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3章
記憶探し
しおりを挟む「……マモン?」
アンジェの問いにゆっくりとマモンが書庫へと姿を現した。
どうやらその姿はフローラとベルの瞳にもしっかり映っている様だ。
二人は突如現れたマモンの姿に目を見張る。
けれど、決して敵意を向けたりはしなかった。
禍々しい魔力をマモンから感じるも、アンジェの呟いた彼の名を呼ぶ声色から敵意を向けるべき対象では無いと二人は判断したのだろう。
「……エルフの言葉ってどうして分かったのか聞かせて貰えるかしら?」
『……』
黙り込むマモンに不自然さを覚え、今度はアンジェが尋ねる。
「何か……思い出したの?」
『いや、気付いたら勝手に口が動いてた……』
どうやらマモン自身が自分が口にした言葉に驚いているらしい。
アンジェはそんなマモンを心配する様な……穏やかではいられない様子の視線を向けている。
前に記憶が蘇りそうになり苦しむマモンの姿を見たからだろう。
「……それで、アンジェ。そいつは一体何なの? 魔文の呪いと同じ様な魔力を感じるけど…」
「その、彼はマモンと言って魔文の呪いの原因なんです」
アンジェの視線が泳ぐ。
マモンを擁護したい。
けれど、その場合少なからずフローラに嘘を告げなければいけない可能性がある。
ただでさえ余命の事を正直に告げていない事に良心が傷んでいるのだ。
ここで更に嘘を着くことになれば、更に良心が痛む事になるだろう。
「……アンジェの患ってる魔文の呪いって私の知る魔文呪いとはかなり違う様に思えるの。もしそうだとしたら私の知る限りの知識じゃ貴方の病を治す為には何の手助けにもならないでしょうね…」
そうフローラは悔しそうに唇を噛み締める。
アンジェは自分の為にとこれまで沢山手を貸してくれた。助けてくれた。支えてくれた。
そんなアンジェの為に自分に出来ることは何か無いのかとフローラは考えた。
けれど、何も無いのだと気付き、フローラは悔しさでいっぱいになっている様子である。
そんなフローラに声を掛けたのは意外な人物であった。
『ボクの記憶を取り戻せたらアンジェの中から出て行く契約をしてる』
マモンの言葉にフローラは俯かせた顔をゆっくり上げた。
まさか彼自身からこの話を持ち出すとは思っておらず、アンジェは面食らう。
「記憶って…?」
「実は彼、記憶喪失なんです。ずっと封印されていて……その封印される前の記憶を取り戻せたら私の体から出て行く……と三年前に契約を交わしたんです。それから私は彼の記憶を取り戻す手掛かりを探す為に宮廷図書館司書になりました。ここになら沢山の歴史書がありますから何か手掛かりがあると思って」
「成程ね。じゃあ……一つ手掛かりがあるわ」
フローラはそう言うとニッと白い歯を見せて微笑んだ。
そしてアンジェの元へと寄ると、白くて細いその手をとり、告げた。
「兄が魔文の呪いの研究をしてるの。だから兄の研究室に行って研究の結果を洗いざらい吐かせましょう!」
「え、でも……その」
「私もあの人の事大嫌いだし、何なら一生顔を合わせたくないわ。そしてアンジェは私が原因でお兄様と気まずいのは十分承知してる。けど、私にいい考えがあるわ…!」
自信ありげな様子のフローラ。
そんなフローラに、アンジェは首を傾げる事しか出来ない。
フローラのアンジェを見つめる真っ直ぐで穏やかな瞳。
その瞳には強い思いが感じとれた。
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