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3章

兄妹

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 一見今のフローラの姿はボロ雑巾の様な、薄汚い粗末な様子だろう。

 けれど、そんなフローラから溢れ出るオーラ。
 それは、誰もが踏み入る事の出来ないような……そんな気配をも感じる。


 隠し部屋へとやって来たフローラ。
 扉には招待状をかざす事で扉が開く様に作り込まれた魔法道具が置かれていた。

 フローラは招待状をかざす。
 そうすれば、ギギィ……と少し歪な音を出しながら扉が開いた。


 「待ってたよ」


 部屋へと一歩踏み出せば、赤いソファーに深く腰をかけ、優雅な笑みを浮かべたルツがそこには居た。

 正体を隠しているとは言え、こうも兄に笑顔を向けられたのは久しぶりでフローラは妙に緊張感を覚える。


 「それで、貴方が『記憶のアルバム』の製作者……ですか?  フローラ」


 ルツの言葉にフローラは思わず目を見張る。
 まさかバレていたとは……。

 誤魔化すか?
 いや……ここは敢えて肯定しよう。


 もう、逃げている暇なんて無いのだから。


 フローラは深く被っていたフードを脱ぐ。
 そうすれば、美しい光沢のある金色の髪と鋭く光る深い青い瞳が静かにルツを捕らえる。

 ルツは以前会った時とは遥かに変わった姿と佇まいに思わず目を見張る。


 「……随分痩せたようだね。フローラ」


 「顔を合わせて最初のその言葉がそれって……男性として如何なものかしら」


 「失礼。私とした事が」


 そう言ってルツはフローラにソファーへ腰を下ろすように勧めれば、フローラは渋々とソファーに腰を下ろした。


 「それで、わざわざ呼び出して一体何の要件です?」


 「…………何が目的だ」


 ルツの言葉にフローラは少し動揺する。
 明らかに先程までの態度とは違い過ぎたからだ。

 空気が一気に張り詰めたものへと変わる。

 冷や汗が頬を伝う中、フローラは淡々と答える。


 「お……王太子殿下は……やはり私がお嫌いですか?」


 とは言っても、それは全く答えでも何でも無かった。

 ルツの表情が僅かに固まる。
 どうやらフローラの答えに驚いたらしい。

 予想外の問にルツが困惑していると


 「因みに私は貴方が大嫌いです。何でも出来て、皆から愛される……貴方が大嫌いよ。だって私と言う存在が貴方が居るから霞んでしまうんだもの。お爺様以外誰も私のこと、認めてはくれなかったんだもの……!」


 フローラの悲痛な叫び。
 それはルツは静かに受け止める。

 けれどその表情は酷く苦しそうなものだった。


 「……って今までの私なら思ってたわ」


 「今、まで…?」


 「そう。けど、今の私には大切な仲間が居るの。それが『記憶のアルバム』の制作を手伝ってくれたアンジェ、リア、ベルよ。特にアンジェは私を変えてくれた大切な存在なの」


 「……あぁ」


 「そんな大切な友達が今、倒れてるの。魔文の呪いで」


 「魔文の呪い…!?」


 「お兄様。これは一生のお願いよ。どうかお兄様が知っている魔文の呪いについての情報を教えて下さい。私は大切な大切な友達を助けたいの。いつも助けて貰ってばかりなの。だから……今度は私が、アンジェを助けたいの……!」


 フローラはソファーから立ち上がると、深々とルツへ頭を下げた。
 そんなフローラからは、大粒の涙がボロボロと床へと落ちて行く。

 こんな泣きじゃくるフローラの姿を久々に見たルツは再び困惑した。


 しかし、ルツはニッと不敵に微笑んだ。
 それは正に悪役の様な……そんな笑みで。


 「分かった。教えてやる」


 「ほんと…!?」


 「あぁ。ただし、交換条件だ」


 「……私に出来る事なら」


 そうフローラが強く頷く。
 真っ直ぐ、揺るぎのない瞳。
 その瞳を見て、ルツは肩を竦めた。



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