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3章
休憩時間
しおりを挟む「え!? もう在庫切れしちゃったの!?」
他の魔法道具の視察から戻ってきたフローラが空っぽになった箱を見てあんぐりと口を開ける。
元々素人の作った魔法道具なんてそこまで売れない、逆に作りすぎてしまった。とフローラは嘆いていたくらいだった。
だからあまりにも予想外な売上にフローラは驚きを隠せない様子でいる。
また、確かな手応えを感じたフローラは喜びに満ちた表情と期待に満ち溢れた瞳を輝かせながらアンジェへと抱き着く。
「アンジェ! まさかここまで上手くいくなんてね! って……大丈夫、アンジェ?」
「え、はい?」
「もしかして疲れてる? 休憩してくる?」
心配そうにアンジェの顔を覗き込んでそう尋ねるリアに、アンジェは首を横に振る。
「えっと…実はさっき知り合いと会ったの。それで少し話せないかって言われたんだけど……少し外しても大丈夫ですか?」
「勿論。何ならゆっくり休んでいらっしゃい」
「ありがとうございます」
アンジェはそう言うとぺこりと頭を下げて、人混みの中へと進んで行った。
フローラ達はそんなアンジェの姿を見送りつつ、何故か不安な気持ちに浸っていた。
今にも消えてしまいそうな小さな後ろ姿。
気づけばリアとフローラは駆け出していた。
「「アンジェ!」」
二人が叫ぶ。
しかし、もうアンジェの姿は何処にもない。
顔を見合わせると二人は苦笑を浮かべる。
「私達の方が余っ程疲れているのかもしれませんね…」
「そ、そうね…。店の裏で少し休みましょうか」
二人はそう自分の心に言い聞かせるように言うと、ベルの待つ店へと戻った。
その足取りは酷く重いものだった。
◇▢◇▢▢▢▢◇◇◇
「アンジェ。こっちだよ」
「あ、ノーニアス卿。すいません、遅くなりました」
フリーマーケット会場から出て直ぐの所にあるカフェのテラスにてノーニアスが一人で優雅にお茶を飲んでいた。
アンジェが慌てて駆け寄れば、ノーニアスは手入れの行き届いた綺麗なおかっぱの髪をなびかせる。
「全然構わないよ。寧ろ君を待っている時間はとても楽しいものだったよ!」
そう言う彼の手には『記憶のアルバム』が握られていた。
「早速使って頂いたんですね」
「ん? あー。中々興味深いなと思ってね。好奇心で早速試して見たのさ」
ノーニアスの手にある記憶のアルバム。
その魔法石が映し出した写真に、思わずアンジェは目を見張る。
「これ、もしかして学生時代の時ですか?」
「そうだよ。学生時代の私とルーンが楽しく戯れている瞬間のものだ」
戯れている…と言うよりは喧嘩していると言った方が当てはまるような気がした。
何せボロボロになった二人が取っ組み合いをしているのだ。
そんな光景をノーニアスは、懐かしいなと微笑ましそうに見るのでアンジェも不思議とその光景が微笑ましい様な気がしてきた。
「にしても素晴らしい魔法道具だね。製作者に是非とも話を伺たいところどけど…」
「あくまで私は売り子の立場なので製作者についてはお話出来ないんです」
「こればかりは仕方ないね。まぁ、久々に昔を思い出せて心踊ったし、私は大満足さ」
ノーニアスはそう言うと満面の笑みを浮かべて記憶のアルバムも袋の中へとしまうと、見覚えのある水晶玉を取り出し、テーブルの上へと置く。
思わずアンジェは少しだけ距離をとる。
「……で、これから本題に入るけどいいかい?」
「私の占い結果が悪かったこと…ですか?」
ノーニアスの表情が曇る。
眉を下げ、困ったような表情にも見えるのは恐らくアンジェに真実をハッキリと伝えるべきか否か迷っているのかもしれない。
「……まず最初に。私の占いは外れた事がまだ一度もない。けれど、今回ばかりは外れて欲しいと私は願っている」
ノーニアスは水晶玉に手をかざす。
そうすれば水晶玉の下に魔法陣が浮び上がる。その魔法陣が穏やかな光が溢れ出し、水晶玉を包み込む。
前に見せてもらった占いは何故か目の前で水晶玉を粉々にする、と言う何とも言い難い力強い占いだったが、今回は雰囲気も占いの仕方も正しく『魔法使い』でアンジェはドキドキと高鳴る鼓動を胸に水晶玉を見つめる。
それから少しして水晶玉に何かが浮かび上がってきた。
そこに映し出されたのは、ベッドに横になって眠るアンジェの姿。
その体には禍々しい文様があちこちにあり、アンジェの体を包み込む様に存在していた。
そしてそんなアンジェの周りにはルーンやリアを始めとした大切な人達が大粒の涙を零しながら、悲しみに浸っていた。
しかし、アンジェが一番驚いたのはそこでは無い。
窓の外の景色を見てアンジェは驚愕した。
「……これは何年後の未来なんですか」
震えた声でアンジェが問えばノーニアスが静かに答える。
「何年後なんかじゃない。もう目の前にまで迫ってきている未来だよ」
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