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3章
次の目標
しおりを挟むルツ主催のパーティーから早くも二ヶ月の時間が過ぎた。
季節は春から夏へとと移り変わり初め、太陽の輝きが更に増し、日に日に猛暑日になる今日この頃。アンジェはフローラの部屋にあったある本を見て呟いた。
「……海、いいですね」
アンジェの言葉にフローラがニッと微笑んだ。
「知ってるかしら? 泳ぐのってかなりの良い運動らしいわよ!」
「痩せるには泳ぐのが一番って言いますよね。けど海に行くなら必然的に外ですし……」
海特集と見開きに大きく書かれた冊子を閉じ、あまり海に乗り気では無い様子のアンジェにフローラは首を傾げた。
けれど、それが直ぐに自分への気遣いなのだと悟り、フローラは大きく胸を張って言った。
「心配してくれてありがとう。けど、そろそろ一歩踏み出してもいい頃合いかと思うの」
まだ誰も起きていない様な時間、また誰もが寝静まった夜などにフローラはこの二ヶ月間、外に積極的に出て、黙々と運動をし続けて来た。
その努力もあって、フローラは二ヶ月前に比べてお腹の脂肪が随分と無くなっていた。また、体も引き締まり、体のラインがハッキリと分かるようにもなっていた。
食事制限と適度な運動。
そして、投げ出していた勉強。
最初フローラは何度も逃げ出しそうになった。
けれど、自分を応援してくれるアンジェとベルの存在に励まされながら、日々努力を積み重ねてきた。
「ねぇ、アンジェ。実は私、今度開かれるフリーマーケットに私の作った商品を出品してみようかと思っていんだけど……どうかしら?」
「確か一ヶ月後に開催されるフリーマーケットですよね? 良いと思いますよ。王都で年に一度開催されるこのフリーマーケットには掘り出し物が沢山出品されると多くの人が訪れますし、何ならフローラ様の素晴らしい魔法道具を宣伝する絶好の機会かと」
「アンジェは私の魔法道具を絶賛しくれるわよね…。嬉しいけどむず痒いわ」
「私は魔法道具についてあまり詳しくないので的確な感想を伝えられているかは不安ですけど…確実にフローラ様の作る魔法道具は日に日に素晴らしい物へとなっている事は確かですよ」
アンジェはそう言うと、壁に立て掛けられていた箒を手に取った。
一見普通の箒の様に見えるが、実はこれは魔法道具である。
空飛ぶ箒。
それは物語の定番とも言えるだろう。
そんな空飛ぶ箒に憧れる子供は多いだろう。
そこでフローラは、空飛ぶ箒を創り出した。
移動手段が限られたこの世の中。
空飛ぶ箒…それは一見誰もが思い付く様な発想ではあるが、いざ制作してみようなど誰も考えた事はなかった。
なにせ、箒から転落したら複雑骨折愚か下手したら命を落とす可能性もあるからだ。
……なんて事は一切関係無く、ただ単に空飛ぶ箒を制作出来る者が居なかったのだ。
「空飛ぶ箒なんてまだ誰も作ったことが無い代物だって、フローラ様が一番ご存知じゃないですか」
「まぁね。けど……少し心配な事があってね。その…アンジェ。私の頼みを聞いてくれない?」
「私に出来ることなら」
「ありがとう。実はね、この箒を作ったまでは良いのだけれど…その実は私は高いのが苦手で…だから被験者を探しているんだけど……」
「そういう事なら私が被験者になりますよ」
アンジェの言葉にフローラが分かりやすい程表情を明るくさせた。
そしてアンジェの手を取り、ギュッと強く握り締めた。
「ありがとう…! 本当にありがとう…!!」
涙まで流して喜ぶフローラ。
後にフローラはかなりの高所恐怖症だとい事が発覚する訳だが……。
(自分じゃなくて他者の事を思いやって作られているフローラ様の魔法道具……やっぱり素敵だな)
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