白い猫と白い騎士

せんりお

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シグさんが部屋を出ていった瞬間、私の周りにわらわらと人が集まってくる。鬼の居ぬ間になんとやら。どうやらシグさんは少なからず怖がられているようだ。普段から素を見せればいいのに。優しいし、結構喋るのになー。もったいない。

「まじで猫だ!久々に見た」

「ほんとになー」

「真っ白だな!」

いろんな人に頭やら体やらを撫でられる。あごの下を撫でてくる手が気持ちよくて喉が勝手にぐるぐると鳴った。

「ってか隊長って猫とか好きなの?」

「それな」

「肩に乗せてるのとか意外でしかない」

この言葉にレオンさんは得意気な笑みを浮かべた。

「だーかーら言ってるでしょ!シグは普段はあんなだけど本当は違うって!」

「今まで信じてなかったけど、ちょっと真実味出ました」

何人かがうんうんと頷いている。

「隊長優しいのかー?んー?」

と私を覗き込んで聞いてくる隊員がいたので「にゃー」と返事をした。
それに隊員たちが騒ぐ。

「あはは、こいつ言葉わかってんじゃないの?」

「まっさかそんなわけ」

「いやー、案外隊長の相棒になるんじゃねぇの」

和気あいあいとした空気が居心地いい。
ここは良いところだと思う。

「なあ?リツカ、お前隊長のこと好きか?」

そう聞かれる。私を助けてくれた人を嫌いなわけがない。

「にゃ!」

勢いよくそう返事をするとまた皆笑って、 数人が私の頭をぐりぐりと撫でた。

「ほんとになるかもね、相棒」

レオンさんが呟いた。






そうこうしているうちにシグさんが帰ってきた。無表情はいつものままだけど、何か雰囲気が違う。あ、これ機嫌悪いんだな、と察した私はその場から離れようとした。机に近づいてくるシグさんと入れ違いにぴょんと飛び降りようとして…「おら、どこいく」と尻尾を掴まれてつんのめった。

「しゃー!(突然なにすんの!)」

毛を逆立てて抗議する。

「こらーシグ、扱い酷いぞー」

レオンさんが呆れたように言う。

「その分だと基地長になんか言われたんでしょ。何言われたの?」

レオンさんに聞かれてシグさんは無表情をさらに仏頂面にした。

「白団の基地長は長いことお留守のようですが余裕ですねー、対魔獣はそんなに楽ですか?だとよ」

ふんっ、と鼻を鳴らしてシグさんが怒りのこもった声で言った。レオンさんも苦い表情になる。

「あー、あの人はいっつも…どうせうちの基地長が総会議に呼ばれて自分は呼ばれないからっていうお門違いの恨みでしょ?黒団にとってここは体のいい左遷先だからねー」

「だからって俺たちは違うんだっての。ここは対魔獣の白団にしたら要所だ」

周りの隊員たちも仕方ないというような渋い表情だ。

「業務内容が違うんだから気にしなきゃいいのに」

隊員の一人が不満そうに言う。その一言にシグさんはふっと厳しかった表情を緩めた。

「まあ、しょうがないさ。さあ、業務に戻れ」

シグさんのその一言で皆それぞれ散らばっていった。
私はまだ机の上から下りることができていない。にゃー、と鳴いてシグさんを見上げると「とりあえず今日はここにいとけ」と言われて、あちこち行ってみたかったのと、尻尾の恨みを忘れていない私はその日一日レオンさんにくっついていることにしたのだった。

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