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3章

封印の森

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 ドラゴンでの移動の末、あっという間に封印の森へと到着した。
 異様な到着の早さに戸惑う一向に対し、エミルはドラゴンの頭を撫でている。
 そして、そんなドラゴンはご機嫌そうに目を細めている。


 「グレジス副団長はエミル団長がドラゴンをその……召喚? 出来る事はご存知だったんですか?」


 リアの問にルーンは


 「一度だけですが見た事がありました。けど、それ以来一度も」


 「私、ドラゴンを召喚する人初めて見ました。エミル団長はやっぱり凄い方なんですね……」


 リアの瞳が輝く。
 その瞳の輝きに、かつて自分がエミルへと抱いた『憧れ』をルーンを思い出した。


 ……まぁ、今はほとんど消えつつある思いだが。


 封印の森は、奇妙な御札が沢山貼られた錆びた塀に囲まれている。
 明らかに雰囲気のある封印の森に、フローラは足が竦む。

 だってあからさま過ぎる程にそこは【出そう】な雰囲気がある。


 けれど、中に入らないと事は進まない。


 ルツから渡された魔文の呪いの研究結果が記された本をギュッと強くフローラは抱きしめた。


 「中に入りましょう。エミル」


 「了解です」


 エミルは頷くと、ひとつの鍵を取り出した。
 そして錆びたこれまた雰囲気のある森への入口の扉の錠前を開けた。


 ガシャン……


 鍵のあく音が響く。


 ギギィ……と歪な音をたてながら扉が開けば、エミルが先陣をきって森へと一歩踏み出した。

 先頭はエミル。それからリア、リディスが来てフローラをカインとルーンが囲み、森の中へと進んで行く。


 薄暗く、木々が生い茂る森の中をどんどん進んで行く。


 「ねぇ、グレジス副団長」


 「何でしょう、フローラ様」


 「……貴方、アンジェの事愛してる?」


 フローラの突然の質問にルーンは驚く。
 一体なぜ今、こんな質問をされたのか分からなかったのだ。

 これがエミルからの質問となれば、からかっているのだとルーンは無視しただろう。
 けれど、相手はフローラである。
 しかも、真剣な眼差しを向けられれば尚更だ。


 「愛してますよ」


 「…………ほんとに?」


 「嘘をつく理由なんて無いじゃないですか」


 少し素っ気なくルーンが返す。
 一方のフローラは、何処か納得した様子でいた。

 フローラはアンジェへの報酬として頼まれていた通りに、アンジェの言う条件全てに適した令嬢を探して来ていた。
 結果、沢山の令嬢を見つける事が出来た。


 けれど、フローラはこの事をアンジェに伝えるべきか否か迷っていたのだ。

 最初アンジェに頼まれた際、何か深い理由があるのだろうと深くは詮索しなかった。
 
 けれど、やはりどうしても気になってフローラはリアに尋ねたのだ。


 『アンジェってその、結婚生活上手くいってないの? その想いがすれ違ってる……みたいな』


 『ある意味すれ違ってはいると思います。けど二人はちゃんと想い合った素敵な夫婦だと思ってます。だから……私は一刻も早くアンジェを自由の身にさせてあげたいんです。素直に自分の本当の気持ちをグレジス公爵に伝えて欲しんです…』


 その言葉に、余計に分からなくなっていたが、今のルーンの反応で全て察した。


 (アンジェはグレジス副団長の事を愛してるからこそ、病気のことを伝えずに彼に見合う女性……言わば、後妻を探していたのね)


 アンジェはたまに自分を酷く卑下し、ネガティブな思考になる時がある。
 声に出していなくても、表情で察する事が出来る程に。


 (自分はグレジス副団長には釣り合わない。…そして、もし自分が亡くなった時のための後妻探しね……)


 フローラは肩を竦めると


 「……ルーンは昨日から心配と不安。それから怒りの感情でグチャグチャに見えるのは俺だけか?」


 そう突然口を開いたのはカインだった。
 カインの言葉にルーンの眉がピクリと動く。

 ………どうやら図星の様だ。


 「………愛しい奥さんに病気の事を秘密にされてたんだ。そりゃあ怒りの感情を抱くのも無理は無いと思うが……」


 「アンジェの事です。きっと私の事を思って敢えて伝えなかったんでしょう」


 「………因みにグレジス副団長。アンジェは自分の代わり……いいえ。貴方に見合った女性を探して欲しいと私に頼んでいたわよ」


 この事をルーンに伝えるべきか否か迷った末、フローラはルーンへと伝えた。

 心の中でアンジェに謝罪はしたものの、フローラは反省なんてしていない。

 だって、ルーンに伝えるべきだと思ってしまったのだ。


 アンジェが目を覚ました時、ちゃんと二人が向き合えるように。
 言葉を交わし、目を合わせ……本当の気持ちを伝え合うために。


 フローラの言葉にルーンの瞳が見開かれた次の瞬間、カサリと茂みが揺れる音がした。


 その音にエミルがいち早く反応し、皆が一斉に身構えた。



 
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