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1章

仮面の君Ⅰ

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 パーティ開始まで残り十五分。
の頭痛を感じながら、部屋でアンジェは緊張と戸惑いで頭がいっぱいになっていた。

 イリスがアンジェの部屋へと訪れるなり告げたのは、ノーニアスのエスコートによって登場するはずだったパーティが、急遽予定変更となり、違う方がエスコートにする事になったというものだった。

 その相手の名前は、ライアーと言い、ノーニアスの学生時代の後輩であり、現在は実家に戻り、家業を手伝っている…と言う人物らしい。
 すっかりノーニアスとは打ち解け合っていた為、彼のエスコートでなら緊張しないと安心していた為、突然の変更はやはり戸惑った。しかし、急な仕事が入ってしまったらしいので我儘は言えない。


 魔文の呪いの文様を隠す為に身につけている指輪をもう一度しっかり指にはめ、アンジェはライアーの訪れを待った。


 そして数分後、扉をノックする音がした。
 恐らくライアーだろう。アンジェが返事をすれば、扉が開き、明るい茶色のの髪と灰色の瞳をした男性が現れた。しかし、顔はしっかりと見れない。何故ならライアーは、目元を隠す仮面をつけていたからだ。

 しかし、その姿を見た瞬間、アンジェは心の底から一気にとある感情が溢れ出した。
 顔もハッキリ覚えていない、そんな相手ではあるが、なぜか彼なのではないか…とそう強く本能がそう言ったのど。


 「初めまして、グレジス夫人。私はグレジス公爵の後輩にあたるライアー・ハーフルと申します。ノーニアス……センパイが急用が入ってしまったらしく、私がセンパイの代理としてエスコートをする事となりました」


 深々と頭を下げるライアー。
 アンジェもまた淑女の挨拶をする。
 その表情は嬉しさで溢れている。


 「アンジェ・グレジスと申します。急なこととは言え、エスコートを引き受けてくださりありがとうございます。えっと…それで私の勘違いでしたらすいません。あの、以前国王様主催のパーティでお会いしましたよね?」


 アンジェの言葉にライアーは驚いた様な顔をした後、白い歯を見せて笑った。


 「まさか覚えていらっしゃったとは……。なにせ何処にでも居るようなこんな平凡な男を」


 「あまり自分をそう卑下しないで下さい。フェルセフ卿が仰っていましたよ。魔法剣士としてかなりの腕前だと」


 「そんな…! 私の剣の腕前なんて全然ですよ」


 「では今度、機会があったら見せてください」


 「グレジス夫人の望みならば」


 二人は少し世間話に花を咲かせた後、パーティ会場へと向かった。

 アンジェが仮面の事を問えば、肌が弱いらしく、仮面を付けているとのこと。
 雰囲気と言い、容姿といい…どこかミステリアスなライアーにアンジェは内心ドキドキしていた。

 なにせ、ライアーは、昔自分に優しく歩み寄ってくれた相手だ。ドキドキしない方がおかしい。
 アンジェはまるで自分がロマンス小説の中のヒロインのような…そんな運命の再会をしたような気がしていた。


 パーティ会場へと繋がる扉の前に来ると、ライアーから手を差し伸べられた。
 その手をアンジェは取る。
 こうして男性と手を繋ぐのは初めてで内心緊張している。しかし、それを悟られてはならないとアンジェは笑みを作る。

 本当はパーティ自体慣れていない。
 自慢の姉のリアだが、パーティに行くと彼女とどうしても自分を比べてしまっていた。そして魔法が使えない事に対して陰口を散々囁かれて、時には嫌がらせも受け、心身共に酷く苦しくて仕方なかった。

 だからアンジェはパーティが嫌いだった。
 いつも挨拶を済ませたら、逃げる様に会場を後にしていた。

 けれど…今回のパーティの主役はアンジェである。
 今までの様に逃げることは許されない。


 「そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ。私が貴方をしっかりとエスコート致します。それに、貴方はとても美しい。だから堂々と自信を持って」


 優しい声色で…まるで背中を押すような…そんな言葉にアンジェは小さく頷く。

 緊張と恐怖が確かにあった。
 しかし、それらの感情は気付けば消え去っていた。

 扉が開かれ、二人は会場へと入る。
 その途中、アンジェは小声で呟いた。


 「初めて会った時、貴方は凄くぶっきらぼうな態度と話し方でしたよね。だからでしょうか。何だか今はむず痒いです」


 アンジェの言葉にライアーは乾いた笑みを浮かべる。もしかしたらあまり触れられたくない過去なのかもしれない。

 二人が会場へと入れば、会場がざわめいた。

 初めて社交界に現れたグレジス公爵の妻の姿に、皆目を奪われた。
 手入れの行き届いた亜麻色の髪。
 淡い黄色の瞳はまるで宝石のように輝いてみてる。そして何より色白の肌に栄える薄水色のドレスは、まだ十二歳の少女とは思えない程に彼女を艶やかに映させた。

 皆、ちょっとした好奇心でこのパーティへと参加していた。
 中々婚約者も決めなければ、縁談も全て断り続けていたルーンが迎えた相手。しかも、幼い少女と来た。一瞬、ルーンには幼女趣味が有るのかと誰もがそう思ったが、それは間違いだったとその場にいた誰もが思った。


 アンジェは成長したら今以上に美しく、可憐な乙女へと成長するだろう。きっとルーンは、彼女に目をつけていたのだと。




 
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