34 / 93
1章
姉妹Ⅰ
しおりを挟む伯爵が魔法を使うことの出来ない娘に対して魔法を使い、殺害しようとしたという話は一気に王都中へと広がった。
アンジェの父親は身柄を確保され、勿論貴族としての地位は失った。それはアンジェも同様であった。
母親は実家へと強制送還された。
結局、彼女は謝罪の言葉など何も言わず実家へと帰って言ったが、別に良かった。
なぜなら……
「アンジェ…!」
「お姉ちゃん!」
大好きな姉と漸く会えたからだ。
アンジェは早速リアを部屋へと案内する。
リアは学院の長期休暇に入り、久々に母国へと帰省していた。これまでは両親によって帰省は許可されていなかった為、久しぶりに帰省する母国に、リアは胸を高鳴らせていた。
大きなトランクを持ったリアはそのトランクを部屋の隅に置くと、少し畏まった様子で言う。
「アンジェが公爵夫人だなんて……。何だか遠い存在みたいね」
「そんな事ないよ! 私はお姉ちゃんのよく知るアンジェだよ!」
慌ててアンジェは落ち込むリアを慰める。
悲しむリアの姿は見たくない。
優しくて大好きなリアには、いつでも笑顔で居てもらいたい。
必死に昔と今の自分は何の変わりもない事を説明するアンジェ。手をばたつかせ、必死なせいか語彙力の無い説明。
そんなアンジェに思わずリアは吹き出した。
「わ、私はおかしなこと言った…?」
少し不安そうなアンジェ。
まるで小動物の様に愛らしくてリアの頬がニヤける。
久々に会ったアンジェは昔と変わらずとっても愛らしい子だった。
自分の為に必死になる姿。
焦ると手をばたつかせてしまう癖も、不安げにこちらを見つめる瞳も何もかも変わらない。
リアは優しくアンジェの頭を撫でる。
「ほんと、可愛いわね。アンジェは」
「お姉ちゃんに撫でてもらうの久々で…なんだか凄く嬉しいな」
こうして撫でてもらうのも久々で、子供っぽいと分かっていても今だけは……と自分に素直になろうと思った。
リアの肩に寄り掛かり、アンジェは瞼を閉じる。
優しい姉の香り。
それは本当に懐かしくて、心が穏やかになる。
またこうして姉と会えた事が嬉しくてアンジェの頬に笑みが浮かぶ。
「そう言えばお姉ちゃん。学校はこれからも通えるの?」
「うん。ミルキー先生が後ろ盾になってくれる事になってる。だから心配しなくても大丈夫よ」
ミルキー先生とは、アンジェの家で雇われていたアンジェ専属の医師でリディスの師匠である。
そんな彼がリアの後ろ盾になると言う事に、アンジェは感謝しつつも安堵していた。
聞いた話によるとリアは成績優秀、容姿端麗。そんな彼女を養子に来て欲しいといった声掛けは多くあったそうだ。
そんな中、リアがまだ幼かった頃からよく知っているミルキーが後ろ盾となる事を申し出てくれたらしい。
リアとしても学院を退学せずに済んだことはとても嬉しい限りなのだが……
「やっぱり先生、私のこと子供としか思ってないよね…」
虚ろな瞳のリア。
今にも魂が出てきそうなリアに、慌ててアンジェは慰めの言葉を掛ける。
実はリアの想い人とは、ミルキーなのである。
しかし、ミルキーはリアの想いに気づいているものの、一向に答えを出さずはぐらかしてばかりなのだ。
(先生のことは尊敬してるけど、お姉ちゃんを見向きもしない先生って男性としてどうなのっ!)
アンジェはヤケになって用意されたマフィンにかぶりついた。
それから二人はこれまで話せなかった時間を埋めていくかのように沢山話をした。
空いてしまった時間を埋めることは出来ないけど、楽しそうに笑う二人はとても幸せに満ちている様だった。
日が落ち、夜になった。
リアはアンジェの部屋のベッドで共に眠ることとなった。
肩を並べ、二人は微笑む。
アンジェは隣で微笑むリアを見て、唇を噛み締める。そして、拳に力をギュッと込めた後、意を決する。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「なぁに?」
「……私、あと六年で死んじゃうんだ」
アンジェの言葉にリアの目が大きく見開かれた。
41
お気に入りに追加
3,057
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
【完結】愛してるなんて言うから
空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」
婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。
婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。
――なんだそれ。ふざけてんのか。
わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。
第1部が恋物語。
第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ!
※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。
苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。
たろ
恋愛
幼馴染のロード。
学校を卒業してロードは村から街へ。
街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。
ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。
なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。
ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。
それも女避けのための(仮)の恋人に。
そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。
ダリアは、静かに身を引く決意をして………
★ 短編から長編に変更させていただきます。
すみません。いつものように話が長くなってしまいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる