているようで、抱き込まれた腕は緩まなかった。
「…俺、今日…ニコラにもう好きじゃないって言われるかと思っててそれで」
「ちょっ、えっ!?」
相当驚いたようすのニコラにばっとからだを離されて覗き込まれる。
「なんでそんなこと思ってたの!?」
「昼間来るなって言われたこととか…その間ルカさんと会ってたこととか…ルカさんの香水とか」
「ルカ!?」
俺の言葉に一瞬驚いた顔をしたニコラが見えたかと思うと次の瞬間息苦しいほどに抱き締められた。
「ニコラ?」
「ごめん、ごめんねチハル。俺が不安にさせてたのか」
「いや、ニコラのせいじゃない!俺が勝手に」
「俺のせいだ。ごめん説明するね」
ニコラの腕が緩まって見えなかったお互いの表情が見える。ニコラの表情はへにゃっと眉が下がっている。俺の顔はどんなだろう。
「ルカにはギターを教えてもらってたんだ。バースデーソングを贈りたくて。それでこの1週間は会えなかった。香水は教えてもらうとどうしても近くにいることになるからついたんだ。ごめん、言ってもよかったんだけどサプライズにしたくて柔軟剤って嘘までついた」
「ニコラ、ニコラ、もういいんだよ」
今度は俺からぎゅっと抱きついてニコラの言葉を止めた。
「俺、今すごく嬉しいから謝ってほしくなんてないよ」
そう言ってぽんぽんと背中を叩くとまたぎゅっと抱き締められた。
「んーでも俺のせいでチハルを不安にさせてたんだよ…今俺の行動思い返してみれば浮気男みたいだ…ほんとごめん」
「いいんだって」
「だって…辛い思いさせた」
「ニコラ」
背中に回していた手を離して、ニコラの頬に添えて顔を上げてもらう。
「もういいんだけどさ。ニコラがそれだと嫌だったら、ごめんって言うよりさ…好きって言ってほしい。不安になった分だけ言ってよ」
そう言うとニコラはぱちぱちと数回目をしばたかせた。
そして
「あーもう好きほんとに好きチハル可愛い」
「言った傍からかよ」
思わず笑うとニコラは俺の肩に額をつけてしまった。
「チハル好き。ここでその提案が出てくるところとかもうほんとに好き。好きすぎてどうしようほんとはずっと一緒にいたかった明日から昼間も一緒ね」
怒濤の好きコールにそろそろ痒くなってきた。まるで飼い主に甘える大型犬のようなニコラに笑ってしまう。
「わかった、わかったから。ケーキ食べようよ」
「んー」
渋々離れていくニコラ。こんなに言葉と態度で示されるともう不安になんてなっていられない。
「なぁ、なんで今日は昼間から呼び出したんだ?」
「んー?だって夜はマルコさんたちが来るでしょ?チハルを独り占め出来ないし、すると怒られそうだし」
「なるほど」
「マルコさんたちがチハルの誕生日祝うんだって張り切ってたよ」
「…幸せもんだね俺」
チハルが幸せなら何よりだよ、とニコラにちゅっとキスを落とされて恥ずかしさに身を捩る。さっきまでの空気はもうなくて、今はただただ甘いニコラが戻ってきた。
「このケーキ美味しい!ニコラが作ったのか?」
「そうだよ。美味しいならよかった」
フォークに乗せたケーキを差し出すとニコラが笑って食べてくれる。
来るまでは気分はどん底だったけど、今は最高。落差が激しくて目眩がしそうなほど幸せだ。
「あ、ちょっと待ってて」
そう言って席を立ったニコラが手に包みを持って戻ってくる。
「はい。プレゼント」
「ありがとう!え、開けてもいい?」
聞くと微笑んで頷いたので、遠慮なく包みを開ける。出てきたのはピアスだった。シンプルな銀細工に紫の宝石がついている。
「2月の誕生日だよ」
「ってことはアメジスト?」
「うん」
つけてもいい?と聞かれて躊躇いもなく頷く。ニコラからのプレゼントだ。むしろつけてほしい。
つけ終わるとよく似合ってる、と満足そうにニコラが笑った。
「アメジストの意味って知ってる?」
「いや、知らないなー。ニコラは知ってるのか?」
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