上 下
78 / 93
3章

……縮まる

しおりを挟む


 余命が想定していたよりも縮んでいた事にアンジェは驚愕した。
 そんなアンジェに気づいたのか、ノーニアスは焦りを抱きつつも、今はアンジェを不安にさせてはいけないと、決して感情を表には出さないように頬を引き締める。


 「アンジェ。話してくれるかい…?」


 「っ…」


 ノーニアスが真剣な眼差しでアンジェを見つめる。

 そんな中ノーニアスはアンジェの中に渦巻く禍々しい気配に気付く。
 その気配がアンジェを取り巻き、そしてノーニアスを警戒している。

 だからノーニアスは躊躇った。
 アンジェに手を差し出すか否かを。


 魔法使いと魔導師は似ている様で似ていない。
 魔導師は攻撃魔法等を得意とする一方で、魔法使いとは言わば攻撃魔法等全くもってダメダメと称してもよいだろう。

 だからこそ、この禍々しい気配を相手に自分は足元にも及ばないとノーニアスは悟った。


 一方、アンジェの方は酷く鼓動が高鳴り、戸惑っていた。
 平然を装う為にと深呼吸をする。


 アンジェ自身、ノーニアスの事は勿論信頼している。
 だが、マモンの存在について話すつもりは一切無かった。
 
 何せ、マモンは言っていた。
 ルーンに知られたら凶暴な魔物達を食い止めている結界を解くと。
 ここ数年。魔物の大きな被害が出なかったのはマモンの張った魔法結界のおかげであり、その魔法結界が無ければ今頃王国も消滅していた可能性があっただろう。

 フローラにマモンの存在が知られてしまったのは避けては通れない道だったので仕方ないとアンジェは思っている。
 何せマモンの姿を完全にフローラが認知してしまったからだ。

 勿論、フローラにはマモンの存在については他者には秘密にするように口止めはしているが……。


 ノーニアスは最もルーンと近しい存在である。
 だからこそ、余計に正直に話す事なんて出来なかった。


 鎮まりかけていた胸の鼓動が、突然どくどくどくと早鐘を打ち始める。
 

 「……ノーニアス卿。占って欲しい事があるんですけど…いいですか?」


 突然のアンジェの要望にノーニアスは驚いた。
 なにせ眉間にシワを寄せ、頭を悩ませていたアンジェが突然そう言ったのだから。

 けれど、断るつもり等彼には一切無かった。


 「勿論。構わないよ」


 アンジェは親友の妻であり、大切な読者であって…こっそりと友人でもあると思っている。

 そんなアンジェの要望とあれば叶えよう、とノーニアスは胸元のポケットからカードを取り出した。


 「人探しをして欲しいんです」


 「なる程ね。じゃあ私の合図と共に目を閉じてその人物を頭の中で思い描いて欲しいんだけど、いいかな?」


 「…………深くは追求なさらないんですね」


 アンジェが静かに微笑む。
 そんなアンジェにノーニアスは愉快そうに笑った。


 「まだその時では無いようだからね。アンジェが話したくなった時に話してくれるかな?」


 「……ありがとうございます」


 そうアンジェが言うと、ノーニアスから合図が送られる。
 アンジェは目を閉じて、自分の専属医師のミルキーについて思い浮かべる。

 彼は中々変わった男だった。
 浮世離れした…と言う言葉が何よりしっくり来るだろう。

 そんなミルキーの事を色々と思い描いて行くと……


 「見えた」


 ノーニアスの声が聞こえ、アンジェは恐る恐ると目を開けた。
 そうすれば一枚のカードが紫色の光に包まれながら宙へと浮いていた。

 ノーニアスは静かに椅子から立ち上がると、そのカードを手に取る。
 そして


 「君の探し人は今……」


 そうルーンが言葉を紡ごうとした瞬間


 『久しぶりじゃないか、アンジェ』


 脳裏に過ぎる聞き覚えのある声。
 そんな声に弾かれるかのように後ろを振り向けば、そこには探し人であるミルキーが佇んでいた。





 


 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

彼が愛した王女はもういない

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。 どちらも叶わない恋をした――はずだった。 ※関連作がありますが、これのみで読めます。 ※全11話です。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

処理中です...