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2章
綺麗な女性になる為に
しおりを挟む翌日。
今日もまた、アンジェはフローラの部屋へと訪れていた。
ベルによって準備されたお茶を飲みながら、イリスの入れるお茶を恋しく思った。
「フローラ様。今日はとある作戦を持ってまいりました」
「あら? 聞かせていただける?」
優雅に紅茶を飲むフローラ。
その様子は絵になるほど美しい。
やはり王族というべきか。
一つ一つの動作が大変美しいのだ。
「それは……美しい女性になろう大作戦ですっ!」
「成程。で、内容は?」
「私、思ったんです。変な噂を吹き飛ばす様な存在にフローラ様がなればそのうち噂は消えるのではないかと。所詮、噂は噂です。真実でなければ、そんなの気にせずに堂々としているべきだと思いました」
「アンジェって…その、可愛らしい見た目に反して勇ましいわよね…」
「あ、すいません。出過ぎた真似を…」
「責めている訳じゃないわよ!? ただ、かっこいいなと思っただけ。……アンジェが言ったような存在に私はなれるかしら?」
今にも不安に押しつぶされそうなフローラに、アンジェはニコリと微笑む。
こうして自分も息苦しい世界で生きていた事があるアンジェだからこそ、今のフローラの苦しみがよく分かった。
息苦しい世界。
そんな世界から連れ出してくれた存在、または傍で支えてくれた存在がアンジェにはいた。
そんな存在に…今度は自分がなろう。
「大丈夫ですよ。フローラ様、どうか自分を信じてあげてください。それに…私も全力でお手伝いします。だから二人で頑張りましょう!」
アンジェの言葉にフローラは強く頷いた。
そらからアンジェによる「美しい女性になろう大作戦」が決行された。
「まず、部屋を綺麗にしましょう!」
掃除道具を手に持ち、エプロンとマスクを身につけたアンジェ。
そんなアンジェの後ろにはベルの姿もある。
「え、そ、掃除!?」
「心をスッキリさせる為にまずは部屋の掃除をしましょう! 見た限りフローラ様のお部屋はその…」
「ゴミ屋敷です」
ベルがハッキリとズバリと告げた。
フローラの自室は一見美しい部屋のように見受けられる。
アンジェもまた最初はそう思っていた。
しかし、クローゼットを開ければ魔法道具の雪崩が起き、また部屋の隅にもまた魔法道具が寄せ集められている。
「部屋もカーテンを閉め切っているせいで薄暗いですし、何より古いです。それに部屋はごちゃごちゃ。これを機に部屋の家具を変えたりして心機一転しませんか?」
「そうね。部屋の乱れは心の乱れ…とも言うものね。そうと決まったら部屋を綺麗にして大工屋を呼びましょう! それとアンジェ、貴方、かなり賢いと聞いたわ。良ければだけど、私の家庭教師をしてくれない?」
「私に出来る範囲でならば全力でご指導させて頂きます。ですが、何故家庭教師なのでしょうか?」
アンジェが首を傾げれば、フローラは少し申し訳無さそうな…そして居心地が悪そうな様子で答えた。
「魔法学は得意なんだけどその他が駄目なの。篭ってからはずっと魔法道具を作っていたし…」
「そういう事ならばお任せ下さい。精一杯家庭教師を務めさせて頂きますね」
「ほんと、頼もしい存在ね…」
「お褒めに預かり光栄です。…という事で、早速掃除に取り掛かりましょう! カーテンは開けて窓は全開にしますよ! 部屋の家具等は収納ボックスに入れて、部屋に何も無い状態にしたら上から下へと掃除をしていきましょう!」
アンジェの言葉にフローラとベルは大きく頷く。
フローラの作った魔法道具の収納ボックス。
それは生命のある物以外のあらゆるものを収納出来てしまう優れものだった。
部屋の家具は魔術人形のベルにとってあっという間に収納ボックスへと収納された。
恐るべき怪力である。
部屋は一瞬にして何も無いスッキリとした部屋へと変わった。
お姫様に箒や雑巾を使わせるのは申し訳無さを強く感じたが、これはダイエットに繋がる運動を含んでいる。
「……動くのって…こう、かなり…疲れるわね…」
掃除を初めて一時間ほど経過した頃、雑巾がけをしていたフローラが言った。
白い頬に汗が伝い、そのままポタリと床へとこぼれ落ちる。
息を切らし、肩で息を整えるフローラはかなりキツそうに見える。
「フローラ様。お疲れなら休んでも構いませんよ?」
ベルの言葉にフローラは首を振る。
「いいえ! このまま白豚なんて嫌だもの!! 私はもう一度カインの横に立つ事に相応しい素敵な女性になるのっ! だからまだまだ頑張るわよっ!!」
フローラはそう言うと、雑巾がけを再会した。
強く燃えるフローラの心。
ベルはとても嬉しそうにフローラを見つめている。
ずっと傍でフローラを見ていたからこそ、フローラの心境の変化に喜びを感じているのだろう。
一方のアンジェは、そんなフローラの姿を見て胸が締め付けられる思いに駆られた。
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