上 下
71 / 93
3章

フリーマーケットへ向けて

しおりを挟む



 「アンジェ。こんな時間にどうしたの?」


 「お仕事お疲れ様、お姉様。その…少しお話があって」


 アンジェの言葉にリアは表情を輝かせる。
 さっきまで疲労のあまりソファーに沈み込んでいた人物とは思えない程の変わりようである。

 リアは満面の笑みでアンジェを迎え入れる。
 二人は向き合うようにしてソファーに腰をかける。


 「ごめんね、急に押しかけちゃって」


 「全然大丈夫。それで話って?」


 「その……私が第一王女のフローラ様と親しくさせてもらっていることはお姉様も知ってるよね?」


 「勿論。知ってるけど…」


 「フローラ様がお姉様の手を借りたい…と仰っています」


 最初、フローラが自分以外の人間と関わりを持とうとし始めていることに驚いた。
 けれど、大きな成長に感じ取れてアンジェは大変嬉しかった。一歩ずつ着実にフローラは成長してきていると実感出来たから。


 「……私ね、フローラ様のこと何も知らないの。だからアンジェ。教えてくれない?」


 リアの言葉にアンジェはハッとする。
 そして暫く二人は見つめあった後、アンジェは大きく頷いてみせた。


 恐らくリアは純粋にフローラの事が気になってアンジェに尋ねたのだろう。
 フローラと言えば引きこもり、王家の恥……などなど様々な方面の悪い噂で持ち切りの少女だ。

 そんな王女様とアンジェが親しい間柄にある。
 純粋にリアはまだフローラの事を知らない。
 これを機にアンジェの知る本当のフローラの姿を知っておきたい…とリアは思ったのだ。


 それからアンジェはフローラの話をした。
 出会いとこれまであった出来事。
 カインへの想いは勝手に他者が話してよい事では無いので伏せたが、取り敢えず『努力』しているフローラの姿を話した。

 リアはその話を真剣に聞いた。
 だからこそ、リアはある答えを導き出した。


 「分かった。私に出来ることがあるなら協力するわ」


 「本当、お姉様!?」


 「勿論。明日、団長に話して時間を作ってもらうから」


 「あ、それならフローラ様が話を通してくれると思う。それに…今回の件は私の病気のことだからエミル団長は絶対に許可して下さると思う…!」


 エミルは自分に出来ることがあれば協力すると言ってくれた。今回の事も話せばきっと分かってくれるだろう。


 こうしてリアの協力を得ることに成功した。



 ▢◇◇◇◇◇▢▢▢



 翌日。フローラの部屋にて、リアは困惑した表情を浮かべていた。
 それも仕方ないだろう。
 何せ、今リアの目の前にあるもの。
 それは花瓶なのだから。

 困惑するリア。
 そんなリアにアンジェは言う。


 「ちょっとフローラ様は恥ずかしがり屋さんで……こちらは仮の姿になるんだけど」


 「アンジェ・グレジスの姉に当たりますリアと申します。宮廷専属魔導師団の一課に所属しております」


 「えぇ。知ってるわ。それで今回貴方の力を貸して欲しいのだけれど……この場にいると言うことは私に協力してくれるって事でいいのよね?」


 「はい、その通りでございます。それで…私の力を借りたいというのは具体的にどの様な事なのでしょうか?」


 リアの言葉にアンジェは頷く。
 アンジェもまたフローラがリアの手をどうして借りたいのか…その詳細は聞かされていないのだ。
 ただ思い当たる節はあると言えばある。


 それはルツがリアを気に入ってる…と言う事だ。
 とは言ってもルツがパーティーのひ以来リアにアプローチをしている場面はアンジェは見た事が無いので何とも言えないのだが。


  「来月に開催されるフリーマーケットに魔法道具を出品予定なの。その魔法道具作りのお手伝いをして欲しい訳だけど……このフリーマーケットは毎年、魔法道具師の石ころの集いとも裏では言われてるの」


 「「石ころの…集い?」」


 リアとアンジェの声が綺麗に重なる。


 「実はお兄様。毎年このフリーマーケットに足を運んでいるの。逸材を探す為にね。そしてごく稀にお兄様の目に止まってお兄様の商会へ勧誘するのよね。お兄様、石ころを宝石に磨く事が趣味みたいで……だからフリーマーケットは魔法道具師の石ころ達が集うの。だから石ころの集い」


 成程、とアンジェとリアは頷く。
 そして、フローラの考える作戦に二人は感づき、顔を見合わせる。


 「お兄様に勧誘を受けるくらい素晴らしい物を作って販売する。その為にもリア。貴方の力が必要なの」


 「私に出来ることならば全力でサポートさせて頂きます…!」


 「ありがとう、リア。お兄様は私のことを完全に見下してるわ。だからこそ、お兄様が羨むほどの魔法道具を作って、是非自分の商会で取り扱わせて欲しい! って思わせる物を作りたい。そして、その魔法道具の作り方を記したレシピと魔文の呪いについての情報を交換条件に取引する…って作戦よ」


 フローラの言葉にリアが横目でアンジェの様子を伺う。
 そんなリアの様子からアンジェは何となく察する。恐らくリアは、フローラの『ルツが羨む魔法道具』と言う言葉に引っかかったのだろう。

 アンジェからフローラの魔法道具師としての才能は聞いてる。しかし、ルツの魔法道具師としての才能は素晴らしいものだと言うこともリアは知っている。
 だからこそ、そんなルツが羨む魔法道具…なんて簡単に作れる様なものでは無いと思った。


 けれど、愛しい妹が助かる方法が分かるかもしれないのだ。
 可能性は低くても、その可能性に掛けよう。
 そして…低ければ、高くして成功へと持っていけば良いのだと。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

妹よ。そんなにも、おろかとは思いませんでした

絹乃
恋愛
意地の悪い妹モニカは、おとなしく優しい姉のクリスタからすべてを奪った。婚約者も、その家すらも。屋敷を追いだされて路頭に迷うクリスタを救ってくれたのは、幼いころにクリスタが憧れていた騎士のジークだった。傲慢なモニカは、姉から奪った婚約者のデニスに裏切られるとも知らずに落ちぶれていく。※11話あたりから、主人公が救われます。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...