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2章

体の異変

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  週に二回開催されるルーンとのお茶会。
 今まであまり話す機会の無かった二人の距離がグンっと縮まった理由は正にこのお茶会である。
 その日はアンジェにとって大変楽しみなイベントなのだが、残念ながら今日は中止となってしまった。
 理由は急遽入ったルーンの仕事である。
 前よりも仕事は減ったとはいえ、相変わらず忙しそうなルーン。ブラック過ぎるのでは? と思う事もまだ有るし、アンジェはルーンが体調を崩さない事を祈るばかりである。

 アンジェの図書館司書としての仕事はお昼から。
 けれど家に持ち帰った本の修繕の仕事に取り掛からなくてはならない。


 「奥様。お茶の準備が出来ました」


 「ありがとうございます、イリス」


 「お仕事中かと思いますが、先程からずっと作業をしていらっしゃるので気になって……。無理はなさならないで下さいね」


 イリスは一礼すると、テキパキとお茶を素早く準備するとアンジェの仕事の邪魔にならないようにと部屋を後にした。

 どうやらアンジェの体調を気にしてくれていたらしい。
 イリスの優しさに感謝しつつ、アンジェがお茶を口に運ぶ。


 「流石イリスの入れたお茶ね。凄く美味しい」


 アンジェはほんのりと頬を赤く染める、

 口に広がる甘い紅茶の味。
 最初は意地を張って砂糖無しで紅茶を飲んでいた事を懐かしく思った。

 持ち帰った本の修繕をしていると、ふと左腕にズキリと痛みを感じた。

 アンジェは嫌な予感を覚え、恐る恐ると指輪を外し、左袖をめくった。
 そうすれば、禍々しい文様がまるで茨の様になり、アンジェの細く白い腕をグルグルと囲っていた。


 「カハッ……」


 そして次の瞬間、アンジェは口から血を吐き出していた。
 体の中に渦巻く魔力が暴れている。
 左腕が動かせない……。


 「……これが体を蝕まれていくってことか」


 一向に動いてくれる気配の無い左腕にアンジェは小さく息を吐いたあと、平常心を装いながら再び仕事に取り掛かった。




 ▢◇▢◇◇◇◇▢▢▢▢




  「此処が……歴史書。と、とにかく本がた、たくさん有るから…その、覚えるの大変だと思うけど……グレジス夫人ならきっと、だ、大丈夫…かと」


 「あの、シオさん。仕事仲間になったんですし、グレジス夫人では無くアンジェと呼んで下さい」


 「え、でも…!?」


 「無理強いはしませんが、カイトさんとイチカさんも私をアンジェと呼びます。それって仕事は仕事だと割り切っているからだと思うんです」


 アンジェがそう言って微笑めば、シオは困ったような顔をした。

 シオは平民だ。
 それに比べてアンジェは公爵夫人。
 そんなにも馴れ馴れしく名前を呼んでいいものなのかと不安になった。

 けれど、こんな根暗な自分にこうして微笑み掛けて気遣ってくれているアンジェを突っぱねる様な真似がシオに出来るわけも無く、恐る恐ると言葉にした。


 「……ァ、アンジェさん」


 「何なら愛称のアンでも良いんですよ?」


 「さ、さすがに恐れ多いですよっ!!」


 シオがあたふたと焦った様子で言うので、アンジェはおかしくなってつい笑ってしまった。

 それから二人は本棚の整理をしながら、世間話に花を咲かせた。
 シオはかなりの口下手だが、アンジェの話にしっかり受け答えをしてくれるし、何なら的確なアドバイスもしてくれた。

 脚立に乗りながらアンジェは本棚に本をしまっていく。
 その時、左手に強い痺れを感じで本を床へと落としてしまった。

 顔が青くなるアンジェ。 
 そんなアンジェの元へとシオが駆け付け、落ちた本を拾う。


 「だ、大丈夫です、か?」


 「……すいません。手が滑ってしまいました。その、本は大丈夫でしょうか?」


 「あ、本は大丈夫ですけど……アンジェさん、その顔色が悪いですよ? だ、大丈夫…ですか?」


 「大丈夫ですよ。ご心配をおかけしてすいません」


 アンジェはニコリと笑ってみせた。
 シオに心配をかけない様にと。


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