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2章
覚悟しなさいっ!
しおりを挟む「アンジェ、ドレスとっても似合ってるわ!」
ルツ主催のパーティー会場にて、リアがアンジェのドレス姿を見るなりうっとりと頬を赤らめて魅入っていた。
今回もまたリアが選んだドレスに身を包んでいるアンジェ。
今回のドレスもまたリアが選んだものだ。
淡い黄色のドレス。
フリルいっぱいの愛らしいデザインのものだ。
そんなアンジェの胸元には水色の宝石のネックレスが輝いている。
「せっかくのパーティーをアンジェと過ごせないのは本当に辛いけど……仕事だから仕方ないわよね」
自分に強く言い聞かせる様にそうリアが言うと
「やぁ、リア。君にまたこうして会えて嬉しいな。けど、眉間にシワが寄っているよ。綺麗な顔が台無しじゃないか」
そう言ってニコリと優しい微笑むルツの姿がそこには会った。
あからさまにリアの表情が引き攣る。
そんなリアの様子に気づいていながらも、ルツは続ける。
「今日は護衛を引き受けてくれて嬉しいよ」
「……私もルツ殿下の護衛役を任せられ、大変光栄に思っております」
淡々とそう告げるリアに、アンジェとリディスは不安になる。
いくら嫌いな相手とは言え、相手は王太子だ。
怒りを買えば、行き着く先は容易に想像が出来る。
「グレジス夫人」
「は、はい…」
突然名前を呼ばれ、アンジェは驚く。
彼に苦手意識が無いと言えば嘘になるだろう。
けれど、アンジェが今日こうしてパーティーへと出席したのには勿論、グレジス夫人として…もあるが、あと一つ大きな理由があった。
「今日、フローラは出席しないのかな?」
(うっ……。やっぱり来た)
アンジェは平常心を装いながらルツの瞳を見つめる。
アンジェがこのパーティーへと出席した大きな理由。それは昨日に遡る。
昨夜、アンジェはフローラの事が心配になり彼女の部屋へとネックレスの力で訪れた。
『フローラ様!』
『アンジェ…!? こんな時間にどうしたのよ!?』
突然のアンジェの訪問に、フローラは酷く困惑していた。
けれど、直ぐにアンジェは自分を心配して駆けつけてくれたのだと悟り、フローラは微笑んだ。
それから二人はバルコニーで暫くの間、話をした。
今日はやけに夜風が冷たかった。
二人は一枚のシーツを被って、空に浮かぶ月を見上げる。
『私、パーティーには出ない事に決めたの』
『はい』
『……責めないの? 私、逃げようとしているのよ』
『責めるわけないじゃないですか。それに…それは逃げではなく、戦略的撤退ですよ』
アンジェの言葉にフローラは大きく頷いた。
みるみるうちに、フローラの瞳に涙が溜まり、零れ落ちていく。
アンジェはフローラが落ち着くまで、黙って傍で彼女に寄り添った。
『……私決めたわ』
『フローラ様?』
暫くしてフローラが意を決したかのようにそう言った。
目元が赤く腫れたフローラ。
微かに震える声で、彼女は精一杯の声を振り絞って言ったのだ。
「『十七歳の誕生日パーティーを私は主催する』」
アンジェの身につけていたネックレスからフローラの声でそうハッキリと言われた言葉にルツは目を大きく見開いた。
今回、アンジェがパーティーに出席した大きな理由。
それは、ルツにこの言葉を伝える為であった。
フローラの誕生日。
それはまだあと半年以上も先ではあるが、人を避け続けてきたフローラが、自らパーティーを開く、と宣言したのだ。
ルツは酷く困惑していた。
それと同時に酷く焦りも感じ始めた。
本当にフローラは変わろうとしているのかもしれない、と。
(フローラ様の誕生日を迎える前に私の誕生日が来る。……余命まであと二年になる訳だけど……この様子じゃ魔文の呪いのことを教えてくれる訳無いよね)
アンジェは目の前に立つルツを見て諦めきった様子で肩を落とした。
なにせ、ルツはアンジェをそれはそれは険しい顔つきで睨み、怒りに燃えているのだから。
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