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1章

姉妹Ⅰ

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 伯爵が魔法を使うことの出来ない娘に対して魔法を使い、殺害しようとしたという話は一気に王都中へと広がった。
 アンジェの父親は身柄を確保され、勿論貴族としての地位は失った。それはアンジェも同様であった。
 母親は実家へと強制送還された。
 結局、彼女は謝罪の言葉など何も言わず実家へと帰って言ったが、別に良かった。
 なぜなら……


 「アンジェ…!」


 「お姉ちゃん!」


 大好きな姉と漸く会えたからだ。


 アンジェは早速リアを部屋へと案内する。
 リアは学院の長期休暇に入り、久々に母国へと帰省していた。これまでは両親によって帰省は許可されていなかった為、久しぶりに帰省する母国に、リアは胸を高鳴らせていた。

 大きなトランクを持ったリアはそのトランクを部屋の隅に置くと、少し畏まった様子で言う。


 「アンジェが公爵夫人だなんて……。何だか遠い存在みたいね」


 「そんな事ないよ! 私はお姉ちゃんのよく知るアンジェだよ!」


 慌ててアンジェは落ち込むリアを慰める。
 悲しむリアの姿は見たくない。
 優しくて大好きなリアには、いつでも笑顔で居てもらいたい。

 必死に昔と今の自分は何の変わりもない事を説明するアンジェ。手をばたつかせ、必死なせいか語彙力の無い説明。
 そんなアンジェに思わずリアは吹き出した。


 「わ、私はおかしなこと言った…?」


 少し不安そうなアンジェ。
 まるで小動物の様に愛らしくてリアの頬がニヤける。

 久々に会ったアンジェは昔と変わらずとっても愛らしい子だった。
 自分の為に必死になる姿。
 焦ると手をばたつかせてしまう癖も、不安げにこちらを見つめる瞳も何もかも変わらない。

 リアは優しくアンジェの頭を撫でる。


 「ほんと、可愛いわね。アンジェは」


 「お姉ちゃんに撫でてもらうの久々で…なんだか凄く嬉しいな」


 こうして撫でてもらうのも久々で、子供っぽいと分かっていても今だけは……と自分に素直になろうと思った。
 リアの肩に寄り掛かり、アンジェは瞼を閉じる。
 優しい姉の香り。
 それは本当に懐かしくて、心が穏やかになる。
 またこうして姉と会えた事が嬉しくてアンジェの頬に笑みが浮かぶ。


 「そう言えばお姉ちゃん。学校はこれからも通えるの?」


 「うん。ミルキー先生が後ろ盾になってくれる事になってる。だから心配しなくても大丈夫よ」


 ミルキー先生とは、アンジェの家で雇われていたアンジェ専属の医師でリディスの師匠である。
 そんな彼がリアの後ろ盾になると言う事に、アンジェは感謝しつつも安堵していた。

 聞いた話によるとリアは成績優秀、容姿端麗。そんな彼女を養子に来て欲しいといった声掛けは多くあったそうだ。
 そんな中、リアがまだ幼かった頃からよく知っているミルキーが後ろ盾となる事を申し出てくれたらしい。
 リアとしても学院を退学せずに済んだことはとても嬉しい限りなのだが……


 「やっぱり先生、私のこと子供としか思ってないよね…」


 虚ろな瞳のリア。
 今にも魂が出てきそうなリアに、慌ててアンジェは慰めの言葉を掛ける。
 実はリアの想い人とは、ミルキーなのである。
 しかし、ミルキーはリアの想いに気づいているものの、一向に答えを出さずはぐらかしてばかりなのだ。


 (先生のことは尊敬してるけど、お姉ちゃんを見向きもしない先生って男性としてどうなのっ!)


 アンジェはヤケになって用意されたマフィンにかぶりついた。


 それから二人はこれまで話せなかった時間を埋めていくかのように沢山話をした。
 空いてしまった時間を埋めることは出来ないけど、楽しそうに笑う二人はとても幸せに満ちている様だった。


 日が落ち、夜になった。
 リアはアンジェの部屋のベッドで共に眠ることとなった。
 肩を並べ、二人は微笑む。

 アンジェは隣で微笑むリアを見て、唇を噛み締める。そして、拳に力をギュッと込めた後、意を決する。
 

 「ねぇ、お姉ちゃん」


 「なぁに?」


 「……私、あと六年で死んじゃうんだ」


 アンジェの言葉にリアの目が大きく見開かれた。






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